にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 7-3

 ――高良火乃は、復讐など望む人間ではなかった。

 本当は、ずっと分かっていた。
 だが、親友を殺され、何もできなかった自分への苛立ちと、犯人への憎しみが真実を覆い隠した。
 絶対に犯人を見つけ出し、断罪する。
 それが、亡き親友への弔いになると頑なに信じた。
 そうしないと、今まで輝王が積み上げてきたものが壊れてしまいそうだったから。
 覚悟はしたつもりだった。
 決意もしたつもりだった。
 ストラを殺そうとした瞬間に生まれた葛藤が、ずっと目を背けてきた真実を突き付けた。
 覚悟も決意もまやかしだった。
 今まで拠り所にしてきた「復讐」という理由がなくなったとき、輝王は自分が何をしたいのか分からなくなっていた。
 それが、輝王の「本音」。
 所長と連絡を取らないのも、どうしたらいいのか迷っているからだった。
「お前の仲間たちは、大罪人になるのを覚悟したうえで、本部を襲撃しようとしているのかもしれない……世界を、変えるために。その覚悟を止めるだけの理由が、お前にはあるのか?」
 迷いの答えを求めるかのように、輝王は切に向かって言葉をぶつける。
 切はゆっくりと空を見上げ、澄んだ声で告げる。
「何を言っておる、輝王。誰が何と言おうと、わしはレビンたちを止めるぞ」
 少女の顔には、力強い笑みが浮かんでいた。

「わし自身が皆を罪人にしたくないから、止めに行くのじゃよ。仲間が悪いことをしようとしているなら、それを止ようと思うのは当たり前じゃろう?」

 その姿に、憧れだった親友の面影が重なる。

 ――高良火乃は、復讐など望む人間ではなかった。

 ――そして、行動の理由を他人に委ねたりはしなかった。

 自分が助けたいから、助ける。高良はいつもそうだった。
 そんな高良に――輝王は憧れたのだ。
「……1人で乗り込むつもりですか?」
 今まで黙っていたセラが、緊張した面持ちで話す。
「仮に罠ではなかったとしても、大勢のセキュリティ捜査官を全滅させるほどの手だれ揃いです。あなた1人が行ったところで、何かが出来るとは思えません」
 辛辣な、しかし冷静な状況分析を告げるセラ。
 それに対し、切は笑顔を崩さぬまま答える。
「何かが出来るまで、わしはあきらめぬよ。何度だって立ちあがってやるのじゃ。それに……」
 切はデッキの一番上からカードを引くと、それをじっと見つめる。
「レビンには訊きたいこともあるしの」
「……それは?」
 カードを持つ手が震えているのに気付き、輝王は静かに尋ねる。
「レビンから渡されたカードじゃ。忘れ物、と言っておったが、わしにはさっぱり覚えがない」
 そう言って、切はこちらにカードの表側を向けてくれる。
 <大将軍 紫炎>――なるほど、絵柄や効果を見る限りでは、確かに<六部衆>と関係がありそうなカードだった。
「このカードを見ていると、ひどく不安になるのじゃ……何か大切なことを忘れているようでな。それを確かめるためにも、わしは行かねばならん」
 表情を引き締めた少女は、決意を告げると<大将軍 紫炎>をデッキに戻す。
 そして、輝王に背を向け、一歩を踏み出そうとする。
「待て」
「……待たぬよ」
 輝王が呼びとめた意図を汲んだのか、切は沈んだ声色で言葉を紡ぐ。
「わしがお主を巻き込まなければ、こんなことにはならなかった。これ以上迷惑はかけられぬ」
「――それは、お前の理屈だろう」
 はっきりと告げ、輝王は少女の肩を掴む。
 いくら強い決意を言葉に出そうとも、年相応の細い肩は小刻みに震えていた。
「しかし――」
「お前にも目的があるように、俺にもレボリューションと戦う理由がある」
 今までは、親友の敵を討つため。
 しかし、今は違う。
「俺を誰だと思っている? ネオ童実野シティの治安を乱そうとしているやつらを放置しておけるはずがないだろう」
 セキュリティの捜査官として、これから起ころうとしている悪事を見逃すわけにはいかない。
 輝王は「建前」を述べたあと、一息ついてから「本音」を口にする。
「俺は、お前の力になりたいと思っている。ダメか?」
 ――正直なところを言えば、切の姿に高良を重ねたということもある。
 しかし、それ以上に輝王は、この仲間思いの少女を助けたいと思った。
 そのために戦いたいと思ったのだ。
「……輝王」
「俺も一緒に行く。このままやられっぱなしでは気が済まないからな」
「――うむ!!」
 こちらに振り向いた切は、ぱあっ、と輝くような笑顔を浮かべ、頷いた。