にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 7

 創志は、神楽屋との戦いからここまでの経緯――仮面の集団は光坂を倒せば止まると推測したこと、宇川、神楽屋、切、ジェンスが仮面の集団を引きつけるために残ったこと、光坂とレビンは前部甲板にいることをセラに伝える。
 セラは、信二と入れ替わりでリソナが現れたこと、ティトがリソナを退け、行動を共にすることなったことを教えてくれた。
「この食堂は、ちょうど貨物船の中腹にあります。ここから艦首側の甲板に向かうとなれば、当然敵は待ち構えているでしょう。洗脳された仮面の連中か、あるいはリソナのようなサイコデュエリストか……」
「どちらにしろ、交戦は避けられないか」
 ティトやリソナがこれ以上戦うことは難しいだろう。セラの言葉を信じるならば、彼の力も消耗しているため、過度に頼ることはできない。
 ――俺が戦うしかない。
 宇川には「光坂を倒すために力は温存しておけ」と言われたが、それを守っていられる状況ではない。残り時間がどれだけあるのかは分からないが、どんな敵が立ちはだかろうと最速で突破し、光坂の元へ辿り着かなければならない。
 そう考えていたときだった。
「……ひとつだけ、大幅なショートカットができる方法があります。大きな危険を伴いますがね」
 創志の考えを見透かしたかのように、セラが呟いた。
「本当かよ!?」
「はい。先刻、あなたたちを<天魔神ノーレラス>の攻撃から退避させた、テレポーテーションです」
 テレポーテーション――創志たちが休憩室から神楽屋のいた倉庫へと一瞬で移動したアレだ。そういえば、宇川はセラがやったようなことを言っていた。
「そうか! ソイツで甲板まで瞬間移動すれば――」
「苦もなく目的地まで辿りつけるというわけです」
 もたらされた光明に、創志は気持ちが昂ぶっていくのを感じる。
「……でも、危険って?」
 ティトの追及に、セラは目を伏せると、壁に寄り掛かって両腕を組む。
「――本来、テレポーテーションを使うには、転送先の地形を完璧に把握していることが条件です。少しでも転送先の座標がずれれば、対象者が死に至る危険性がありますからね。ある程度は船内の地形図を把握していますが、完璧ではありません。もしテレポートに失敗すれば、海に転落したり、コンテナの荷物の中で圧死したり、地上数メートルの地点から落下する可能性もあります。最悪、異次元に置き去りになることもあるでしょう。私の使う瞬間移動とは、繊細な能力なのですよ。多大な力を使いますしね」
「…………」
 もし、宇川が<宇宙砦ゴルガー>で触手のクッションを作ってくれなければ、創志たちは地面に激突していたわけだ。死ななかったとしても、行動不能になるのは間違いなかっただろう。
「一応、あと1回テレポーテーションを行う力は残っています。どうしますか?」
 相変わらず癇に障る口調で、セラは創志に問いを投げてくる。
「そうし……」
 左手がひんやりとした感触に包まれる。
 見れば、ティトが手を握っていた。
 不安げに揺れる彼女の灰色の瞳を見て、創志はここに残ることを考えるが――
 ――あなたの無茶は、光坂を倒すために使うべきよ。
 宇川の言葉が脳裏をよぎる。自分を行かせるために残ってくれた人たちの覚悟を無駄にはできない。
「わたしはだいじょうぶだよ。だから、そうしはそうしのやりたいことをやって」
 そこで創志は気付いた。
 ティトの瞳に浮かぶ不安の色は、創志と離れ離れになりたくないというものではなく、創志の身を案じている色だということに。
「さっさと行くです! リソナ、お前のこと嫌いです!」
 いまだ座り込んだままのリソナだが、口だけは一人前に罵詈雑言を飛ばしてくる。
 ――覚悟、か。
 創志はセラに向き直ると、両拳を強く握る。
「もう一度聞きます――どうしますか?」
 その問いに、
「――今さら聞く必要ねえだろ。さっさとやってくれ」
 創志は、愚問だと言わんばかりに呆れながら答えた。
「……あなたならそう答えると思っていましたよ。分かりました。それでは、目を閉じてください」
 薄ら笑いを浮かべたセラは、左腕に装着したディスクを展開する。
 それを確認したあと、創志は両目を閉じた。
 視界が闇に染まる。聞こえてくるのは、声だけだ。
「<サイコ・ジャンパー>を召喚……行きますよ。失敗しても恨まないでくださいね」
「ふざけんな。絶対失敗すんなよ」
「分かっていますよ。冗談です」
 くくっ、というセラの含み笑いが聞こえた後、全身が奇妙な浮遊感に包まれる。
「そうし……」
 すぐ側で聞こえた、守るべき少女の声。
「行ってくるな、ティト」
「少し休んだら、すぐに追いかけるから」

「ああ。待ってるぜ」