にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-03】

「お前が『主』か?」
「見て分かるようなことをわざわざ問うなグズが。俺様以外ありえんだろう? 異世界ひとつを作り上げるほどの強大な力を持ったデュエリストは」
 創志と治輝の横を通り過ぎ、前に進み出た輝王を、青年は一蹴する。
「それとも、俺様の見込み違いだったか? 貴様は俺様の殺気すら感じ取れない豚以下の存在だったのか? それでは前菜にすらならんぞ」
 あからさまに見下すような視線を向けた青年は、薄く笑う。
「……自分の力に酔ってるな。それじゃ足元をすくわれるぞ」
「酔いもするだろう、時枝治輝。世界を作り上げるということは、神に等しい力を持たなければ達することのできない偉業だ。それほどの力を持ちながら自分に酔いしれることのできない者など、己の存在を自覚できないただの阿呆だ」
「……口だけは達者だな。比良牙の野郎の上司、ってのも納得がいくぜ」
「本当にそう思っているなら、貴様の言葉をそっくり返させてもらうぞ。皆本創志」
 言い返され、創志はぐうと押し黙る。
 彼も気づいているのだ。青年が発する異常なまでの殺気に。
「くだらない問答は終わりだ。俺様は獲物を目の前にして我慢できるほど、利口な人間ではないのでな」
 そう言って、この世界の「主」である青年は、輝王たちに背を向ける。無防備な背中を晒すことに、微塵も恐怖を感じていないようだった。
 青年が離れたタイミングを見計らって、
「……お前もこっちに飛ばされてたんだな、輝王」
 創志が口を開いた。しかしその視線は、青年の背中を見つめたままだ。間近にある脅威から視線を逸らさないくらいには、成長したということだろう。
「ティト・ハウンツとはすでに合流した。彼女は無事だ」
「……久々に会って最初に言うことがそれかよ」
「違ったか? お前が一番気になっているのは、彼女の安否だと思ってな」
「ティトは俺より強いんだから心配なんてしてねえよ」
 そう言いつつも、創志の表情には安堵の色が広がっている。やはり心のどこかでは不安だったのだろう。確かにティト・ハウンツは強いが、人間性の部分で見れば、まだまだ未熟だ。
「……どうやらそっちの2人は知り合いみたいだな。ってことは、俺の自己紹介が必要か」
 ふう、と息を吐いて必要以上の緊張を解いた少年――いや、青年と表すべきだろうか。その境目を複雑に体現しているような男が、創志と輝王の顔を順繰りに見てから、
「俺の名前は時枝治輝。えっと……とりあえずデュエリストだ」
 自らの名を告げた。自分のことをどうやって表せばいいか、適当な言葉が見つからなかったようだが。
「時枝治輝!? じゃあ、アンタがかづなの言ってた――」
 治輝の自己紹介に、創志が興味津々といった感じですぐさま反応するが、輝王は右手を振るってそれを制する。
「詳しい話は後だ。『主様』とやらが待ちわびているようだぞ」
 輝王たちから適当な距離を取ってこちらに振り返った青年は、すでに漆黒のデュエルディスクを展開させていた。それは、彼が臨戦態勢に入っていることを示している。
「奴の狙いは、俺たちからサイコパワーを吸収することだろう。根こそぎな」
「だと思ったぜ。輝王がそう言うなら、俺の推測も間違ってなかったってことだ」
「サイコパワー……それがあいつの言う『力』ってことか。だから七水は……」
 それぞれの感想を口にしながらも、3人はデュエルディスクを展開する。
「……ん? でも待てよ。輝王ってサイコデュエリストじゃねえよな。サイコパワーを奪うのがアイツの目的なら、どうしてお前がここにいるんだよ?」
「……確かに俺はサイコデュエリストではないが、今はそれに類似する力を持っている。さらに言えば――」
 輝王はそこで言葉を切り、治輝へと視線を向ける。もし、彼が戒斗や愛城の知り合いならば、彼も同じように強力な力を持っているのだろうか。
(……いや。詮索すべきではないな)
 それに、今はそんな状況ではない。他ならぬ自分が口にした言葉だ。
「――主が言っただろう。俺たちは『前菜』だと。俺と行動を共にしていた3人……ティト・ハウンツ、永洞戒斗、それに愛城は、全員が強大な力を持ったデュエリストだ。おそらく、彼らが『メインディッシュ』なのだろう」
「……戒斗のやつはともかく、愛城までこっちに飛ばされてたのか」
 愛城の名前を聞いた途端、治輝が渋い表情を見せる。知り合いだという推測は間違っていなかったようだが、あまりいい関係ではないらしい。
「ムカツクぜ。確かに俺のサイコパワーは弱いけど、はなっから前座扱いされるのは納得いかねえ」
「なら、それをデュエルで証明するしかないってことだ」
「時枝の言うとおりだな。奴には何を言ったところで届きはしない」
 届くのは、己の力のみ。
 望むところだ、と輝王は瞳に闘志をたぎらせる。それは、他の2人も同じだった。
「――この世への別れは済ませたか? 狩りを始めるぞ!」
 輝王正義、皆本創志、時枝治輝――それぞれが見せる戦いへの意思を感じ取った青年が、高らかに宣言する。
 その残響が夜の砂漠を支配する中で、
「――最後に1つだけ訊いていいか!」
 声を張り上げたのは、治輝だった。
 治輝は青年の返事を待たずに、続ける。

「お前の名前を訊きたい!」

 問うたのは、この異世界を作り出した主であり、七水を危険な目にあわせた黒幕であり、これから戦う相手である青年の名前。
 唐突な発言に、輝王は呆気に取られる。それは創志も同じようだった。
 さすがの青年もこの問いには意表を突かれたようで、一瞬だけ動きを止めた後、盛大に高笑いしてから口を開く。

「……砂神緑雨(すなかみりょくう)だ。最も、名前などすぐに意味を失くすがな」

 これまで輝王たちの問いを一蹴してきた青年――砂神緑雨は、治輝の問いに真っ向から答えた。
「幸運に思え。貴様らが、この名を記憶する最後の人間だ」
 そう言って、砂神は口の端を釣り上げる。
「……なあ、時枝。何であいつの名前なんて訊いたんだ?」
 治輝の隣に並んだ創志が、落ち着いた声で告げる。治輝の意図がまるっきり理解できないというよりも、何かに気づきつつもあえて問いかけているような感じだった。
「……色々あってさ。デュエルをする相手のことは、なるべく知りたいと思ったんだ。こうして言葉を交わせるなら、せめて――名前くらいは」
 治輝の視線は、砂神を通り越して、どこか遠くを見ているように感じられる。
 すると、治輝は一歩前に進み出て、くるりとこちらに振り返る。
 そして、気恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、
「ついでに、2人の名前も教えてくれないか? いや、テルさんから話は聞いてるから、何となくは分かるんだけど……」
 バツが悪そうに言った。
 思わず、輝王は創志と顔を見合わせる。
 そういえば、自分たちの自己紹介を忘れてしまっていた。
 今までは緊張感に満ちていた心の底から、不思議と可笑しさがこみ上げてきて、輝王は微かに笑ってしまった。
「……はははっ、悪い悪い。俺たちの自己紹介がまだだったよな」
 笑いながら頭を掻いた創志は、背筋をピンと伸ばしてから、告げる。

「俺の名前は皆本創志。デュエリストだぜ」
「――輝王正義。同じくデュエリストだ」

 神を真似た暴挙が、出会うはずのなかった3人を、引き合わせた。