にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 3-1

「私はセラ。アルカディアムーブメントの使者です。あなたをお迎えにあがりました――ティト・ハウンツ様」
 すらりとした長身で漆黒のスーツを着こなし、銀縁の眼鏡が嫌でも知性を感じさせる。
 冷たい夜の風が吹き抜ける、廃美術館のエントランス。人間がそのまま氷漬けになった氷像が立ち並ぶ異質な空間の中で、その男は存在感を失わなかった。
 創志を――正確には腕の中にいるティトを見ながら、アルカディアムーブメントの使者、セラはにこりと微笑む。
 その笑みは、自分は害の無い人間だということを「アピール」しているように見えた。
「迎えに来た、だと?」
 ティトが口を開こうとした矢先に、創志が答える。華奢な少女はポカンとした様子でセラを見ているが、創志はティトが自分の腕の中から離れてしまうことが怖かった。
 いくら自分の「約束」を受け入れてくれたとはいえ、ティトに関してはわからないことが多すぎる。もしかしたらアルカディアムーブメントとも関わりがあったのかもしれない。
 そうだとしたら、突然現れた得体のしれない男――創志よりも、信用できる既知の人間の元へ向かうのが普通だ。
「……そうです。我々アルカディアムーブメントは、次世代を担うデュエリストの育成にも力を入れていましてね。もちろん、サテライトとシティ分け隔てなく」
 創志が口をはさんだことに不服そうなセラだったが、とりあえずは自分が何者なのかを説明することにしたようだ。
「各地を巡るなかで、あなたの――ティト様の噂を耳にしましてね。失礼ながら、そこの少年とのデュエル、見させていただきました」
 眼鏡のつるを指で押し上げ、その奥にある瞳がギラリと光る。
「素晴らしい、の一言です。あなた様には十分な実力がある。ぜひ、我々とともにその力を伸ばしてみませんか?」
 そう言って、ティトに向けて手を差し伸べるセラ。
「一緒に来ていただけるのならば、最高の環境をご用意します。このような劣悪な場所で暮らさなくてもよいのです」
 劣悪な場所。その言葉を聞いて、ティトの体がピクリと動いた。
「どうやら悪質な組織に無理矢理働かされていたようですが、大丈夫です。アルカディアムーブメントは、あなたの身の安全も保障しますよ。不安なことは何一つありません。いかがです?」
 これでもかというくらいの宣伝文句を並ぶ。
 目の前に伸ばされた傷一つない手のひらを見て、ティトは何かを考えるように黙ったままだ。

「――何が悪質な組織だ。てめえらがそれを言うかよ」

 呟いた創志の言葉に、セラがうっとうしそうに視線を向ける。
「あなたは黙っていてもらえませんか? 私はティト様と話をしているのです。ついでにここから出て行っていただけるとありがたい」
「黙らねぇよ! 出ても行かねぇ! さっきからベラベラと甘い言葉吐きやがって! 俺はてめえら――アルカディアムーブメントは信用できねぇ!」
 セラに向かって吠えるうちに、頭が怒りで沸騰してくる。
 できるなら、あの澄ました顔に強烈な一撃を叩き込んでやりたい。
 そう思うには理由があった。
「何を見当違いのことを……言ったでしょう? 私は、ティト様と話をしているのです。あなたの意見など聞いていない」
 セラが心底呆れたように言い放つ。
 創志は自分の腕の中にいるティトを見る。吸い込まれそうな灰色の瞳が、じっとこちらを見つめている。
 関係のないティトの前では我慢しようと思っていたが……もう限界だった。
「――皆本源治」
 創志がポツリとこぼした名前に、セラが怪訝そうに眉をひそめる。
「皆本、めぐみ。この名前に覚えがあるか?」
「……皆本?」
 ようやく創志の言葉を呑み込んだセラは、何かを考えるように顎に手をやる。
「――ッ! まさか、あなたは……」
 そして、たどり着いた事実を認識し、ハッと創志を見やる。
「そうだ。俺の両親は、アルカディアムーブメントの職員だった。そして、お前らは父さんと母さんにあらぬ罪を着せて、サテライトに追いやったんだ!!」
 今は遠い両親の温かい笑顔が、創志の頭の中にちらつく。
「てめえらのせいで、俺たちは……信二はッ……!!」