にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 5-1

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「俺の名は輝王正義。セキュリティ第17支部所属の捜査官だ」
 黒の長髪が冷たい風を受けてなびき、男は整然とそこに立っていた。
 今、セキュリティが創志たちに聞きたいことと言えば……ひとつしか思い浮かばない。
 創志の背中に隠れたティトが、きゅっとパーカーの裾を握るのが分かった。
 ティトがレボリューションのメンバーだったこと……いや、「氷の魔女」であったことを突き止めたのかもしれない。
 どっちにしても、輝王と名乗った男の言葉に従うわけにはいかない。創志はともかく、ティトの処遇については暗い方向しか想像できないからだ。
 輝王の口調は落ち着いていたが、その視線からは、捉えたものをその場に縛りつけるような威圧感が伝わってきた。
 創志の額から冷や汗が流れる。そのとき、自分が伊達眼鏡をかけていることを思い出した。
「……人違いじゃないか?」
 目の前の男が人を間違えるようには見えないが、わずかな望みをかけてとぼけてみせる。
 言った後ですぐに後悔が襲ってきたが、
「…………」
 輝王は創志のことを値踏みするように見た後、一瞬だけ視線を外した。
 「人違いなわけないだろう」と一蹴されると思っていた創志にとって、輝王の反応は意外だった。
 そして、彼はもっと予想外のことを口にする。
「そうだな。人違いかもしれない」
「――ッ!?」
 創志の言葉を肯定したのだ。
 どうやってこの場から逃げ出すかを思案していた創志は、輝王の意図が読めずに虚をつかれる。今まで創志が見たセキュリティなら、有無も言わさずティトを連行してしまうはずだ。わざわざ相手の言い分に付きあったりはしない。

「だから、これから確かめさせてもらう。俺とデュエルしてもらおう……少女よ」

 そう言って、輝王は左腕に装着されたデュエルディスクを展開させる。
 行動の意味が分からず、創志は思わず訊き返そうとするが――
「っ」
 パーカーの裾を掴む指に力がこもったのを感じ、ようやく輝王の言葉の意味を理解した。
(こいつ、やっぱり――!)
 ティトがサイコデュエリストだということを知っている。彼女にデュエルさせることで、その力を白日のもとに晒そうとしているのだ。
 創志が身構えたそのとき、輝王の背後から、回転する物体が飛んでくる。
 輝王はそれを器用にキャッチすると、創志たちに向かってゆっくりと歩き出す。
「ディスクはこれを使うといい」
 どこかから投げられたデュエルディスクを差し出しながら、セキュリティの男は表情を変えずに告げる。
「ティト」
 輝王には聞こえないような小声で、創志は背後の少女の名を呼ぶ。
「……なに?」
「氷の力を出さずにデュエルできるか? あいつはティトがサイコデュエリストだってことを知ってる。今あの力を使ってデュエルしたら、それを証拠にお前を連行する気だ」
 創志の問いに、少し間を置いたあと答えが返ってくる。
「……たぶん、無理。わたしがデュエルするときは、いつも相手を氷漬けにしてた。使うとか、使わないとか、意識してやったことはないけど」
 ――やはり、ティトにデュエルさせるのは危険すぎる。力を抑えられる可能性がないわけではないが、発動してしまったが最後、それが動かぬ証拠となり、創志とティトは連行されてしまう。そうなれば、信二を助けることなど到底叶わないだろう。
「――ッ!」
 回りくどいことを考えるのはここまでだと、創志は輝王に向かって一歩を踏み出す。
「そうし?」
 ティトは俺が守る。そして、信二も俺が助ける。
 そのためには、ここで足止めを食らうわけにはいかない。
「……何だ? 俺がデュエルしたいのは、お前ではないが」
 立ちはだかる壁は乗り越える――いや、
 ぶち破る。
 創志は輝王の手からデュエルディスクを乱暴に奪い取ると、自分の左腕に装着する。
「ワリぃが、こいつとデュエルしたいんなら、先に俺を倒してからにしてくれ」
 暴論もいいところだが、創志はテコでもこの場を動かない覚悟で立つ。
 創志と輝王の視線が交錯する。
 それで何かを感じ取ったのか――
「いいだろう」
 輝王はくるりと背を向けると、創志の要求を受け入れた。
「ただ、前座はこれで最後だ。全力で叩き潰すぞ」
 先程までとは違い力のこもった声に、創志は気圧されぬように歯を食いしばる。
 輝王は「前座はこれで最後」といったが、最後も何もハナっから創志だけのような気がするが……。
「そっちこそ前座に負けて恥かくなよ? 俺は手加減なんてしねえからな!」
「――上等だ」
 輝王の口元がわずかに緩む。
 彼の瞳は、創志の挑戦を歓迎しているように見えた。