遊戯王 New stage サイドM 6-1
「けど! 俺にだって……」
目的がある。おそらくはそう言おうとしたのだろう。
濃い焦りの色を浮かべた少年――皆本創志は、すがるように言葉を吐き出していた。
「くどいぞ。俺はお前の身を案じて言っているわけではない。枷が増えれば、その分リスクは上がる。お前に目的があるように、俺にも目的がある。邪魔はされたくないと言っているんだ」
輝王は、そんな少年を突き放すように冷たく言い放つ。
創志は悔しげに唇を噛みながらうつむいたが、それ以上食い下がってはこなかった。
「ここにいろ。いいな」
最後にそう告げると、輝王は拘置所に向かって走り出す。
目的がある。おそらくはそう言おうとしたのだろう。
濃い焦りの色を浮かべた少年――皆本創志は、すがるように言葉を吐き出していた。
「くどいぞ。俺はお前の身を案じて言っているわけではない。枷が増えれば、その分リスクは上がる。お前に目的があるように、俺にも目的がある。邪魔はされたくないと言っているんだ」
輝王は、そんな少年を突き放すように冷たく言い放つ。
創志は悔しげに唇を噛みながらうつむいたが、それ以上食い下がってはこなかった。
「ここにいろ。いいな」
最後にそう告げると、輝王は拘置所に向かって走り出す。
レボリューションによる、セキュリティ支部の襲撃。
予想していなかったわけではない。高良が残した資料には、セキュリティとレボリューションが衝突したと思われる案件がいくつか見られた。
思えば、友永切が組織を抜けたことが、レボリューションが行動を起こす予兆だったのかもしれない。
(くそッ)
心中で悪態をつく。もう少し頭を回せば、この事態は未然に防げたかもしれない。
チリチリと燃える支部を横目に見ながら、輝王は創志の姿を思い出す。
――焦っているのは、自分も同じか。
(それにしても、あの馬鹿は一体どこまで行ったんだ?)
先に向かった切の姿は、どこまで行っても見えてこない。これだけ盛大に黒煙が噴き上がっているのだ。迷うことはないはずだが。
拘置所は支部の真後ろにある。ほどなくして、同じように炎に焼かれる建物にたどり着いた。
拘置所、とはいっても、サテライトで罪を犯した人間は、ろくな取り調べもされずに更生施設に送られるのがほとんどなので、収容できる人数はそれほど多くない。
小さめの倉庫のような外観をした拘置所の壁には、大きな穴が開いていた。
身長2メートルを超える大男でも、悠々通れるような巨大な穴だ。重機などを使わなければ、不可能と思われる所業だった。
ジャリ、とコンクリートの破片を踏み、輝王はその穴から内部へ入る。
(……どういうことだ?)
気になったのは、壊された瓦礫が「建物の外側」に散乱していることだった。
拘置所に侵入するために壁を破砕したのだとしたら、建物の内側――つまり、牢の中に瓦礫が転がっているはずだ。
この状況だと、「牢から脱出するために、壁に大穴を開けた」ことになる。
拘束したレボリューションメンバーの中にそんな芸当ができる人間がいたとは思えない。なら、拘置所を襲撃した残りのメンバーと一緒に、すでに逃走したあとなのか――?
ゆらゆらと燃える炎に焼かれる拘置所内を、慎重に、それでいて急ぎながら歩く輝王。
大石をはじめとしたレボリューションメンバーはおろか、ここに残って取り調べをしていたストラ、竜美、ジェンスの姿も見えない。
様々な予感が頭の中を駆け巡るが、それらを一旦外に追いやり、輝王は目の前の光景に神経を集中する。
いくつかある牢には人影は見られない。やはり、一足遅かったのだろうか。
「――ッ!」
その気配に気づいたのは、サテライトに来てから常に周囲を警戒するようになった経験からだった。
――いる。
輝王の前方、取り調べ室に通じる扉。まだ火の手が弱く、誰かが中にいたとしても不思議ではない。
輝王は迷うことなく歩を進め、取り調べ室に踏み込む。すでに対応は後手に回っているのだ。例え罠だったとしても、飛びこまなければ得るものはない。
分厚い強化ガラスで2つに分けられた部屋の両側には、簡素なテーブルと椅子が1つずつ。会話を聞き取りやすくするために、ガラスの一部には小さな穴がいくつも開いている。
踏み込んだ部屋にも、ガラスの向こう側にも、人影はない。
が、輝王の感覚は、ここに人がいることを訴え続けていた。
思えば、友永切が組織を抜けたことが、レボリューションが行動を起こす予兆だったのかもしれない。
(くそッ)
心中で悪態をつく。もう少し頭を回せば、この事態は未然に防げたかもしれない。
チリチリと燃える支部を横目に見ながら、輝王は創志の姿を思い出す。
――焦っているのは、自分も同じか。
(それにしても、あの馬鹿は一体どこまで行ったんだ?)
