にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage サイドM 3-3

 高良火乃という人間は、輝王にとって親友であり、憧れの対象でもあった。
 彼と知り合ったのはシティにあるデュエルアカデミアで、当時成績トップだった輝王に対し、高良は下から数えたほうが早いくらいの実力しかなかった。
 しかし、彼はいつも人の輪の中心にいた。
 損得勘定なく行動し、誰彼かまわず手を差し伸べる、究極のお人好しだった。その結果、自分が傷つくことがあっても、全く意に介さなかった。
 反面、規律や規則で縛られることを嫌い、委員長を務めていた輝王とは何度も衝突した。そのたびに高良の人となりに触れ、彼の生き様を見せられ、輝王は不思議と憧れの念を抱くようになっていた。
 高良のほうも生真面目だった輝王から得るものがあったようで、やがて2人は親友になった。
 実のところ、輝王がセキュリティに入ったのは、高良のようになりたかったから、といっても過言ではない。規律の厳しいセキュリティに高良が入ったのは意外でもあり、納得もしていた。
 高良なら、きっと多くの人を救える。
 輝王はそう思っていた。
 セキュリティでの高良の仕事ぶりは、非常に評判が悪かった。
 1つの事件に固執しすぎて、解決までの時間が異常に長かったり、容疑者に感情移入しすぎてコロっと騙されたり、捜査の度に騒ぎを起こしたり……入ってまだ半年だというのに、早くもクビになりそうな状況だった。
 見るに見かねた輝王が、こう助言したことがある。
「あんまりこだわりすぎるな。仕事なんだから、割り切ることも必要だぞ」
 それに対し、不快そうに顔を歪めた高良は、こう返してきた。
「俺は割り切るとかそういうことできないの。馬鹿だから。自分が納得するまでやらねえと気が済まねぇんだよ」
 彼の頑固さに呆れると同時に、昔から変わっていないお人好しを嬉しく思った。
 容疑者に騙されまんまと逃げられた責任を上司に追及されているとき、高良が言い返した言葉は、輝王にアカデミア時代の記憶を蘇らせた。

「俺、人が簡単に嘘をつける生き物だって思いたくないんスよ。だから、まず相手を信じる。どんなにお説教されても、これだけは曲げるつもりはないんで!」

 ――そんな憧れの親友が、命を落とした。
 多くの人間を救い、好かれていたあの男が。
 高良の葬式に出席した大勢の人々の中で、輝王は静かに復讐を決めた。
 どんな手段を使ってでも、償わせてやる。










 切に案内されたのは、損壊の激しい廃ビル群だった。
 住居のある区画からはかなり離れていて、ビル倒壊の恐れがあるために立ち入り禁止となっている。が、マーカー付きの犯罪者やデュエルギャングは、セキュリティの見回りがないことを理由に平気で出入りしているという。
 辺りはまだ薄暗く、日の出まではもう少し時間がかかるだろう。
 いらぬ混乱を招かないように、輝王とストラはセキュリティの紋章を付けていない。輝王は黒のトレンチコートを羽織り、ストラは昨夜のジーンズに、焦げ茶色のジャケットを着ていた。最も、レボリューション側にこちらの動きが掴まれていた場合は、あまり意味がないが。
「こっちじゃ」
 切が先頭に立ち、ためらうことなく進んでいく。風に乗って砂埃が舞い、荒廃した雰囲気をさらに加速させていた。
 似たような建物が並ぶ中、切が止まったのは小さな事務所だったと思われる場所だった。
 穴だらけの扉を開け、奥へと歩を進める。人の気配はない。
 オフィスらしき部屋の中央には、片方の脚が折れて傾いたままになっているデスクがあった。切はデスクをどけると、その場にかがみこむ。
「……と」
 床板に積もった砂を払うと、扉を開ける取っ手が見えた。
「それは……」
「隠し扉か」
 輝王の言葉に、切が小さく頷く。そのまま取っ手を掴んで持ち上げると、錆びついた鉄がこすれあう音を響かせつつ、地下への入り口が現れた。
「元々は、避難通路として使われていたらしいのう。ま、それはともかく行くかの。ここから隣のビルにある――レボリューションのアジトに行ける」
 顔に浮かぶ緊張を隠すようにしながら、切が足早に地下通路へと降りていく。
 なるほど。アジト自体は隣のビルにあるが、この隠し通路を通らないと中に入れないということか。
 輝王は階段を下りると、前を歩くポニーテールの少女を追う。
「…………」
 少し間が開いて、後ろから小走りで近づいてくる音がした。


 鉄板でしっかりと舗装された地下通路を抜け、階段を上ると、窓の無い小部屋に出た。目の前に灰色の扉があるだけで、上ってきた階段以外に出入り口はない。輝王は素早く四方に目を走らせ、監視カメラがないことを確認する。
「おっと。お主らは地下通路で待機していてくれ。まずはわしが話をしてくる」
 姉ヶ崎アパートを出てから、切の口数は明らかに減っていた。今も厳しい表情を張りつけたままだ。
「説得するんですね」
「……うむ」
「俺たちはどのタイミングで踏み込めばいい?」
 トレンチコート越しに拳銃の感触を確かめつつ、尋ねる。
「そうじゃのう……5分、いや、7分くれ。7分経ってもわしが戻ってこなかったら、突入してほしいのじゃ」
「……分かった」
 必要以上の追及はせずに、輝王は切の要求を飲む。
「ありがとう」
 少女はぺこりと頭を下げ、重い雰囲気を放つ灰色の扉に向かっていく。
 ドアノブのすぐ上に取り付けられた電子ロックを、慣れた手つきで番号を入力し、解錠する切。その姿を階下から見守りつつ、輝王は緊張感を高めていく。
 果たして、必要になるのは拳銃か、それとも――
 左腕に装着したデュエルディスクに意識を走らせたところで、
「な、なんじゃこれは!?」
 驚愕に満ちた切の叫び声が聞こえた。
 輝王とストラは顔を見合わせ互いに頷くと、一気に階段を駆け上がる。解放された扉をくぐりぬけ、部屋の中に突入する。
「――!?」
 そこに広がっていたのは、
「誰も……何も、ない?」
 ストラの口から言葉がこぼれる。
 輝王はゆっくりとした動きで壁に埋め込まれたスイッチを押し、蛍光灯を点灯させる。
 レボリューションのアジトだったはずの部屋は、わずかな日用品を残して、もぬけの殻になっていた。