にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 8-2

 創志が目を覚ましたのは3日前のことだ。
 視界に入ったのは、見覚えのある天井。だがそれは自分の家ではなく、アルカディアムーブメントが買い取ったという孤児院――つまり、セラとのデュエルの後、運ばれた部屋だった。あのときと同じように、ベッドに寝かされている。
「ここは……」
 創志が身を起こそうとすると、全身に痛みが走る。
「ぐっ……!?」
 歯を食いしばり、言うことを聞かない体を無理矢理動かして、なんとか上半身を起こすことに成功する。
 見れば、頭や胸、腕などに包帯がしっかりと巻かれていた。
(そうか……俺は、先生とのデュエルに負けて……)
 炎に包まれたセキュリティ支部の中で、先生と慕っていた光坂慎一と出会い、彼の正体を知った。
 光坂は、弟の信二を誘拐し、ティトに「処刑人」という重い役目を強いていたデュエルギャング、レボリューションの中心人物だったのだ。さらに、信二もメンバーに加わっていた。
 2人が洗脳されていると思いこんだ創志は、彼らを助けようとデュエルに応じ、負けた。
(信二……)
 予想だにしなかった形での再会。
 冷たい視線を向けた信二の姿が、創志の知る弟の姿とどうしても重ならない。別人、と言われたほうがしっくりくるほどの変わりようだ。やはり、洗脳されてしまったのだろうか。
 ここまでの経緯を思い出すと、事実を認めることを拒むかのように思考が停止しそうになる。
「――そうだ! ティトは……」
 自分が倒れたあとも、必死に名前を呼んでくれた銀髪の少女を思い出し、急いでベッドを降りようとするが――
「あらあらあらぁ~ん! まだ寝てなくちゃダメよん!」
 と、聞くものをその場に縛り付けるような悪声が部屋中に響き渡る。
 無意識に動きを止めた創志の前に現れたのは、デカイオカマだった。
「やっと目を覚ましてくれたのね創志ちゃん! もう寝ているあいだに何度キスしようと思ったか分からないくらいよ! アタシは乙女だからそんなことしなかったけどね!」
 バチッ! とオカマがウインクすると、部屋の隅を飛んでいた蚊が力無く落ちて行った。
「…………はぁ?」
 まったく事態が把握できず、創志は呆気にとられる。
「アタシの名前は織姫! んで、創志ちゃんはアタシにとっての彦星なわけよ! 分かる?」
「さっぱり分からん」
「考えようとしちゃダメ。愛は理屈じゃなく、フィーリングで語るべきものなのよ」
「……少し引っ込んでいてくれますか、宇川さん。私が事情を説明します」
 最早言葉として理解したくないような単語を並べるオカマの後ろから、涼やかな声が聞こえてくる。
「お前……! セラ!」
「おめでとう、と言っておきましょうか。命は拾ったようですしね」
 銀縁の眼鏡をかけたアルカディアムーブメントの使者――セラは、安堵と苛立ちが混じった複雑な表情を浮かべる。
「どうしてお前がここに……」
「簡潔に説明しましょう。私の話が終わるまで、隣のオカマは無視してください」
「分かった」
「どうして即答なのよぉ! もっとアタシに興味を持って! プリーズ!」
 言われた通り、創志は紫色の奇妙な生物を視界から消すようにした。


「……このオカマがアルカディアムーブメントが送り込んだスパイで、レボリューションに潜入していた。で、俺を助けてくれた。そういうことか?」
「はい。宇川さんの存在は、あなたに弟さんの行方を捜すよう頼まれ、レボリューションの内部事情を詳しく探った段階で気付いたのですけれどね。私がサテライトに来た当初の目的は、レボリューションからティト様を救うことでしたし」
 事情を説明し終えたセラは、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「総帥が口をすっぱくして言ってるでしょ? 与えられた情報が全てだと思うな、って。アタシに接触するのがあと少し遅かったら、アルカディアムーブメントをクビにされていたわよ」
「……肝に銘じておきます」
 そう言って、セラはオカマ――宇川昇から目をそらす。
 創志相手には常に上から目線で話すセラのこんな態度は新鮮だった。
「しっかし、どうしてアルカディアムーブメントはレボリューションにスパイなんて送り込んだんだ?」
 色々黒い噂の絶えない企業であるが……今でこそ大規模なテロ活動を行おうとしているものの、一介のデュエルギャングから何か得るものがあったのだろうか。
「悪いけど、その質問には答えられないわ。アタシと一夜を共にしてくれる、っていうなら考えてあげてもいいけど」
「嫌だ」
「だからどうして即答なのよぉ!」
 宇川は大げさに嘆く。
 いかにも暗部の人間、という雰囲気を醸し出しているセラと違って、随分とお調子者のようだ。

「なら、俺の両親について何か知ってるか?」

「――――」
 宇川の動きが止まる。
 創志の両親――皆本源治とめぐみは、かつてアルカディアムーブメントで働いていた。創志にとっては誇れる両親だったが、重大な不正を働いた罪でサテライトの収容所に送られた。だが、創志はそれを信じていない。アルカディアムーブメントが、両親に罪を被せたと決め込んでいる。
 それを裏付けるかのように、セラと同様、宇川も皆本夫妻の話が出た途端、様子を一変させた。
「……言えないわ。創志ちゃんにだけは言えない」
 今までとは打って変わり、神妙な面持ちで告げる宇川。
「宇川さんから情報を聞き出そうとしても無駄ですよ。こう見えても、彼はアルカディアムーブメント最暗部の人間です。線引きはしっかりとできています。加えて、潜入のスペシャリストでもありますからね」
「アタシの演技力をなめないほうがいいわよ? 今回のレボリューション潜入は、セラのキャラをイメージしてみたんだけど……どうだったかしら?」
「私はあんなに気持ち悪くありませんよ」
「ひどいわ!」
 たった一言二言の間に、元のふざけた空気に戻ってしまう。
(……この調子じゃ、親父たちのことを聞き出すのは無理そうだな)
 それに、今はそれよりも優先すべきことがある。