にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 8-3

「――で? 今はどうなってるんだよ?」
 ここまでの経緯は分かった。次は、現在の状況を把握すべきだ。
「第17支部での一件から、すでに4日が経過しています。現在レボリューションは、サワヒラ港に停泊している貨物船に集結していますね。まるで、誰かを待っているかのように」
「…………」
「輝王さんとそのお連れさんは無事です。もちろんティト様もね。ですが、ティト様はあなたが死亡したと聞かされ、随分落ち込んでいるようです。まるで抜け殻ですよ」
「何だと!?」
 セラの話を聞き、銀色の少女の姿が脳裏をよぎる。その瞳は、「氷の魔女」のときと同じような、冷たい光を放っていた。
「くそっ……こうしちゃいられねえ……すぐ、ティトのところに――」
「ちょ、ちょっと創志ちゃん!? その体じゃ無理よ! 命に別条はないけど、動けるようになるにはまだ時間がかかるわ!」
 ベッドから降りようとすると、あわてて宇川が止めに入る。
「どけ……!」
 右腕を突き出して宇川を押しのけようとするが、力が入らない。
 両足を地面につけるも、立っているのがやっとの状況だ。
「フラフラしてるじゃない! 早くベッドに戻って――」
「構いません。そのまま立たせておいてください」
「セラ!?」
 驚きの声を上げた宇川に対し、セラは眼鏡のつるを中指で押し上げる。
 その視線に込められた意味に気付いたのか、宇川は口をつぐむ。
「……これから3日後。私は輝王さんにレボリューションの動向を伝え、彼を焚きつけます。おそらく、彼とその連れ――確か、友永切と言いましたか。2人はサワヒラ港へと赴くでしょう」
「――だから?」
 セラの言おうとしていることが分からず、苛立ちを顕わにしながら創志が問う。
「その2人にティト様も同行するはずです。彼女は、あなたの代わりに弟さんを救いだそうとしているようですからね」
「なんだって……!?」
 食堂でのティトの言葉を思い出す。
 そうしの大切な人を探すのを、手伝う。
 まさか、俺がいなくなったあとでも、その約束を守ろうとして――
 さらに焦りが募り、創志は震える両足を無我夢中で動かす。
 こんなところでじっとしている場合ではない。一刻も早くティトのところへ向かわないと。
 足を引きずりながら進む創志の前に、白服の男が立ちふさがる。
「――さて。今こそ問いましょう、皆本創志」
 まるで何かのパフォーマンスのように両手を広げ、セラは告げる。

「あなたに、戦う意志はありますか?」

「な……に……?」
 セラの言葉を飲み込むのに、少し時間がかかった。
 その隙に、今度は宇川が口を開く。
「ちなみに言っておくけど、光坂は今回の事件の黒幕よん。創志ちゃんに近づいたのは、あなたと弟くんを手駒にするためでしょうね。弟くんのほうは……半々ってところかしら。マインドコントロールを受けているかもしれないし、受けていないかもしれない。どっちにしても、創志ちゃんの言葉は届かないと思うわよ」
「そして、ティト様はあなたの代わりに死地に赴くでしょう。それで、あなたはどうしますか?」
 こんな状態で行っても、また負けるだけかもしれない。
 そんな弱気な考えが、創志の頭をよぎる。
 ティトにもう一度悲しい思いをさせるだけかもしれない。
 信二は、もう自分の手の届かないところに行ってしまったのかもしれない。
 もしそうなら、自分が戦う意味など――
「……分かりきったこと聞いてんじゃねえよ」
 ある。
 戦う意味はある。
「意志はあるかだって? そんなもん、必要ねえっつーの」
 戦わなければ、自分の気が済まないからだ。
 ここで逃げ出してしまったら、一生後悔する。絶対にだ。

「俺がティトと信二を助けることは、当たり前なんだよ! いちいち確認することじゃねえ!」

 その決意を叫んだ瞬間だけは、体の震えが止まった。
「……いいでしょう」
 創志の答えに対し、不敵な笑みを浮かべたセラは、懐から何かを取りだす。
 それは、デュエルモンスターズのカードと、
「あなたに、力を与えてあげます」
 黒いチョーカーだった。












「チョーカーに問題はないようですね。ですが、前にも言った通り――」
「これは試作品、だろ? 不具合が出たって文句は言わねえさ」
「アタシへの文句は遠慮なく言ってくれていいのよ? アタシって尽くすタイプだから」
「黙っててくれ」
「…………」
 ティトに一通りの事情を説明し終えた創志は、ひとつため息をつく。
「悔しいけど、俺がここにいるのはこいつらのおかげなんだ」
「そうなんだ……そうしを助けてくれて、ありがとうございました」
 創志の腕から離れたティトは、セラと宇川に向かってぺこりと頭を下げる。
「礼には及びませんよ。ティト様」
 そう言って満面の笑みを浮かべるセラとは対照的に、
「……別に、アンタのために助けたんじゃないわ。アタシのためよ」
 宇川は仏頂面で言い放つ。字面こそ乱暴な言葉だったが、その声色はどこか温かみを感じさせた。
「さて、そろそろ行きましょうか。輝王さんたちと合流しましょう」
「スパイはもういいのか?」
「創志ちゃんをこの船に乗せたところで、スパイはお役御免よん! これからは自分に正直に生きるとするわ!」
 恍惚の笑みを浮かべた宇川は、自ら先陣を切って進んでいく。
「……あの巨体ですから。弾避けにでもなってもらいましょう」
 もう一度肩をすくめたセラが後に続く。
「よし。俺たちも行こうぜ」
 そう言って歩き出そうとする創志の上着の裾が、かすかな力に引っ張られる。
「ん――」
 細い指先で裾を掴んだティトは、迷うような素振りを見せたあと、
「あのね、そうし」
 意を決して口を開いた。その右の手首には、創志がプレゼントした鉄製のブレスレットが鈍く輝いている。
(あれ、まだ持っててくれたのか)
 些細なことだが、心が満たされていくのを感じる。

「わたし、もっと強くなるね」

「え……?」
 言ったあとすぐにうつむいてしまったため、ティトの表情は分からない。
「竜美、って人に言われたの。お前は自分1人じゃ何にもできない、って」
「ティト……」
「今はまだ、1人じゃできないけど……そうしがいてくれなきゃ、ダメだけど。いつか1人で歩けるようになって、そうしと肩を並べて歩きたい」
 消え入りそうな声で、しかし最後まで言葉にして、ティトは言った。
「……お前は十分強いよ。俺の代わりに、戦おうとしてくれたんだもんな」
 ティトがいなかったら、創志はあの壮絶なリハビリを耐えられなかったかもしれない。
 ――まだ出会ってから1週間も経っていないのに、ここまで彼女の存在が大きくなっているとは思わなかった。
「でも、まけちゃった。前みたいに勝てなかった」
「いいんだよ、別に。つーか、むしろ氷の魔女に戻ったら嫌だからな」
 悲しげな声で呟くティトに向かって、創志は右手を伸ばす。
「ほら、一緒に行こうぜ。ティト」
 せっかく頼りにされてるんだ。カッコいいとこ見せなきゃな――そんな思いを巡らせる。

「…………うん!」

 差し出された手を取った少女は、笑った。