にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 10-1

「もう大丈夫? リソナ」
「……へいき、です」
 ようやくティトの胸から顔を離したリソナが、か細い声で言う。
 水色の瞳はいまだ涙に濡れていたが、受け答えができるくらいには落ち着いたようだ。
「それでは行きましょうか。あまり時間もないことですしね」
 事態を静観していたセラが、ティトに歩み寄りながら告げる。
 彼の言うとおり、残された時間は少ないだろう。
 竜美やジェンスは輝王たちを「肩慣らし」の相手としてある種歓迎していたが、リソナは別だ。一応デュエルをしたとはいえ、もしティトが負けていたら、確実に殺されていただろう。
 狩りを楽しむ余裕はなくなった。ここからは、本気で輝王たちを始末しにくるはずだ。
 サイコデュエリストの力を使った、ソリッドビジョンの実体化。
 デュエルという形式に捉われず、単純にその力を「暴力」として振るってくるのなら――
 果たして、自分は戦い抜けるのだろうか。
「――フッ」
 無意識のうちに微笑が浮かんだ。
 愚問だな、と我ながら思う。
 切に対してあれだけの大見えを切っておきながら、考えることではない。
 自分は、切の願いを叶えるためにここにいる。
 今はそれだけで十分だ。自分の非力さを嘆くのは、全て終わった後でいい。
 そう考えた輝王が、一歩を踏み出したときだった。

「あのー、ちょっとよろしいですか?」

 休憩室の中に、気の抜けた声が響き渡った。
「…………?」
 ティトが不思議そうに首をかしげる。が、それも無理のないことだ。
「ええと、すいません。そんなにお時間は取らせませんので」
 その声は、聞く者に妙な感覚を与える。頭の中に直接響くようにはっきりと聞こえているようで、どこか遠くから聞こえてくるようでもある。声の出処が掴めないのだ。
「――!」
 輝王が集中しながら周囲に視線を巡らせると、部屋の片隅に人影を見つける。
 ――いつの間にあんなところに?
 皆本信二が休憩室を去ってから今まで、輝王たちとリソナ以外の気配は感じなかった。
 人影は、麻で織られたローブで全身を覆い、フードで顔を隠している。
「…………」
 どうやらセラも人影の存在には気付かなかったようで、表情を険しくしている。
「いや、いや。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。僕、悪いサイコデュエリストじゃないですから」
 右手をひらひらと振りながら、こちらに歩いてくる声の主。高いとも低いとも言いづらい中性的な声だ。身の丈は165前後だろう。ローブのせいで、容姿から性別を判断することもできない。
「――お前も、レボリューションのメンバーか?」
 当たり前のことだと思いつつも、相手への最初のアプローチとして、輝王は問いを飛ばす。
「まあ、一応そういうことになってます。じゃなきゃ、ここに入れないですからね。ああ、でも勘違いしないでください? 俺は光坂さんたちがやろうとしていることに全然興味ないんで。ホントですよ? 私、近所では有名な正直者です」
 ローブの人物は機嫌よさそうに舌を滑らせる。いちいち一人称を変えたりと、随分と独特な喋り方だ。
「オイラがレボリューションに入ったのは、別の目的があったからです。知りたいですか? 知りたいですよね? 拙者は心優しいですから、特別にお教えしましょう!」
 まるで舞台の上で役を演じる俳優のように、リズムよく言葉が紡がれる。
 輝王やセラが口を挟もうとしても、そのタイミングを待っていたかのように次の言葉が飛ぶ。ティトやリソナに至っては、ただただ事態を傍観することしかできない。

「ワタクシがレボリューションに入った理由。それはですね。あなたに会いたかったからですよ、輝王正義さん」

「――俺に?」
 その単語を絞り出すのに、数分の時間を要した。相手のペースに呑まれかけていたのかもしれない。
「そうです。あなたがレボリューションのことを追っていることを知り、ここにいれば会えると思っていました」
 ローブの人物はそこで言葉を区切ると、ゆっくりと進めていた足を止めた。
「どうしても2人きりで話がしたくて。用心深いあなたのことです。こんな状況でもなければ、ボクの話を聞いてくれないでしょう?」
「……どうかな。俺を過大評価しすぎじゃないか?」
 切の姿が脳裏をちらつく。以前までの自分なら、レボリューションの名が出ただけで飛びついていただろう。
「まあ、まあ。結果的に遠回りになったとしても別にいいんです。あたいは今こうしてあなたに会えたんだから」
 両手を広げ、天を仰ぐローブの人物。フードの隙間から、白髪がちらりと見えた。
「……リソナ、こんな人知りません」
「輝王」
 リソナは明確な敵意を発し、ティトは輝王に判断をゆだねるように視線を向けてくる。
 セラは表情を険しくしたまま黙り続けていた。
「……そろそろ本題に入りましょうか」
 そう言って、ローブの人物は懐から1枚のカードを取り出す。
 そして、輝王に見せつけるように、カードの表面を向ける。
「――ッ!」
 ローブの人物の思惑通りなのだろうが――反応したのは、輝王だけ。
「そのカードは……!」
 白い枠で囲まれたカード――シンクロモンスター
 <ドラグニティナイト・バルーチャ>。

「高良火乃さんからの遺言を預かってます。2人きりで、話をしましょう?」