にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 4-2

「ここは元々孤児院だったのですよ。しかし、サテライトの貧しい環境の中で経営を続けていくことは非常に困難――廃棄されていたところを、私たちアルカディアムーブメントが買い取りました」
 創志が寝かされていた部屋には、木製のベッドの他に、古びた衣装棚と、勉強机があった。壁の塗装はところどころ禿げてしまっているが、創志の住んでいたアパートに比べれば随分マシだ。
「……お前が俺をここに連れてきたのか?」
 起き上がり、ベッドを椅子代わりにした創志は、目の前の男に問いかける。
「ティト様にあなたを背負わせるわけにはいきませんからね」
 人を小馬鹿にしたような態度に早くも怒りが沸騰するが、ここはこらえる。でないと、話が進まなくなってしまう。
「目的はなんだ? やっぱりティトをアルカディアムーブメントに連れていくのか?」
「私もデュエリストの端くれです。デュエルで交わした約束をたがえるようなことはしません」
「なら……」
「頼まれたからですよ。彼女にね」
 そう言って、セラは創志の傍らに座るティトに視線を移した。
 ティトは不思議そうに首をかしげると、創志のほうを見つめてきた。
「とはいえ、まさか3日もここで足止めを食らうとは思っていませんでしたが」
「3日!? 3日も俺は寝てたのか!?」
 セラの言葉に、ガツンと頭を殴られたかのような衝撃を覚える。
 ティトと出会った廃美術館で気を失ってから、すでに3日。誘拐された信二の足取りは、ほぼ完全に途絶えたと考えていいだろう。
(……いや、待て)
 創志は傍らに座る銀色の少女を見つめ返す。ティトなら、信二の行方について何か知っているかもしれない。
「……ティト様の代弁をしますが。彼女はレボリューションの一員だったとはいえ、組織との関わりはほとんどなかったようです。サイコデュエリストとしての能力を、人員の『処理』に利用されていただけでしょう」
 処理。
 つまり、レボリューションにとって不要になった人間を、ティトの力で氷漬けにしてしまう、ということか。
 ティトと初めて対面したときの会話を思い出す。彼女は信二のことを知らなかったし、「処理」すべき人間が連れてこられる予定もない、と言っていた。
 やはり、信二の足取りは途絶えてしまった。
「…………ッ!」
 いてもたってもいられず、勢いよく立ちあがった創志は、ふらつく体を無理矢理前に進める。
 当てもなにもないが、ここでじっとしていることなどできなかった。
 その進路を遮るように、セラが右手を伸ばす。
「どこへ行こうというのです? 見たところ、まだ体力が完全に戻ったわけではないようだ」
「……お前には関係ない。どけ」
 敵意をむき出しにして、セラの細面を睨みつける。
 創志の視線を気にした風もなく、セラは落ちついた声で告げる。
「どきませんよ。あなたにはまだ聞きたいことがある。それに――」
 ひしっ、と。
 創志が着ている、だらしなく伸びたシャツの裾を、細い指で控えめに――しかし確固たる意志を持って、ティトが掴んでいた。





「なるほど、弟さんがレボリューションにさらわれたのですか」
 アルカディアムーブメントの人間に事情を話すのは、死ぬほど嫌だった。
 元々こいつらのせいで、創志の家族は崩壊したようなものなのだ。サテライトに送られていなければ、信二がさらわれることもなかった。
「…………」
 創志は黙ったまま頷く。悔しいが、この男の力を借りなければ、事態が進展しない。
「近頃、レボリューションは各地からデュエリストを集めているようです。組織を拡大する目的は不明ですが、あなたの弟さんがさらわれたのも、その一環だと考えていいでしょう」
 セラ――正確にはアルカディアムーブメントは、レボリューションからティトを引き抜くために、彼らの動向を探っていたらしい。何も知らない創志よりは、遥かに情報を持っている。
「……弟さんは、何か特別な力を持っていましたか? 私やティト様のように、サイコデュエリストだったとか」
「いや。むしろその逆だ。普通の人より体が弱くて、満足に出歩けなかった」
「そうですか……」
 顎に手をやったセラは、思案顔になってうつむく。
「ティトは何か知らないのか?」
 藁にもすがる思いで、ティトに話を振る。
「人を集めてたことは知ってるけど、それだけ」
 「ごめんね」とうなだれるティトに、
「責めてるわけじゃねぇんだ。こっちこそごめん」
 いたたまれなくなり、すぐに謝罪の言葉を返す。
 これで、セラから有力な手掛かりが出てこなければ、今度こそ八方ふさがりだ。
 残るは、自分の足で探し回るほかないが――
「分かりました」
 セラの明活な声が、またしても重い空気をぶち壊す。
「弟さんの行方はこちらで探りましょう。私たちとしても、レボリューションの動向をもう少し深く知っておきたい」
「……その言葉を信じろっていうのか?」
 助けてくれたとはいえ、こいつはアルカディアムーブメントの人間だ。さらに言えば、セラとのデュエルのせいで、こんな状況に追い込まれてしまったのだ。安易に頷くわけにはいかない。
 また、アルカディアムーブメントにとって、信二の捜索は何のメリットにもならないはずだ。例え、内部事情を探る「ついで」だったとしても。
「何の当てもなく闇雲に探し回るよりは、可能性が高い。と、言っておきましょうか」
 もったいぶったセラの言葉に、創志は苛立つ。
 くそ、と心の中で何度も舌打ちする。
 いくらセラのことが信用できなくても、彼の提案を受け入れざるを得ないのだ。創志はレボリューションがどんな組織なのかも知らないし、例え自分の足で信二の行方を捜したとしても、この体ではすぐにガス欠を起こしてしまう。
 信二を――弟を助けるためには、それが最良な方法。
 そう自分に言い聞かせ、
「……分かった。お前に任せるよ」
 渋々頷いた。
「了解しました」
 馬鹿丁寧にお辞儀をしたセラは、眼鏡のブリッジを中指で押し上げる。
「その代わりと言ってはなんですが、1つ頼まれてくれませんか?」
 セラの頼み……一体なんだろうか。
 こっちが断れないのをいいことに、無理難題を吹っ掛けてくるかもしれない。
 創志が構えたのが分かったのか、セラは苦笑しながら続ける。
「とても簡単なことですよ。ティト様と一緒に、おつかいに行ってきてほしいのです」
「……はぁ?」
 思わず気の抜けた声を上げた創志は、ティトと一緒に首をかしげた。