先に向かった切の姿は、どこまで行っても見えてこない。これだけ盛大に黒煙が噴き上がっているのだ。迷うことはないはずだが。
拘置所は支部の真後ろにある。ほどなくして、同じように炎に焼かれる建物にたどり着いた。
拘置所、とはいっても、サテライトで罪を犯した人間は、ろくな取り調べもされずに更生施設に送られるのがほとんどなので、収容できる人数はそれほど多くない。
小さめの倉庫のような外観をした拘置所の壁には、大きな穴が開いていた。
身長2メートルを超える大男でも、悠々通れるような巨大な穴だ。重機などを使わなければ、不可能と思われる所業だった。
ジャリ、とコンクリートの破片を踏み、輝王はその穴から内部へ入る。
(……どういうことだ?)
気になったのは、壊された瓦礫が「建物の外側」に散乱していることだった。
拘置所に侵入するために壁を破砕したのだとしたら、建物の内側――つまり、牢の中に瓦礫が転がっているはずだ。
この状況だと、「牢から脱出するために、壁に大穴を開けた」ことになる。
拘束したレボリューションメンバーの中にそんな芸当ができる人間がいたとは思えない。なら、拘置所を襲撃した残りのメンバーと一緒に、すでに逃走したあとなのか――?
ゆらゆらと燃える炎に焼かれる拘置所内を、慎重に、それでいて急ぎながら歩く輝王。
大石をはじめとしたレボリューションメンバーはおろか、ここに残って取り調べをしていたストラ、竜美、ジェンスの姿も見えない。
様々な予感が頭の中を駆け巡るが、それらを一旦外に追いやり、輝王は目の前の光景に神経を集中する。
いくつかある牢には人影は見られない。やはり、一足遅かったのだろうか。
「――ッ!」
その気配に気づいたのは、サテライトに来てから常に周囲を警戒するようになった経験からだった。
――いる。
輝王の前方、取り調べ室に通じる扉。まだ火の手が弱く、誰かが中にいたとしても不思議ではない。
輝王は迷うことなく歩を進め、取り調べ室に踏み込む。すでに対応は後手に回っているのだ。例え罠だったとしても、飛びこまなければ得るものはない。
分厚い強化ガラスで2つに分けられた部屋の両側には、簡素なテーブルと椅子が1つずつ。会話を聞き取りやすくするために、ガラスの一部には小さな穴がいくつも開いている。
踏み込んだ部屋にも、ガラスの向こう側にも、人影はない。
が、輝王の感覚は、ここに人がいることを訴え続けていた。
「随分遅かったじゃないか。普通の襲撃犯なら、とっくに逃げおおせているところだな」
冗談のような軽さを含みつつも、聞いた者を緊張させるような重厚な声が響く。
輝王は、その声の主を知っていた。
「……何の真似だ、ジェンス・マクダーレン」
浅黒い肌に、2メートルを超す長身――顔に無数の傷跡を残す男、ジェンス・マクダーレンが、ガラスで隔たれた向こう側に姿を現す。
同時に、輝王の背後にあった扉がひとりでに閉まり、カチャリと施錠される音が聞こえた。
(――閉じ込められたか)
ジェンスは見慣れたセキュリティの制服ではなく、深緑のミリタリージャケットを着ている。彼が纏う異様な雰囲気は、同僚の無事を素直に喜ぶことをためらわせた。
「……組織の中には、お前を仲間に引き入れようとする物好きもいてな。短い間だが、輝王正義を見てきた俺に言わせれば、その考え自体が無駄だと思っている」
感情を見せず、淡々と言葉を吐き出すジェンス。
「事情を説明しろ」
ジェンス、竜美に対しては敬語を使っていた輝王だったが、かつての先輩の異変を察知し、相手の言動に惑わされぬよう、乱雑な言葉を選んだ。
「事情、か。勘のいいお前のことだ。すでに気付いているんじゃないか?」
ジェンスの鋭い視線が、輝王を射抜く。
輝王は、その声の主を知っていた。
「……何の真似だ、ジェンス・マクダーレン」
浅黒い肌に、2メートルを超す長身――顔に無数の傷跡を残す男、ジェンス・マクダーレンが、ガラスで隔たれた向こう側に姿を現す。
同時に、輝王の背後にあった扉がひとりでに閉まり、カチャリと施錠される音が聞こえた。
(――閉じ込められたか)
ジェンスは見慣れたセキュリティの制服ではなく、深緑のミリタリージャケットを着ている。彼が纏う異様な雰囲気は、同僚の無事を素直に喜ぶことをためらわせた。
「……組織の中には、お前を仲間に引き入れようとする物好きもいてな。短い間だが、輝王正義を見てきた俺に言わせれば、その考え自体が無駄だと思っている」
感情を見せず、淡々と言葉を吐き出すジェンス。
「事情を説明しろ」
ジェンス、竜美に対しては敬語を使っていた輝王だったが、かつての先輩の異変を察知し、相手の言動に惑わされぬよう、乱雑な言葉を選んだ。
「事情、か。勘のいいお前のことだ。すでに気付いているんじゃないか?」
ジェンスの鋭い視線が、輝王を射抜く。
「俺たちが、この支部を襲撃した犯人だと」