にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 4-1

「輝王。お主の好きな食べ物はなんじゃ?」
 何の脈絡もなく訊いてくる切に対し、輝王は冷ややかな視線を送る。
「何だ。藪から棒に」
「だ・か・ら! お主の好きな食べ物はなんじゃと訊いておる!」
「……答える必要性を感じないな」
「なんじゃとう!」
 ムキになるポニーテールの少女を無視して、輝王は歩くスピードを速める。
 質問の意図は全く分からなかったが、今はそんなことを考えている余裕がなかった。
 現在、輝王は街の一角をパトロール中である。周りには廃墟になった建物が多く、人の気配は感じない。
 だからこそ、切と並んで歩けるわけだが。切がレボリューションを抜けたときから、尾行されている可能性は捨てきれない。
 若草色の着物を着た切は、腕組みをしながらぶつぶつと文句を呟いている。相変わらずストラの部屋に居候しているおかげで、すっかり体調も良くなったようだ。左腕に装着された無骨なデュエルディスクが、奇妙な存在感を発揮している。
 事態は進展していない。
 廃美術館からレボリューションのメンバーを連れ出し、すぐに取り調べが始まった。
 一転して冷静になった大石をはじめ、メンバーたちは頑なに口を閉ざした。得た情報といえば「氷漬けになった人間は、レボリューションから切り捨てられた者」、「皆を氷漬けにした処刑人は、年端もいかない少女」ということくらいだった。
 現在、レボリューションがどこに潜伏しているのか、そして、輝王の親友だった高良を殺したのは誰なのか――近づいているようで、近づけない。そんな状況に、輝王はもどかしさを感じていた。
「輝王。お主の好きな食べ物はなんじゃ?」
 まだあきらめきれないのか、しつこく尋ねてくる切。
 適当にあしらおうと輝王が口を開く前に、

「お主と出会ってから2週間ほど経つ。じゃが、いまだにお主がどういう人間なのか分からん」

 矢のようにまっすぐ飛んだ切の視線が、輝王を射抜く。
「全てを理解しようなどと神様のようなことは言わん。しかし、少しも見えてこないのじゃ。輝王正義という人となりがな」
「……何が言いたい」
 発した声は、輝王自身が予想していたよりも冷たく響いた。
「輝王。お主の瞳には何が映っているのじゃ?」
 切の言い方はまたしても遠回しだったが、彼女が何を言いたいのか輝王には分かっていた。
 物理的に言えば、寂れた街が、着物の少女が、輝王の瞳に映っている。
 しかし、彼はそれを見ていない。
 輝王の瞳には、高良の遺影が焼きついたままだ。
「――余計な御世話だ」
 投げやりに言葉を放ち、切に背を向ける。
「ぬ。ちゃんと答えるのじゃ! 輝王!」
 今は、これでいい。
 復讐を果たすまでは、それ以外のものに気を取られている余裕はない。
 余裕はない、のだが――
 背後から切がわめく声が聞こえる。ちょっと前まで寝込んでいたのが嘘のようだ。
「輝王輝王輝王! わしの質問にちゃんと答えぬと、今日の夕飯をお主の分まで食べてしまうぞ! 本気じゃぞ! 味噌ラーメンも豚骨も全部食べてしまうぞ! 醤油もじゃ! ついでにストラが好きな塩も食べてしまおうかのう! 聞いとるのか輝王――ぐえっ」
 最後のうめき声は、急に立ち止った輝王の背中にぶつかってしまったからだ。
「な、なんじゃ。急に立ち止まりおって」
「…………」
 くるりと振り返り、切を見る。何の変わりもない、いつも通りの姿だ。
 大石の言っていた「あの言葉」が、輝王の頭の中にこびりついて離れなかった。










 輝王が大石の取り調べに望んだのは、昨日のことだ。
 支部のすぐ後ろに建てられた拘置所にある、取り調べ室。厚い強化ガラスに隔てられた先に、大石が座っていた。下を向いたまま、何も話そうとはしない。
 簡素な部屋の中には、監視カメラや集音マイクといったものはない。様々な「非合法な取り調べ」を行うためである。万が一外部に映像などが漏れた場合、治安維持局の権威が失墜する可能性があるからだ。
 つまり、取り調べ室には輝王と大石の2人だけ。他に話を聞いている人間はいない。
「――友永切、という人物を知っているか?」
 意を決して切り出した輝王の言葉に、大石の体がピクリと反応する。
「……知らねえ」
 嘘を吐いている。明らかに泳いだ大石の視線から、輝王は確信した。
「元レボリューションメンバーだった少女だ。お前とも面識があるはずだが」
 すでに裏は取ってある。あまり親しくはなかったようだが、切は大石のことを知っていた。共にレボリューションの古参メンバーで、長い付き合いだった切のことを知らないはずがない。
「もう一度訊く。友永切という人物を――」
「あんな奴知らねえよ!!」
 テーブルを思いっきり叩いて立ち上がった大石は、歯をむき出しにして吠える。鼻息が荒くなっているのが、ガラス越しからでも分かった。
 フーッと息を吐き、一度舌打ちをした大石は、乱暴に椅子に腰かける。
「……俺は今、彼女と協力してレボリューションを……いや、光坂慎一を止めるために動いている。そのために情報が必要だ」
 大石の反応を見るに、切と協力関係にあることを明かすのは賭けだった。彼が切のことを心の底から嫌っていたり、光坂に傾倒していたりすれば、現状よりももっと情報が引き出せなくなるだろう。
「――あいつと?」
 ようやく顔を上げ、こちらを見返してきた大石の感情は読めない。
「そうだ」
 輝王は頷くだけで、それ以上の行動を起こさない。
「……俺はあいつが友永切だって認めるわけにはいかない」
 絞り出すような声で大石が呟く。ギリ、と歯ぎしりする音がかすかに聞こえた。
「どういうことだ?」
 輝王の問いに、大石は片手で額を押さえ、自分の表情を隠しながら答えた。

「あいつは――友永切は死んだんだよ。ずっと前にな」