にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 3-1

「奴らの……レボリューションのアジトはもうこの地区にはないと?」
 書類が山ほど積まれたデスクの前で、ジェンスの眉間に深いしわが刻まれる。
「……はい」
 少し間をおいてから、輝王は頷いた。
 重苦しい沈黙がオフィスを支配する。部屋の隅に置かれた古い複合機が、いつもと同じようにカタカタと異音を発していた。
 輝王とストラがサテライトに来てからすでに二週間。支部内のいたるところが老朽化している環境にも慣れてきた。壁のヒビから吹いてくるスキマ風が厳しいため、屋内でもジャケットは着たままだ。
「モタモタしてるから、連中に勘付かれたんじゃないの? やっぱわたしたちも優先的にレボリューションを追うべきだったのよ」
 玄関に通じる扉が開き、深紅のロングコートをひるがえして竜美が入ってくる。どうやら話は聞いていたようだ。
「……そういうわけにもいかん。サテライトに暮らす人全員が犯罪者というわけじゃない。弱い立場の彼らを守るのが我々の仕事だ」
「綺麗事ばかり言っちゃって。どんなに熱心にお仕事しても、ここじゃ報われることなんてないわよ」
 付き合っていられない、といった感じでため息をつくと、竜美はドカッと椅子に腰かける。
「輝王君、その情報は確かなの?」
 燃えるような赤い髪をくしゃくしゃと掻きながら、竜美は輝王に話を振ってくる。初めて会ったときは腰に届くほどの長髪だったのに、今はかろうじて肩にかかるほどのショートカットに切ってしまっていた。
「ほぼ間違いないかと。情報源は明かせませんが」
「そうか」
 そう言ってジェンスが苦笑する。自分も情報元を明かさなかった以上、深くは追求できないのだろう。
 事実、友永切――レボリューションの元一員である彼女の存在は、出来る限り伏せておいた方がいい気がした。切のことを完全に信用したわけではないし、現在進行形で罠にかけられていることも考えられる。その場合、被害を最小限に抑えるために、余計な人間を巻き込むわけにはいかない。
「勘付いた、か。こちらに情報が回ってきたときには、すでに連中はセキュリティが動き始めたことに気付き、アジトを移動していたのかもしれないな」
 ジェンスがデスクの上にあるパソコンのモニタを睨みつけながら、重苦しく息を吐く。
「でも、アジト移動なんて大がかりなこと、わたしたちに見つからずにできるのかしら?」
「……可能だと思います」
 呟いた輝王の脳裏に、もぬけのからになった廃ビルの一室が浮かぶ。
 輝王がレボリューションのアジトに踏み込んだのは、6日前のこと。切と出会った翌日だ。







 若草色の着物を着て、艶やかな黒髪をポニーテールにしている彼女は、顔のあらゆるパーツをゆがませながら、
「高良火乃……たから、ひの。ううむ……むむ……」
 延々と唸っていた。
「知らないのならいい」
 そのうち頭から煙が噴き出てくるんじゃないかと錯覚するほどに考え込んでいたので、さすがに声をかけてやめさせる。
「すまぬのう。全く覚えがない」
 本当に知らないのだろう。切が知らないとなると、親友だった高良火乃を殺したのは、他の人間なのか? それとも、組織の人間ではないのか……。
 切の「テスト」が終わり、3人は表通りに戻るために来た道を引き返していた。
 デュエルを通して輝王の力を認めた切は、約束通り自分の知っている情報を話してくれた。
 高良の死についての情報は得られなかったが、レボリューションについてはおおよその全容を把握できた。
 切の話によれば、黒幕と思われる男、光坂が加わって以降、レボリューションはサテライト各地で細々とテロ活動を行うようになった。そのほとんどがサイコデュエリストの力によるもので、ターゲットは特に決まっていなかったという。あるときは他のデュエルギャングと協力してセキュリティの支部を襲撃し、またあるときは意味もなく建物を破壊していたようだ。こうした行動の一貫性の無さが、動きを掴みづらい要因になっていたのだろう。
 メンバー構成は非常に把握しづらく、全員が一堂に会することはほぼ無かったという。特に、切らレボリューションの旧メンバーは、光坂が集めてきた新メンバーと会う機会がほとんどなく、組織の内部にいてもその実態が分からない、という有様だった。
 それでも、リーダーであるレビン・ハウンツが根城にしているアジトは、この地区の廃ビルにあるらしい。
「この辺は適度に荒んでいて、適度に治安が良い。あまりに荒みすぎていると他のデュエルギャングに目をつけられ動きづらくなるし、かといって治安が良すぎるのも問題外じゃ」
 脇に並ぶ崩れた建物を目にしながら、切は話す。
「治安が良い、ですか」
 輝王の隣を歩くストラが、ポツリと呟く。その顔には、信じられないといった本音が浮かんでいるように見えた。
 確かに、シティと比べると口が裂けても「治安が良い」などという言葉は出てこない。
「最近はテロ活動も鳴りを潜めておる。おそらく、本来の目的を果たすための準備に入ったのじゃろう」
「本来の目的?」
 ストラが一番気になっていることだろう。各地からサイコデュエリストを集め、レボリューションは一体何をしようとしているのか。

「――セキュリティ本部の襲撃。および最高責任者であるレクス・ゴドウィン長官の抹殺じゃ」

 確定ではないがな、と最後に付け加え、切は口をへの字に曲げる。
「そんな……どうしてそんなことを……」
 ストラには彼らの目的の意図が分からないようだったが、輝王にはおおよその見当が付いていた。
「シティとサテライト――はっきり言えば、貧困層と富裕層。この格差が生まれたのは、ゴドウィン長官の指示によるものが大きい。サテライトの劣悪な環境にあえぐ人間にとって、長官は自分たちを地獄に追いやった悪者だということだ」
 通り過ぎる建物の壁には、セキュリティへの不満、シティの人間への妬みの言葉が、ペンキやスプレーで書きなぐられていた。
 とあるデュエルギャングの一員が、セキュリティ本部で爆破テロを起こした前例もある。レボリューションの目的が長官の抹殺なら、非常に分かりやすい。
「……わしも、ゴドウィンを恨んでいた時期があった。レボリューションの仲間に出会わなければ、こうしてお主たちと肩を並べて歩くことなどなかったかもしれんな」
 誰に向けるのでもなく、遠くを見つめながら切が呟く。
 その横顔には、郷愁の色がはっきりと浮かんでいた。