にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 7-4

「やれやれ。私の出番が奪われてしまったようですね。まあ、輝王さんがやる気になってくれたみたいですし、結果オーライとしましょうか」
 呆れ気味にかぶりを振ったセラは、木造の建物の方に視線を向ける。
「……なぜそこまで俺にこだわる?」
 輝王のことをどこまで調べたのかは不明だが、セキュリティの精鋭部隊が倒せなかった相手に対し、わざわざ一捜査官をぶつける意味はあるのだろうか。
「私はアルカディアムーブメントの人間ですよ? こちらにも色々思惑があるのです」
 輝王の問いに対し、セラは答えをはぐらかす。が、「アルカディアムーブメント」という単語が、無意味に見える行動の理由を裏付けているように思え、輝王はそれ以上追及しなかった。
「……これで、私も目的が果たせそうです」
「何か言ったかの?」
「いいえ、何も。それよりも、ストラさんはどうするのです? もし容体が急変するようなことがあれば――」
「ストラさんはちゃんと診ておくから、安心なさい」
 閑散とした中庭に、芯の通った女性の声が響く。
「矢心先生」
「悪いけど、話は聞かせてもらったわ。あなたたちにはやるべきことがあり、行かなければいけないんでしょう? ――後悔しないためにも」
 矢心がどの程度話を聞いていたのかは分からないが、その瞳は全てを見透かしているかのようだった。
 輝王と切が頷くと、矢心はため息をつき、声を和らげる。
「……昔、いつも無茶ばかりしていた馬鹿も、そんな瞳をしていたわ。自分が決めたことは、絶対に曲げない人だった」
 懐かしむように遠くを見つめたあと、矢心は薄く微笑む。
「必ず帰ってきなさい。ここで待つ、彼女のためにも」
 いまだ眠り続ける後輩の姿を思い浮かべ、輝王はもう一度頷く。
 それを見た矢心が頷き返し、建物へきびすを返そうとしたとき――
「わたしも行く」
 矢心に隠れるようにして、新たな人影が現れた。
「ティト・ハウンツ……?」
「ティト様!?」
 銀髪の少女の登場に驚いたのは、セラだ。慌ててティトに駆け寄ると、その場で跪いて具合を確かめている。
 灰色の瞳には光が戻っていなかったが、
「わたしは、そうしを手伝うって決めた。だから、そうしの弟を助けないといけない」
 小さな声で、しかしはっきりと告げるティト。
「ティト様……」
「一緒に行く」
 必要最低限の言葉を伝え終えると、こちらの返事を聞かずに、ティトは輝王の横に並んだ。
 その顔に感情は浮かんでおらず、ただじっと虚空を見つめ続ける。
 誰の目から見ても、ティトの体調が万全でないことは明らかだ。初めて出会ったとき……創志と一緒にいたときは、もう少し喜怒哀楽を表情に乗せていた気がする。
「……どうするのじゃ?」
 困ったように尋ねた切は、輝王とセラ、そして矢心を順々に見回す。
 ここで待っていろと言っても、彼女は聞かないだろう。
 矢心も同じ考えなのか、何も言わずに目を伏せた。
「分かりました。輝王さん、ティト様のことよろしくお願いしますね」
 立ち上がったセラは、複雑な表情でそう言った。
「お前は来ないのか?」
 人を焚きつけに来ておいて、と思ったが、アルカディアムーブメントにとって今回の件に関わるメリットは少ない。治安維持局から目をつけられている彼らからすれば、むしろレボリューションを放置し、セキュリティに打撃を与えてもらったほうが動きやすくなるのではないか。
 そんな輝王の考えとは逆に、セラは苦笑いを浮かべる。
「先に済ませなければならない用事がありましてね。そちらが終わり次第合流しますよ。私も、ティト様のことが心配ですからね」
 ――貴重な人材として、と続くのかどうかは判別しづらい。セラの行動を見ている分には、本当にティト個人の身を案じているようにも見える。
「……分かった」
 色々訊きたいことはあったが、それらを全て飲み込み、輝王は前を向く。
 隣に並ぶのは、対照的な2人の少女。
「決着をつけに行こう」
 向かうは、サワヒラ港に停泊している貨物船。
 体に力が漲っていくことを実感しながら、輝王は歩き始めた。