にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 4-2

「どうしたのじゃ? さっきからボーっとわしの顔を見て」
 切の黒い瞳が、不思議そうに揺らめく。
 友永切はすでに死んでいる?
 大石の言葉の真意が計れずに、輝王は思案顔でポニーテールの少女を見つめる。
 輝王の目の前にいる少女は、友永切を語る偽物なのか? もしそうだとしたら、なぜ友永切の名を語る理由があったのか? それとも――
 はめる場所が分からないのに、ピースばかりが増えていく。
 輝王は切に悟られないようにため息をつくと、再び前を向いて歩き始める。
 考えるのは後に回す。どの情報が正しいのか、じっくりと取捨選択する必要がありそうだ。
「変な奴じゃのう……――ッ!」
 駆けだそうとしていた切が、何かに気付いたように立ち止まる。
「どうした?」
「嫌なにおいがするのう。こっちの路地からじゃ」
 切が言っているのは、鼻をつくような悪臭ではなく「悪い気配」のことだろう。つまり、路地の先で犯罪行為が行われているかもしれない、ということだ。
 ズンズンと薄暗い路地に入っていく切。それを止めることなく、輝王は後に続く。
(――本当なら、俺が先に気付かなければいけないのにな)
 自分の胸に輝くセキュリティの紋章を見て、輝王は苦笑する。
「――配すんなよ。あとで倍に返してやるから。だからさっさと有り金よこせや。な?」
 予想通り、恐喝のお手本のようなセリフが聞こえてきた。細い路地が入り組んだここなら、人通りは皆無だろう。犯罪にはうってつけの場所というわけだ。
「あそこじゃ!」
 前を走っていた切が速度を上げる。見れば、前方にぽっかりと開けた空間がある。何らかの建物が倒壊してしまった跡地に見える。
「そこまでじゃ! 神妙にお縄につけい!」
 ……本人にしてみたら、決め台詞なのだろう。
 大声で叫んだ切が、空間に飛び込むと同時に刀を抜いた。
「げぇっ! な、なんだよてめえら!」
 そこにいたのは、雑に染めた金髪を逆立て、ぎょろりと両目を剥いた男だった。どことなく雰囲気が大石に似ているが、感じる覇気が違う。
 男は、瞳一杯に涙を浮かべた小さな男の子の胸ぐらを掴んでいた。
「ぬぬぬ……こんな小さな子供に手を上げるとは……許せん! 斬る!」
「待て。少し落ち着け」
「離せ輝王! こういう奴がいるから、いつまで経ってもサテライトの治安は良くならんのじゃ!」
 興奮した様子で手足をバタバタさせる切の肩を掴み、輝王は一歩前に出る。
「ここからは俺の仕事だ」
 輝王がそう言うと、切は逡巡ののち、刀を納めた。
「せ、セキュリティ……」
「第17支部所属の捜査官、輝王正義だ。恐喝の現行犯で貴様を拘束する」
「く……! 今捕まるわけにはいかねえ!」
 男は少年から手を離すと、輝王に向き直ってデュエルディスクを展開させる。
 その隙を見て、切が少年の元へ駆ける。
「大丈夫かの?」
 次の瞬間には、切は少年を抱きかかえ、こちらに戻ってきていた。
「な……!」
 男が驚愕に目を見開く。額から流れる汗が、太陽の光を受けて反射する。相当動揺しているようだ。
 助けられた少年はこくりと頷くと、すぐさま路地の出口に向かって走って行った。
 本来なら、セキュリティで保護した方がいいのだが――
「うむ。あやつのことなら心配いらん。サテライトで生きていくにふさわしい、いい瞳をしておった」
 根拠のない自信を見せる切。逃げて行った少年がすぐに襲われるようなことがあれば、彼女が反応するはずだ。
「――さて。それを展開したということは、デュエルを望んでいるのか?」
 冷や汗を垂らしながら身構えた男に対し、輝王は言い放つ。
「あ、ああ、そうだ! 俺とデュエルしろ! 俺が勝ったら、この場は見逃してもらう!」
 随分と虫のいい要求だが、サテライトでは日常茶飯事だったりする。
 もちろん、要求を突っぱねて力づくで拘束してしまうのも、選択の一つだ。
 しかし。
「いいだろう。受けて立つ」
 輝王は自らのデュエルディスクを展開させた。
 ストラが大石とデュエルするときに、竜美が言った「精神をぶちのめす」という狙いもあった。が、それよりも、カードに触ることで、ごちゃごちゃした頭の中を整理したかった。
 仕事に私事をはさむようになったのは、高良の影響か。それとも、傍らで無邪気にふんぞり返る少女のせいだろうか。
「輝王! さっさとこてんぱんに畳んでしまえ!」
「言われなくてもそのつもりだ」
「ぐぐ……なめやがって! 後悔させてやる! デュエルだ!」
 男はなぜか自分の尻を押さえながら、決闘の幕開けを宣言した。