にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 8-1

「くそっ、ここもダメか」
「…………うん」
 固く閉ざされた扉のドアノブをガチャガチャと回しながら、創志は愚痴る。
「やっぱり、このまま進むしかないみたいだな」
「…………うん」
 船内に足を踏み入れた創志とティトだったが、船底に続くであろう階段や、他の通路への扉は全て封鎖されていた。となれば、レボリューション側に指定されたルートを辿るしかない。
 ティトの話では、レボリューションはセキュリティ本部襲撃のためのウォーミングアップが目的のようだし、命を脅かすような罠は設置されていないとは思うが……それでも、相手の思い通りになっているというのは危険な感じがする。
「輝王と友永切……だっけ。一緒に来た2人は、先に行ったんだよな?」
「…………うん」
「あいつらもここを通ったんだよな……それとも、他の抜け道を見つけたのか……ま、考えてても仕方ねえよな。行くか」
「…………うん」
「――なあ、ティト」
 再び歩き始めようとした創志だったが、その前に、生返事を繰り返す銀髪の少女を呼ぶ。
「…………うん」
 新雪のような白い肌に、吸い込まれそうな灰色の瞳が、すぐ近くにあった。
 可愛らしく小首をかしげる動作に、思わず心臓がドキリと高鳴る。
 頬が火照っていくのが分かる。いや、正確に言うと、さっきから火照りっぱなしだ。

「……できれば、もうちょい離れてくれると歩きやすいんだけど」
「やだ」

「…………」
「やだ」
 明確な拒否の態度を示すティト。
 彼女は創志の右腕にしっかりと抱きつき、離そうとしない。
「……いや、でもな? この姿勢は色々と――」
 その、非常に困る。
 ふくよかな胸の感触が伝わり、「ティトって意外と胸あるんだなー」とか、どこか冷たさを感じさせるさわやかな香りの中に、女の子特有の甘さが混じっているような気がして「ティトってすげえいい匂いする……」なんて余計な妄想を掻き立てる。
(――って! そんな状況じゃねえっつーの!!)
 不埒な想像を必死に消しながら、創志は気持ちを落ち着かせようとする。

「…………やだよ」

 ティトが呟いた3回目の拒否は、前2回とは違う雰囲気を纏っていた。何かをこらえながら、絞り出したような言い方だ。
「こうやってつかんでないと、また創志がいなくなっちゃうような気がして……そんなの、絶対にやだ……」
 そこで初めて、創志は抱きついているティトの体が震えていることに気付いた。
「……ワリィ」
 ティトを助けに入った後、すぐに竜美とのデュエルに突入してしまったので、ろくに話もしていなかった。
 罠がどうのこうの考えるより先に、やるべきことがあったのだ。
 創志はティトに向き直ると、空いている左手を彼女の頭にポン、と置く。
 そして、なめらかな銀色の髪を整えるように、優しく撫でた。
「あ……」
 創志の唐突な行動に、ティトは一瞬目を丸くするが、
「――嫌だったか?」
「ううん。だいすき」
 気持ちよさそうに目を細めると、口元をほころばせる。
「心配掛けてごめんな。もうどこにも行かねえから……ずっと、側にいるから」
「…………うん」
 多少の気恥ずかしさはあったが、創志は自分の思いを口にする。
「あったかい」
(なんか、猫みたいだな)
 安らぎに満ちたティトの顔を見ながら、そんなことを考えた瞬間――

「どういうことなの創志ちゃんッッッ!! アタシというものがありながら、そんな女とイチャイチャするなんてッッッ!!」

 ひどく不快感を煽る野太い声が、船内の静寂をかき消した。
 声のした方向を見れば、派手な紫の髪を揺らし、ズンズンズンと歩いてくる筋肉質で長身の男がいた。唇にはルージュの口紅がばっちり塗られており、マスカラでまつ毛もボリュームアップしているが、その顔はどう見ても男……いや、漢である。
「げっ……! 宇川!」
 分かりやすく言うと、デカイオカマが怒りながら創志たちめがけて走ってきていた。
「アタシと愛を誓い合ったあの熱い夜を忘れたの!? アタシを弄んだの!? 弄んだのね!! この代償は高くつくわよ……!」
 わめきたてるオカマは、勝手に1人で盛り上がってしまっている。
「ま、待て、落ち着け宇川!」
「あのときは織姫って呼んでくれたじゃない!」
「呼んでねえよ! つーか、あのときって何だよ! 妙なこと言うな! 妄想と現実の区別をつけろ!」
「ひどいわ~ひどいわ~アタシの乙女的な部分が深く傷ついたわ~おろろ~ん!」
 両手で顔を覆い、うめき声を上げるオカマ。その爪は、紫のマニキュア塗りつぶされている。
 おんおんと大声を上げるオカマだが、嘘泣きなのがバレバレである。
「……うるさい上に非常に気持ち悪いので、すぐにやめてもらえますか、宇川さん。話が進まなくなる」
 宇川の後ろから歩いてきたのは、白い細身のスーツに身を包んだ眼鏡の男――セラ・ロイムだった。
「セラ! アンタまでそんなこと言うの!? もしかして、アタシと創志ちゃんの愛に嫉妬してるの!? んもう!」
「……とりあえず、無視しておいた方がよさそうですね」
やれやれと肩をすくめ深いため息をついたあと、創志とティトに視線を向ける。
「ま、敵の本拠地でいちゃついているほうもどうかと思いますが」
「な、何ぃ!」
 嘲りを含んだセラの声色に、創志は思わず声を荒げる。
「まったくよ! アタシはこんなガキんちょと逢引きさせるために創志ちゃんを助けたんじゃないのよ!」
「いや、目的を改変するのはやめてください宇川さん。皆本創志を助けたのは、あくまでティト様のためだということを忘れないよう――」
「愛! 愛! 愛!! 愛の前では目的などかすむのよォ!!」
 ブンブン首を振り回しながら叫ぶ宇川の姿に言いようのない狂気を感じた創志は、身の安全のためにひそかに後ずさる。
「……そうし?」
 急な展開についていけないティトが、困惑した表情で創志の名を呼ぶ。
「あ、ああ、悪い。今説明するから――」
「創志ちゃん!! その前にアタシへの愛を説明して!!」
「うるせえぞオカマ! いいから黙ってろ!」
 創志が声を張り上げると、「わ、分かったわよ……」と大人しくなる宇川。
「まったく……前から変態だとは思っていましたが、ここまで暴走したことはなかったはずですよ? 少しは自重してください」
 しゅんとなった宇川に追い打ちをかけるように、セラが冷たい言葉を吐き出す。
「――さて。お久しぶり……というほどでもないですが。無事で何よりです、ティト様。ここからは、私たちも同行させていただきます」
 そう言って一礼したセラは、眼鏡の奥の瞳を光らせる。
「……チッ」
 その光に不気味さを感じた創志は、舌打ちをこぼす。
 セラたちアルカディアムーブメントが何かを企んでいることは確かだ。しかし、彼らの同行を拒むことはできない。
 なぜなら――
「そうし?」
 ティトの疑問の眼差しが突き刺さる。いまだに認めたくない事実だが、口にするしかなかった。
「……俺はこいつらに助けられたんだよ。先生――いや、光坂とのデュエルの後な」