にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 3-6

 氷像の足元には水たまりが出来ていて、氷が溶け始めていることが分かる。
「これは一体……」
 状況が理解できず、輝王は疑問の言葉をこぼす。
「私がここに来た時には、こんな感じだったわ。そこで縛ってある連中も氷漬けにされていたみたいなんだけど、氷が溶けてようやく脱出できたみたい」
 縄で体を縛られ、柱に寄りかかるようにして座っている男たちは、皆一様にげっそりとした顔をしている。
 すぐ隣にはデュエルディスクが山積みになっている。男たちが装着していたものだろうか。
「でも、どんな方法を使えば人間を氷漬けにできるんですか?」
 ストラも混乱しているようだ。いまだ氷の中に閉じ込められた人間を見つめながら、疑問を投げかける。
 ……こんな芸当、普通の人間にはできるはずはない。設備が整えば可能だろうが、そんなものがサテライトにあるとは思えないし、そこまでして人間を氷漬けにする理由も不明だ。しかも、出来た氷像を維持するためには、この廃美術館自体が巨大な冷蔵庫のようなものになっているはずだ。もちろんそんな設備は見られない。
 輝王は縛られた男たちに視線を移す。彼らは疲労困憊といった様子だが、意識ははっきりとしているようだ。つまり、彼らは「氷の中で生きていた」ということになる。
(――回りくどく考えるのはやめるか)
 この光景を見たときに、輝王には見当がついていた。
 間違いなくサイコデュエリストの仕業だ。
「氷の魔女の噂って聞いたことある? そいつがレボリューションと関与している、ってタレコミがあってね。半信半疑だったけど、居場所を割り出して乗り込んでみたら、こんな感じよ」
 氷の魔女。初めて耳にする単語だ。
「たぶんその魔女が氷漬けにしたんでしょ。本人は見当たらないけどね」
 竜美が投げやりに言葉を放つ。
 ストラが見まわしている氷像の中には女性の姿もあったが、まさか魔女本人が氷漬けになっているとは考えにくい。
「んで、こいつらがレボリューションのメンバーだった、ってことは吐かせたんだけど……それ以上はだんまりなのよ」
 お手上げ、といわんばかりに竜美が両手を広げる。
支部に連行して、取り調べを行った方がよさそうだな。衰弱しているものがいれば医者を手配しよう」
「そこまでしなくても大丈夫だと思うけど……」
 竜美とジェンスがこれからの方針を話し合っていると、
「きゃっ!」
 とストラが悲鳴を上げた。
「どうした!?」
 急いで駆け寄る。びっくりして腰が引けているストラの前には、大きく亀裂の入った氷像がたたずんでいた。中には、どぎつい金色に髪を染め、両耳に無数のピアスをして革ジャンを着こんだ男が入っていた。
 その男の鋭い眼が、ぎょろり、と動く。
 ピキ、ピキ、と氷像全体に亀裂が広がっていく。
「離れろ!」
 輝王は強引にストラの手を引き、後ろに下がらせる。
 そして、ガキン! という音と共に氷が砕け、中の男が飛び出してくる。
 バラバラとこぼれる氷の塊を思いっきり踏みつけ、男は第一歩を踏み出した。
「ハァ……ハァ……あのガキは……ティトはどこに行きやがった!!」
 男は非常に興奮しており、せわしなく周囲に視線を走らせた。
「なんだ……てめえらは……!」
 目の前に立つ輝王とストラ、そしてその後ろにいる竜美とジェンスの姿が目に入ったのか、男は拳を構える。その左腕には、デュエルディスクが装着されていた。
「……そいつらを離せッ!!」
 男の視界に拘束された仲間たちが入った途端、その瞳がカッと見開かれ、雄叫びをあげながら突進してくる。
(錯乱しているな。まずは落ちつかせなければ――)
 そう思った輝王が、ストラをかばうように前に立とうとした瞬間、

「いいですよ。わたしにデュエルで勝てたら、あの人たちを解放してあげます」

 輝王が動くよりも早く、ストラは男の前に立ち、右手の人差指1つで突進を止めていた。
「な――!?」
 驚愕したのは、男か、それとも自分か、輝王には分からなかった。
 さっきまで腰が引けていたくせに……とても同一人物の行動とは思えない。
「ディスクをつけてるってことは、あなたもデュエリストなんでしょう? だったら……」
「ロウマン! 何を勝手なことを……」
 輝王は急いで制止の声を上げる。今までの彼女からは考えられない行動だ。現場経験は少ないだろうが、こんな無茶苦茶な提案を言いだすような人間ではなかったはずだ。
「いいんじゃない? やらせてあげたら?」
 いつの間にか輝王の背後に立っていた竜美が、デュエルを許可するような発言をする。
「な、何を言って……」
 輝王の頭がますます混乱する。
「力でねじ伏せるよりも、デュエルで負かしたほうが大人しくなるもんよ。精神をぶちのめすわけだからね。その方が、今後の事情聴取もやりやすくなる」
「…………」
 輝王の脳裏に宇川とのデュエルの映像がよぎる。
 確かに、輝王自身も宇川の誘いに乗ったとはいえ、彼をデュエルによって屈服させようとしていた。
「大石さん……」
 縛られた男の1人が声を上げた。
 視線を移せば、拘束された男たちを監視しているジェンスも、黙って腕組みしたままでストラを止めようとはしない。反対しているのは輝王だけだ。
「へへ……言ったな? 俺が勝ったら、仲間たちを離してもらう!」
 大石と呼ばれた男のほうも、ストラの言葉に乗ったようだ。後ろに跳んでストラとの距離を離すと、デュエルディスクを展開させる。
「その代わり、わたしが勝ったら大人しくついてきてもらいます。あなたたちには、レボリューションのことについてたくさん喋ってもらいますから」
 そう言ったストラは、ちらりと輝王のほうを見た。
 ここは任せるしかないか……輝王は後輩に頷き返す。
「俺は急いでんだ! さっさとてめえを倒して、レビンの野郎をぶん殴りに行かなきゃいけねえんだよ!」
「残念ですけど、あなたが向かうのは取り調べ室ですよ」
 大石の気迫に押されることなく、ストラは皮肉を返す。
 輝王の前に立つ女性は、本当にストラ・ロウマンなのだろうか――そう疑いたくなってしまうほど、たたずまいが変わっている。
「ざけんな!!」
 ストラの挑発に激昂した大石が吠える。
「始めましょうか。急いでるんですよね?」
「――デュエルだ! 二度と生意気な口がきけないようにしてやる!」