にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 3-5

「先輩、おかえりなさい」
 パトロールを終え姉ヶ崎アパートに帰ると、出迎えた後輩が顔をほころばせた。
「……あいつの様子はどうだ?」
 なんとなく「ただいま」と返すのが気恥ずかしくて、即座に話題を切り換える。
「まだちょっと熱があるみたいで、今はわたしのベッドで寝てます。食欲だけは相変わらずですけどね。今日は何回おかゆを作ったか……」
 苦笑しながらため息をつくストラの顔には、少し疲労の色が見て取れる。
 実のところ、体調を崩しているのはストラではなくて切のほうだった。連日の捜索による疲れに加えて、レボリューションを脱走してからの精神的疲労がのしかかっていたのだろう。昨日の夜、高熱を出して寝込んでしまった。
 アパートに1人で放置しておくのは危険だったので、ストラに看病を任せたのだ。
 留守中にセキュリティの情報を盗まれたらたまったものではないし、レボリューションに尾行されている線も捨てきれない。
「な、なんか新婚夫婦みたいな会話ですよね」
 ストラがもじもじしながら呟いたが、考え事をしていた輝王の耳には届かなかった。
「すまん、聞こえなかった。何だって?」
「な、何でもないです!」
 顔を真っ赤にしながらストラが大声を張り上げた瞬間、
 輝王の携帯電話が着信を知らせた。
 画面に表示された名前は「ジェンス・マクダーレン」。第17支部の同僚だ。
「はい、輝王です」
「ジェンス・マクダーレンだ。いきなりですまないが、今どこにいる?」
 電話越しに聞こえてくるジェンスの声は、緊迫感を滲ませている。
「姉ヶ崎アパートです。何かあったんですか?」
「竜美から連絡が入ってな。手を貸してほしいそうなんだ」
 そこでジェンスは一呼吸置き、続く言葉に輝王は息を飲んだ。

「――レボリューションのメンバーを拘束したらしい。あっちも興奮していていまいち要領を得ないが、1人2人ではなく集団を捕まえたようだ。17支部に連行するために人手が必要らしい」

 レボリューションメンバーの拘束……!? 事態が急転したことに驚く輝王だったが、ひとまずは自分の取るべき行動を瞬時に考える。
「すぐに向かいます。現場はどこです?」
「いや、君はそこにいてくれ。俺が迎えに行く。徒歩では時間がかかりすぎる場所だ」
 分かりました、と返して電話を切る。
「何があったんですか?」
 尋ねてくるストラだが、会話の内容からおおよその事態は把握しているようだ。
「竜美さんがレボリューションのメンバーを拘束したらしい。俺もこれから現場に向かう」
「わたしも行きます!」
「しかし……」
 休んでいる切を1人にしていいのだろうか。
「熱も大分落ち着いたみたいですし、大丈夫ですよ。重要なデータ類はシティから持ってきた金庫に閉まってありますし、万が一持ちだされても、何重にもプロテクトをかけてありますから、中のデータを見るには相当時間がかかるはずです」
 輝王の悩みを見透かしたように、ストラが力説する。
 竜美がどれだけの人数を拘束したのかは分からないが、確かに手は多い方がいい。
 ……それに、少しは切のことを信用してやった方がいいのかもしれない。
「分かった。すぐに準備しろ」
「はい!」
 やる気に満ち溢れたストラが、元気よく答えた。









 ジェンスの車が止まったのは、朽ちた美術館跡だった。
 辺りの闇が濃いせいで建物の全景は見えないが、美術館というよりは中世の貴族が住んでいそうな洋館に見える。
「ここは第17支部の担当地区からは外れているのだが……まあ律儀にルールを守る義理もないか。本来向こうが処理すべき案件を、無償で引き受けてやってるのだからな」
 ひとり言のようにこぼしたジェンスは、窮屈そうに体を縮こまらせて車を降りる。
「…………」
 後部座席に乗っていた輝王、ストラも続く。
 焦げ茶色の木製の扉はすでに開け放たれていた。
「行くぞ」
 ジェンスを先頭に中に入ると、
「遅い! いつまで待たせる気なのよ!」
 待ちくたびれたらしい竜美の怒号が出迎えた。
「すまんな。で、拘束したメンバーというのは?」
 日常茶飯事なのか、竜美の怒号を特に気にした様子もなく、ジェンスが問いかける。
「そこに縛っておいてあるわ。もっとも――」
 自分の背後を指差した竜美は、そこで一旦言葉を切り、

「半数以上は氷漬けだけどね」

 そこで、輝王は気付いた。
 エントランスらしき場所のいたるところに、中に人間が入った「氷像」が置かれているのを。