にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 7-2

 木造の建物から出れば、輝王の心中とは対照的に、澄み切った青空が広がっている。
 所構わず雑草が生い茂った、詠円院の中庭。とはいっても、心を和ませるような噴水があるわけでもなく、備え付けのベンチも足が折れたまま放置されていた。
「さて、このあたりでいいでしょう」
 「ワケあり」の患者たちは必要以上に自分たちの姿を晒すことに抵抗があるようで、中庭に人影はなかった。雑草の中に姿を隠して聞き耳を立てるような物好きもいないだろう。
「…………」
 輝王が相手の出方をうかがっていると、セラはわざとらしくため息をつき、
「これからお話するのは、最近のレボリューションの動向です」
 含みを持たせた声色で切りだした。
「セキュリティがサテライトの治安維持を放置気味だとはいえ、さすがにあそこまでのことをやられてリアクションを起こさないわけにはいかないでしょう。シティにある本部からも人員を集め、すぐにレボリューションの調査が始まりました」
 セラがちらりと視線を送ってくる。
「……あなたにも、連絡がいっていると思いますが?」
 彼の言うとおり、事件後、すぐに第17支部の所長から着信があった。残されたメッセージを聞く分には、ジェンスの言っていた「所長はマインドコントロールによって利用されていただけ」という事は真実だったようだ。
 メッセージの内容は「事件の顛末を知り、犯人を捕らえるために情報を」といった感じのものだった。
 しかし、輝王は所長と連絡は取っていない。
 レボリューションの黒幕と接触しマインドコントロールを受け、支部襲撃の手助けをした可能性のあるストラ。元メンバーである切とティト。
 この3人を連れてセキュリティと接触すれば、彼女らの処遇がどうなるかは明白だった。
 ストラはともかくとしても、あとの2人は更生施設に送られ、有益な情報を絞りつくすまで「尋問」を受けるのだろう。
 そうならないためにも、所長と連絡は取れない。

――それが、輝王の「建前」だった。

「相当な数の捜査官を動員しただけあって、レボリューションの所在はすぐに掴めたそうです。彼らは今、サワヒラ港に停泊している貨物船に集結しています。狙いはおそらく――」
「船でシティに渡り、治安維持局を襲撃するつもりか」
「その通りです」
 輝王が口を挟んできたことに笑みをこぼしながら、セラは続ける。
「セキュリティ側もその情報を掴んだようでしてね。つい先日、レボリューションメンバーを拘束する作戦を行ったようです。具体的な内容は分かりませんが……大方、数に物を言わせて力づくで制圧しようとしたのでしょう。デュエルギャングへの対応なんてものは、昔から変わらないものです」
 本部から捜査官が派遣されたとなれば、デュエルの腕が相当立つ者もいたはずだ。レボリューションがどれほどの人数を集めていたのかは知らないが、この調子なら事件は収束へと向かっているのだろう。
「しかし、作戦は失敗しました。貨物船へ乗り込んだ捜査官は全滅……とはいっても、死者は出ていないようですが」
 そんな輝王の考えを裏切るように、セラは驚愕の事実を突き付ける。
「この事態を受け、セキュリティは次の作戦を慎重に練っているようですが……不可解なのは、それからのレボリューションの動きです」
「……何があった?」
「何もなかったのですよ。セキュリティからの襲撃を受けた後も、彼らは貨物船に留まっています。出航するのでもなく、逃亡するのでもなく、ずっと港に停泊したままなのです。中にレボリューションメンバーがいることも、セキュリティの監視によって確認済みです」
 セラの声から軽さが消え、考えをまとめるかのように両腕を組む。
「そう。これではまるで――」

「わしを待っているようじゃな!」

 ガサガサ、と雑草の束が揺れ、そこから黒髪のポニーテールが飛び出てくる。
 そこには、雑草の中に姿を隠して聞き耳を立てていた物好き――友永切の姿があった。
「1週間後、サワヒラ港で待つ……レビンの言葉は本当だったようじゃ。つまり、これがあいつらを止める最後のチャンスになるわけじゃ」
 堂々とした足取りで草むらから出てきた切は、輝王とセラの間に割って入る。
「レビン・ハウンツ……レボリューションのリーダーがそう言ったのですか?」
「うむ。俺たちを止めたいなら、来いとな」
「なるほど。これで、罠を張っている可能性がますます高まりましたね」
 切がレビンと接触していたことは、すでに聞いてある。彼の真意を問いただそうとするも、デュエルで敗れ、目的は叶わなかった。
 着物の少女は、左腕に付けたデュエルディスクと、腰に提げた日本刀に目をやる。
「わしは、まだ諦めるわけにはいかぬ。例え罠だったとしても、ここでのうのうと待っていることなどできん」
 決意を語る切の瞳は、出会ったときの輝きを失っていない。
「今度こそ……あやつらを助けてみせる」
 覚悟を形にするように、切は右拳を突き出す。
「助ける……か」
 その単語を聞いた輝王の心の中から、この1週間向き合わないようにしていた「本音」が漏れだす。
「レボリューションの連中は――お前の仲間たちは、本当にそれを望んでいるのか?」
 ジェンスは言っていた。歪な世界を作り出した元凶――レクス・ゴドウィンを殺すと。
 現レボリューションメンバーが、光坂にマインドコントロールを受けている可能性はある。
 しかし、そうではなかった場合。
 彼らが、自らの意思で事を起こしているのだとしたら。
 切の仲間たちは、シティの人間全てを敵に回す覚悟で、変革を成し遂げようとしている。
 それが正しいことなのかは別にして、そこまでの覚悟を持った人間たちを止めるだけの理由……切には、それがあるのだろうか。
 当人たちが望んでいないことを、押しつけられるのだろうか。