にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 8-15

 輝王の体が白い光に包まれる直前、蒼い光が一点に収束していくのが見えた。
 蒼い光条がいくつも走り、それらはやがて1つの像を結ぶ。
 それは、氷の龍。
 冷たい空気が足元を滑っていくのを感じた次の瞬間。
「<グングニール>……フリージング・ランサー!」
 闇を払うように、蒼の光が放たれる。
「――ッ!? <ノーレラス>!」
 辺りを照らしながら、レーザーのように走る蒼き光条。
 標的にぶつかったそれは、部屋のあちこちへと飛散する。
 分かたれた蒼の光が、輝王の視界を覆っていた闇をかき消していく。同時に、パキッ! という音を立てて、光が直撃した壁や床が凍りついていた。
「……僕の攻撃を避けるだけでなく、反撃までしてくるとは。さすがは先輩サイコデュエリスト、といったところかな」
 そう言って悔しげに顔を歪めるのは、黒のスーツを着た少年――皆本信二だ。
 その傍らには、体の至る部分から紫の棘を生やした、歪な魔神がいた。獲物を逃さないためのカギ爪、腹と腕に巻かれた包帯、後頭部の拘束具、そして、痛んだ黒い翼――下半身は闇に覆われており、その実体が掴めない。
 あれが、信二が実体化させたモンスター<天魔神ノーレラス>。
 <天魔神ノーレラス>の右腕は氷漬けになっており、自由に動かせないようだ。
 原因はもちろん――
「そうしたちをどこにやったの?」
 詠円院で出会ったときとは比べ物にならないほどの覇気を発しながら、ティトが告げる。
 後ろには、彼女が絶対の信頼を寄せる氷の龍、<氷結界の龍グングニール>の姿がある。
 素早く周囲を見渡せば、随分と人数が減っている。
 この休憩室に残っているのは、信二、ティト、輝王……そして、
「ティト様。ご安心を」
 大仰に右手を振るった、セラ・ロイムだ。創志、切、宇川、ジェンスの姿は見えない。
「彼らは私の<サイコ・ジャンパー>の力で安全な場所へ退避させました」
「テレポーテーション、ということか?」
 輝王の問いに、セラは不敵な笑みを浮かべながら頷く。
「むー……それなら、いいけど」
 言葉では納得しつつも、ティトの表情は不満げだ。初めて会った時よりも、さらに感情を表に出すようになった気がする。
「うそついたらダメだからね」
「滅相もない。ティト様を騙すことなど、ありえませんよ」
 そう言って、ティトに向かって深々と頭を下げるセラ。
 ……余計に胡散臭く感じたのは、自分だけだろうか、と輝王は思う。
「何故、全員をテレポートさせなかったんですか?」
 次の問いを発したのは、信二だ。こちらも自分の攻撃が防がれたことで、かなり苛立っているように見える。

「決まっているでしょう。あなたを倒すためですよ」

 セラはわざとらしく眼鏡の位置を直し、自分の優位を示すかのように肩をすくめる。「しょうがないから、付き合ってやるか」と、言わんばかりに。実に分かりやすい挑発だ。
「――いいですよ。なら、望み通りにしてあげます!」
 その簡単な挑発に、簡単に食いつく黒の少年。
「さすがは兄弟。思い通りの反応を返してくれますね」
「冷酷なフリをしていても、中身は年相応ということか」
「黙れ!」
 セラと輝王の皮肉に対し、信二は歯をむき出しにして吠える。
 そして――佇む<天魔神ノーレラス>に次の指示を出そうとしたのだろうか――右腕を前に突き出したときだった。

「信二、熱くなりすぎです」

 妙に甘ったるい声が、信二の背後から聞こえてきた。
「ここはリソナが引き受けるです。下がってくださいです」
 アニメ声、とでもいうのだろうか。特徴的な高音を響かせる声だ。
 怒りを抱えたままの信二が、勢いよく振り返る。
 姿を現したのは、金の長髪をなびかせる少女だ。水色の光をたたえる大きな瞳に、ぷっくりと膨らんだ唇。ティトよりもさらに小柄で細い体は、瞳と同じ水色のワンピースと、桃色のカーディガンを纏っている。
 まるで、絵本の中から出てきたかのような「お人形」。少女の容姿は、そんな錯覚を起こさせる。
「リソナ……!? いや、でもこいつらは――」
「光坂からの命令です。それでも聞けないですか?」
 悔しさを顕わにして言いよどむ信二に、はっきりとした口調で事実を伝える少女。
「光坂は、あなたのことを心配してたです。無茶してないかどうか」
「……分かったよ」
 少女の説得に、信二は矛を収める。
 <天魔神ノーレラス>が消え、部屋の隅に残っていた闇が完全に消滅する。
「お前こそ、ヘマやらかしたら承知しないからな」
「リソナを誰だと思ってるんです? リソナは強いですよ?」
 いくつか言葉を交わした後、信二はこの場を去っていく。
 しかし、後を追おうとするものは誰もいない。
「――さて! まずは自己紹介です! 初めて会った人には自分の名前を教えてあげると光坂に教わったです!」
 無邪気に微笑む金髪の少女。
 彼女から、尋常ではないほどのプレッシャーが発せられていたからだ。

「リソナの名前はリソナです! あなたたちを殺しに来ましたです!」

 声と、言葉と、表情と、振る舞いと――全てがちぐはぐだった。