にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 8-6

「――っ。くそ、どうなったんだ……?」
 創志が目を覚ますと、柔らかな感触が体中に伝わる。何かは分からないが、ぷよぷよとした物体の上に寝転がっているようだ。
 信二が召喚した<天魔神ノーレラス>の攻撃を受けたことは覚えている。しかし、痛みは感じなかった。肉体に苦痛を与える攻撃ではなかったのか、それとも――
「っと」
 考える前に立ちあがろうとして、適当な場所に手をつく。
 ぬるり。
 瞬間、手のひらに粘液のような何かがまとわりついた。
 ぞぞぞ! と怖気が走り、急いで自分が寝ている場所を確認する。
 創志の視界に映ったのは、ぬるぬると蠢く毒々しい薄緑色の触手――
「な――」
「ひゃあああああああああああああああああああああああ!!」
 創志が叫ぶ前に、すぐ近くから悲鳴が上がった。








「まったく失礼しちゃうわ! せっかく助けてあげたっていうのに! 悲鳴を上げて斬りかかってくるなんて!」
「す、すまぬ。ヌメヌメしたものは苦手でのう……」
「アタシの<ゴルガー>ちゃんはスゴク繊細なんだから! あやまレ! もっとあやまッテ!」
「だからさっきから謝っておろう!」
「……お前ら、もうその辺にしとけよ」
 やいのやいの言い合う切と宇川を見て、創志は呆れながらため息をつく。
「セラも、もうちょっと優しくできなかったのかしら! アタシの乙女な部分に傷がついたらどうしてくれるのよ!」
 プンプン! と擬音を口にしながら、宇川は体をくねらせる。すごく気持ち悪い。
「ふむ。見たところ、ここは貨物を積み込む倉庫のようじゃな」
 切の言葉に、創志は辺りを見回す。
 等間隔に設置されたランプが、いくつかのコンテナを照らし出す。倉庫自体はかなりの広さがあるが、積まれた貨物はかなり少ないようで、ガランとしている。
「ということは、ここは船底ね。セラたちと合流するには、上に上がらないとダメだわ」
 宇川の話では、創志たちが<天魔神ノーレラス>の攻撃を受ける直前、セラが<サイコ・ジャンパー>の力でテレポートさせたのだという。確かに、あのとき創志の周りには切と宇川がいた。
 創志ははるか上にある天井を見上げる。テレポートした先が天井付近だったため、着地の衝撃を和らげようと宇川が<宇宙砦ゴルガー>を召喚してくれたらしい。
「セラとティト……それに輝王か。3人はあそこに残ったんだよな。だとしたら……」
「ええ。今頃弟くんと戦っているのでしょうね」
「…………」
 セラが創志をテレポートさせたのは、弟との衝突を避けさせたい考えもあったのだろう。
 我を忘れるほどではなかったにせよ、先程までの創志は異常なまでに精神が昂ぶっていた。その精神状態が、必ずしもいい方向に働くとは限らない。
「ともかく、輝王たちと合流しよう。創志も、ティトと離れたままじゃ不安じゃろ?」
「……ああ」
 せっかく再会できたのに、また離れ離れだ。敵の攻撃でないことが分かれば大丈夫だろうが、心配でないかといわれれば嘘になる。
 加えて、ここは敵の本拠地だ。右も左も分からぬ中で、戦力を分散するのは好ましくない。
 創志にしては珍しく頭を回したとき、
「――誰じゃ!」
 刀の柄を握った切が、創志たちの前方に向かって叫ぶ。創志は気付かなかったが、切の嗅覚が人の気配を捉えたのだろう。
「……こりゃ誰の差し金だ? ここなら誰も来ないだろ、ってサボってたのによ」
 やや薄暗い空虚な倉庫に、足音が反響する。
「働かざる者食うべからず、ってことかよ。ライディングデュエルじゃなきゃやる気出ねえんだけどな」
 間延びした声とは逆に、男の纏う雰囲気は硬かった。
 灰色の中折れ帽に、紺色のジャケット。濃い藍色のジーンズに、焦げ茶のブーツを履いた男。右手で帽子を抑えているため、その顔は見えない。

「ここは風が足りねえ。そう思わねえか? 坊主」

 男の左腕には、無骨なデュエルディスクが装着されていた。
「最初に名乗っておこうか。俺は神楽屋輝彦(かぐらやてるひこ)。ライディングデュエリストだ」