にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 8

 潮の匂いが鼻孔を刺激し、創志は目を開く。テレポートは無事に成功したようだった。
 右脇から熱を感じる。見れば、闇を映した海上で「何か」が燃え盛っていた。
「船……?」
 黒煙を吐きだしている物体に対し疑問の言葉を口にしたとき、
「随分早いお出ましだな。皆本創志」
「――ッ!」
 前方から聞こえてきた声に、創志は瞬時に身構える。
 燃える炎が明かりとなり、浮かび上がる人影――茶色の髪に、まだ幼さの残る顔立ち、それでいて纏う雰囲気は重く冷たい……黒い服に身を包んだ男は、悠然とそこに立っていた。
「アンタが、レボリューションのリーダー……」
「レビン・ハウンツだ」
 ――本当にこいつがリーダーなのか?
 下手をすれば創志よりも幼く見えてしまいそうなレビンの容姿に、創志は一瞬だけ疑問を覚える。
 が。
 闇の中でもはっきり分かるであろう鋭い眼光に、すぐにその疑問を打ち消す。
「信二と先生……いや。光坂はどこだ?」
「皆本信二はここにはいない。仕事ができたんでな。光坂は――」

「ここにいるよ。創志」

「なっ……!?」
 自分のすぐ隣から発せられた声に、創志は戦慄し、身を硬直させる。
「驚いてるね、創志。けど、驚いたのは僕のほうさ。突然君が隣に現れたんだから」
「……冗談はよせ、光坂。皆本創志が突然現れたのは事実だが、お前の隣に現れたわけじゃない」
「あらら。ばれてたか」
 白衣を着た光坂は、頭を掻きながらレビンの隣に並ぶ。
 光坂が隣にいた。その事実だけで、創志の心臓は早鐘を打っていた。
 ――落ち着け。まだ戦いは始まってもいねえんだぞ!
 左手で胸を抑えながら、創志は自分を叱咤する。
「さて、君には言ったはずだよね。創志。君の出番はここまで。舞台から降りるんだって」
 そのセリフは、創志が光坂に敗北した時、聞かされたものだ。
 そして、創志は戻ってきた。弟を連れ戻すために。
「舞台を降りた役者は、黙って終幕を見届けなきゃ。アドリブは困るんだよ」
 両手を広げて穏やかに語った光坂は、流れるようにディスクを展開させる。
「……お前に恨みはないが、俺たちの邪魔をするというのなら、容赦はしない」
 それに合わせて、レビンもまた、漆黒のディスクを展開させた。
 ――早速戦る気ってわけか。
 デュエルか、それともモンスターを実体化させての戦闘か……どちらにも対応できるように、創志もディスクを展開させる。
「潰す。準備はいいな、光坂」
「大丈夫だよ。そうだねえ……ルールはジェンス君がやったような変則タッグデュエルでいいかな?」
「俺は構わない」
「……別にいいぜ」
 どうやらデュエルで決着をつけるようだ。創志は密かに安堵する。デュエルならば、十分に勝機はあるからだ。
「創志が勝ったら、僕らはセキュリティ襲撃を諦めるよ。それが君たちの目的なんだろう?」
「……ああ。それと、信二も連れ戻させてもらう」
「それは約束できないなぁ。本人に聞いてみないと」
 ここまでのことをしておきながら、たった一度の敗北で諦められるものなのか――疑問は残ったが、ここは素直に頷いておくことにした。デュエルで負けても止まらなかった場合は、そのときに考えればいい。
 信二のことに対しての返答も予想通りだ。竜美の言うとおり信二が光坂の洗脳を受けていないとすれば、どの道説得は必要になる。
 今は、目の前のデュエルに集中するべきだ。
「その代わり、創志が負けたら……分かってるよね?」
 なんてことのない光坂の一言に、創志は全身が怖気に包まれるのを感じる。

「今度こそ、死――だ」

 死。
 体が震えそうになるのを必死にこらえ、光坂を睨み返す。
 本当ならリベンジ宣言をするつもりだったのだが、喉の奥で言葉が消えていく。
 それでも、視線だけは逸らさなかった。
「それじゃ、始める前に変則タッグデュエルのルール確認をしておこうか。フィールドは――」
「その必要はない」
 光坂の説明を打ち切り、甲板に新たな声が響く。
 声を発した人影は、潮風に黒髪をなびかせ、波の音をかき消すような足音を生み出しながら、創志の隣に立った。
 黒いコートの下に見えるダークグレーのスーツの右胸には、セキュリティの紋章が輝いている。
「俺が皆本創志とタッグを組む。構わないだろう?」
「輝王……!」