にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 7-6

「大原竜美……」
 カツ、とヒールの足音を響かせながら、大原竜美が輝王たちの前に現れる。左腕に装着されたデュエルディスクはすでに展開しており、1枚のカードがセットされているのが見えた。
「竜美……!」
「気安く私の名前を呼ばないでもらえる? この裏切り者」
「なんじゃと!」
 今にも跳びかからんとする勢いで、切が吠える。
 竜美がレボリューションのメンバーであることは、切にも確認済みだ。
 第17支部にいたとき――ジェンスや竜美に切の情報を伏せることと同じように、切にもストラ以外の同僚の情報を伏せていた。結果的に、それが裏目になってしまった。
 もし、切が竜美やジェンスと接触していたら――
「あんたのせいで、計画が随分狂ったわ。本当なら、ストラ・ロウマンも本部襲撃のメンバーに加えるはずだったのに」
 竜美は苛立ちを隠そうともせず、着物の少女を睨みつける。
「――まあいいわ。それよりも、さっさと始めましょう? あんたたちは、私らの邪魔をしに来たんだものね」
 輝王たちの反応を待たずに、竜美はデュエルディスクを構える。
「……ッ!?」
 その行動に、刀を抜こうとしていた切が意表をつかれる。
「……なるほど。そういうことか」
 輝王は相手の意図を察し、一瞬だけ苦笑いを漏らす。
 竜美がデュエルを挑んできた理由。貨物船が1週間停泊していた理由。輝王たちを待っていた理由。
 ――輝王たち3人が本当に「障害」になるのなら、支部襲撃の際に始末するなり、明確な罠を仕掛けるはずだ。
 そうせずに、デュエルを仕掛けてきた理由。
 竜美の行動によって、全てが繋がった。
「本部の連中では力不足だったか?」
 輝王の返しに、竜美は目を丸くすると、不敵に唇の端を釣り上げる。
「こっちの考えはお見通しってわけね……なかなか骨のある奴らだったけど、あれじゃ物足りないわ」
 細い指先で唇をなぞり、妖艶な笑みを浮かべる竜美。

「あんたたちには、私たちの『肩慣らし』に付き合ってもらう」

 竜美の背後に、巨大な火柱が立ち上る。
 この後に控える、本部襲撃と言う決戦。サイコデュエリストとしての力を最大限に発揮するために必要な「ウォーミングアップ」……その相手に、輝王たちは選ばれたというわけだ。
「そこの裏切り者に身の程を思い知らせるのもいいし、輝王とのデュエルも楽しそうだけど――」
 まだ状況を飲み込めない切は、戸惑いの表情を輝王に向けてくる。
 だが、竜美は待ってなどくれない。
「私の相手はアンタよ――氷の魔女」
 深紅のロングコートがはためき、竜美の指先が銀色の少女を指す。
「…………」
 今まで何の反応も示さなかったティトが、ゆっくりと前に進む。
「アンタは私のことを知らないでしょうけど、私はアンタを知ってる。アンタのことは前から気に食わなかったのよ。『処刑人』とか言って特別扱いされてさ」
 不快感を体中から発しているのが、はっきりと分かる。
「レボリューションに入る前もそうだったわよね――アンタは覚えてないだろうけど」
 竜美が言い終わる前に、ティトはデュエルディスクを展開させる。
 その虚ろな瞳は、一体何を見ているのだろうか。
「むかつくのよ。だから、潰してあげるわ。氷の魔女。完膚なきまでにね」
 見る者を焼き殺してしまいそうな残忍な炎を瞳の奥に宿し、竜美が笑う。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! 一体どういう――」
「先に行ってて……いいんでしょう?」
 ようやく言葉を発した切に対し、ティトは短く指示を出す。
「出来ることなら、3人全員潰してやりたいけどね。私の他にも肩慣らしが必要な連中が首を長くして待ってるわ。そこの階段から船内に入れる」
「いやだからそういうことではなく――」
 いまだ混乱した様子の切を見て、輝王はその肩を掴んで強引に引き寄せる。
「ひゃっ――!」
 脈絡のない行動だったせいか、引き寄せられた切が変な声を上げる。
「……後で説明してやる。さっさと移動するぞ」
 輝王は切の耳元に顔を近づけると、他の2人には聞こえない声で耳打ちする。
「ここにいると巻き込まれる」
「――!」
 それで察したのか、切はこくこくと頷く。
 竜美の発する熱気と、ティトが発する冷気。2つの相反する気がぶつかり合い、ごく小規模な爆発を生み出している。
 この2人が本気でデュエルをしたら、戦いを見守るなどと悠長なことは言っていられないだろう。竜美も自分の力を分かっていて、船尾甲板を舞台に選んだのだ。
「あまり無理はするなよ、ティト・ハウンツ」
「…………」
 輝王の呼びかけにも、ティトは答えなかった。
「――行くぞ、切」
「う、うむ」
 銀髪の少女の脇を通り過ぎ、輝王と切は船内へと向かって行った。