にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 3-4

 切がこのアジトを後にしたのは、3日前だという。
 誰もいなくなったアジトを隅々まで調べたが、有力な手掛かりは残されていなかった。
 しかし、放置されたテーブルやソファには埃が積もっていなかったし、冷蔵庫には飲みかけの水や清涼飲料が残されており、つい最近まで複数の人間がいたことは確かだった。
 一旦外に出てから、3人で手分けして廃ビルや周辺の建物を捜査したが、これも空振り。
 よほど熱心に調査していたのか、決められた集合時間に遅れてきたストラが、切に疑いの眼差しを向けながら言った。
「わたしたちを騙したんですか?」
 考えられるのは2つだ。
 1つは、尾行などの手段で切がセキュリティと接触したことを知り、慌てて逃走した。
 もう1つは、ストラの言うとおり、切が嘘をついているかだ。
「…………」
 しかし、切の表情を見る限りでは、後者の線は薄い気がした。
 口をぎゅっと結び、何かを懸命にこらえている少女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
 ……レボリューションを裏切ったとはいえ、心のどこかでは信じていたのだろう。
 かつての仲間たちが、自分の帰りを待っていてくれることを。
 切は無言のまま輝王の前に立つと、腰に提げた日本刀を差し出した。
「斬ってくれ」
 絞り出すような声で呟く。
「結果的に、わしはお主らを騙してしまった。その償いはせねばならん」
 刀の鞘を握った手は、ぷるぷると震えている。
 ――全く。いくらなんでも大げさすぎるし、時代錯誤もいいところだ。
「……この地区に他のアジトはないのか?」
 輝王の声に、うなだれていた少女がハッと頭を上げる。
「ちょ、ちょっと先輩!?」
 驚いた様子のストラが、珍しく非難の色をにじませる。
「仕方ないだろう。他にロクな手掛かりがないんだ。例え踊らされているとしても、俺とお前の2人だけで当てもなく探し回るよりはマシだ」
「それはそうですけど……」
 ストラは納得がいかないようだったが、輝王は考えを曲げるつもりはなかった。
 震える切の姿を見たとき、かつての親友の言葉が頭を掠めたのだ。

 人は簡単には嘘をつけない生き物だ。

 この少女を見ていると、不思議とその言葉を信じてみたくなった。
 もちろん、騙されているという線を捨てたわけではない。それを含めた上で、今は少女を信じてもいいと思っていた。
 ――根拠らしい根拠がないのは、高良に感化されすぎたかもしれない。
「……わしを信じてくれるのか?」
 捨てられた子犬のような目で見つめてくる少女に、
「今さら引き返せないだけだ。これで捜査が振り出しに戻るようなことがあれば……そのときは覚悟してもらう」
 輝王はぶっきらぼうに言い放つ。
 厳しい言葉を放たれたにも関わらず、切は顔を輝かせながら「うむ!」と大きく頷いた。










「報告書です」
「ああ」
 ジェンスは数枚の書類を受け取ると、素早く目を走らせる。
 切の存在は伏せてあり、「レボリューションのアジトと思われる場所に踏み込んだが、すでに逃走したあとだった」とまとめてある。
「なるほど。アジトを複数に分けることで、居場所が露呈した場合の組織崩壊のリスクを減らしているというわけか……」
「その分、大きな動きはできなくなるわね」
 竜美の意見に、輝王は頷いた。
 最初のアジトが空振りに終わった後も、切の情報を頼りにいくつかの場所を回ってみたが、レボリューションの尻尾を掴むことはできなかった。新たな拠点を構えたということも考えられるが、向こうは輝王たちが嗅ぎまわっていることに気付いたはず……おそらく、他の地区にあるアジトに移ったのだろう。
「そういえばストラちゃんは?」
 思い出したように竜美が尋ねてくる。
「ああ……あいつなら、体調を崩して休んでいます」
「ふ~ん……」
 気の強い竜美のことだ。「これだから現場慣れしてないエリートはダメね」のような厳しい愚痴が飛んでくるかと思ったが、
「心配ね」
 その一言だけだった。
「……パトロールに行ってきます。今日はそのまま直帰しても構いませんか?」
「ああ。構わんよ」
「ストラちゃんに『お大事に』って伝えておいてね~」
 デスクに突っ伏した竜美が、ひらひらと手を振っていた。