にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 7-5

 午後7時、サワヒラ港。
 すでに陽は落ち、港の広さに対して明らかに設置台数の少ない街灯が、弱々しく辺りを照らす。穏やかな波の音がはっきり聞こえるほど、静まり返っていた。
 このサワヒラ港は、サテライトにある他の港同様、シティに運ぶ物資を輸送するための工業港だ。周りには長方形型の倉庫が立ち並び、各工場で生産された様々な物資が保管されている。
 しかし、この1週間、サワヒラ港から運び出された物資はない。それどころか、毎日来航するはずの定期便は、姿すら見せていなかった。
 ――その原因である、1隻の貨物船。
 鋼鉄の巨体を静かに浮かべ、出発の時を待ち続けている。
 その貨物船の前に、3つの人影があった。
「……ここまで来ても、セキュリティからの接触は無しか」
 ダークグレーのスーツの上に、黒のコートを羽織った輝王は、周囲を見回す。その右胸には、セキュリティの紋章が輝いていた。
 セラの情報によれば、サワヒラ港は治安維持局の監視下にあり、通常の作業を中断しているとのことだったが……。
 輝王のほうから所長や他の同僚に連絡は取っていない。明らかに不審人物である3人を見逃しているのは、何か考えがあってのことだろうか。それとも、セラがアルカディアムーブメントを通して、工作をしたと見るべきか。
「余計な手間が省けてよかったではないか。ともかく、中に入るとするかの」
 腰に提げた刀の柄を握った切は、船尾に向かってかかった階段型の橋を進む。貨物船に乗り込むためには、この橋を通るしかない。
「…………」
 詠円院を出てから一言もしゃべらないティトが、無言のまま後に続く。
 最後尾を歩く輝王は、相手の意図について考えを巡らせる。
 レボリューションの狙いは、セキュリティ本部の襲撃、及び治安維持局の最高責任者であるレクス・ゴドウィンの殺害だ。おそらくは、サテライトの環境改善を目的としたテロ行為だろう。
 しかし、なぜ第17支部を襲撃したのか。
 支部の襲撃によって、本部の人間が駆り出されるまでの事態に発展した。
 あの事件があるまで、レボリューションの存在など、サテライトにたむろする他のデュエルギャングより少し危ないくらいの認識だったはずだ。竜美とジェンスがセキュリティ職員になりすましていたことで、ある程度の情報操作は可能だったはず。暗殺や襲撃を行うには絶好の環境だ。
 その環境を放棄してまで、支部を襲撃するメリット――
(売名行為、か?)
 少なくとも、今現在治安維持局の人間でレボリューションの名を知らないものはいないだろう。ゴドウィン長官の耳にも入っているはずだ。
(ん? 待て)
 思い返せば、輝王をサテライトに異動させたのは、長官その人だ。本部の捜査によって、レボリューションのアジトが第17支部の担当エリアにあることが濃厚になり、最前線で捜査に当たるようにと――
 決戦を目前に控えているというのに、思考の歯車が噛みあわない。
 アジトを探っていたとなれば、当然本部はレボリューションを危険視し、情報を集めていたことになる。それならば、ここまでの事態に発展することを防げたのではないのか?
 いや、そもそもアジトの情報自体がレボリューション側に操作されている可能性もある。しかしそうなると、操作された情報をゴドウィン長官が信用したことに疑問が残るわけだが……。
「どうした輝王? 難しい顔をしておるぞ」
 前を歩いていた切が振り返り、こちらの様子を窺ってくる。いつの間にか、歩く速度も遅くなっていたようだ。
「……いや、何でもない」
 事件の背景を疑いだすとキリが無い。ひとまずは、レボリューションとの戦いに集中しなければ。
 階段を登り切り、船尾にある甲板に出る。明かりが無いせいで詳しい状況は分からないが、すぐ前方に船内に通じる階段があるようだった。右に曲がって船体に沿うように進めば、船頭の甲板に出るだろう。

「あれから1週間……タイムリミットぎりぎりってところかしら。意外と遅かったわね。何か思うところでもあったのかしら? 輝王」

「――!」
 甲板に女性の声が響き渡り、切が刀を構える。
「裏切り者は置いておくとしても、興味深いヤツを連れてきてくれたみたいね。礼を言わせてもらうわ」
 ボウッ! と炎が揺らめいたかと思うと、闇の中に深紅のロングコートが浮かび上がった。