遊戯王 New stage サイドS 4-1
見知った背中が見える。
儚げで、それでいて他人を拒むような雰囲気を纏う背中だ。
「信二!」
創志はその背中の主――自分の弟である皆本信二の名を呼ぶ。
手を伸ばして、その肩をつかもうとする。
儚げで、それでいて他人を拒むような雰囲気を纏う背中だ。
「信二!」
創志はその背中の主――自分の弟である皆本信二の名を呼ぶ。
手を伸ばして、その肩をつかもうとする。
しかし、届かない。
足は鉛のように重く、前に進もうとしても地面に吸いつくようにして離れない。
どれだけあがいても、創志の手が信二の背中に触れることはない。
「信二――!」
視界がかすんでいく。
見知った背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。
止めなければ、という意志に反するように、身体はどんどん動かなくなっていく。
まるで、氷漬けにされているかのように。
わずかに見えた横顔から、信二が言葉を発したのが分かった。
声は聞こえない。
唇が動いたのはほんの一瞬。つまり、発したのはたった1つの言葉。
創志には、その言葉がなんであるか分かっていた。
どれだけあがいても、創志の手が信二の背中に触れることはない。
「信二――!」
視界がかすんでいく。
見知った背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。
止めなければ、という意志に反するように、身体はどんどん動かなくなっていく。
まるで、氷漬けにされているかのように。
わずかに見えた横顔から、信二が言葉を発したのが分かった。
声は聞こえない。
唇が動いたのはほんの一瞬。つまり、発したのはたった1つの言葉。
創志には、その言葉がなんであるか分かっていた。
さよなら。
知らない天井に向かって右手を伸ばしていた。
「ここは……」
目覚めた創志が最初に見たものは、見覚えのない灰色の天井だった。
体を起こすと、ギギッと木製のベッドが軋む。クリーム色の毛布が丁寧にかけられており、自分が寝かされていたことが分かった。
現状を把握しようとする前に、腰のあたりにわずかな重みと、心地よい温もりを感じる。
見れば、銀色の髪の少女が、創志の体に突っ伏して寝息を立てていた。
創志が廃美術館から連れ出そうとした、ティト・ハウンツだ。
(そうだ。俺はセラとのデュエルのあと、意識を失って――)
アルカディア・ムーブメントの使者を名乗った男、セラ。彼との激闘を思い出し、指先がわずかに震える。
少し体を動かしてみるが、痛む箇所はない。これなら問題なさそうだ。
「ん……」
創志の身じろぎを感知したのか、ティトがゆっくりとまぶたを開く。
「あ、ワリィ。起こしちゃったか」
体を起こしたティトの頭がふらふらと揺れ、徐々に目の焦点が定まっていく。
その視界に、創志が映ったと思われた瞬間――
「そうしっ!!」
ガバッ! と抱きついてきた。
「うわっ!? お、おいティト!?」
ティトの細い両腕が創志の背中に回され、2人の体が密着する。
少女の顔が創志の胸にうずめられ、服越しに彼女の温もりが伝わってくると同時に、さわやかな香りが鼻孔をくすぐる。
きゅう、とティトの腕に力がこもる。いきなりの事態にわけがわからず、心臓の鼓動が馬鹿みたいに速くなる。
「よかった……め……覚ましてくれて……」
ティトの体が細かく震えるのが、はっきりと分かった。
胸に顔を押し付けているため表情はうかがえないが、きっと涙をこらえているのだろう。
「……ごめんな。心配かけたみたいで」
宙ぶらりんになっていた右手で、少女の後頭部を優しく撫でる。
「ん」
少女はわずかに頷くと、徐々に両腕の力を抜いていく。
「そうし」
創志の胸から顔を離したティトが、灰色の瞳でじっと見つめてくる。
その目の下には、うっすらと隈が浮かんでいた。
(……もしかして、寝ずに看病しててくれたのか?)
もしそうだとしたら、礼を言うだけでは済まない。
「なんだ?」
「……もう一回、撫でてくれる? 創志に撫でてもらうと、なんだか安心するの」
透き通るような白い肌に、ほんのりと朱が差す。
それを見た創志の心臓が、ひときわ高い鼓動を打つ。
「わ、分かった」
(これはあくまで看病をしてくれたお礼であって、決してやましい気持ちがあるわけじゃ――)
そんなことを自分に言い聞かせながら、創志はティトの頭を撫でる。
銀色の髪から伝わる冷たさが(なぜか)汗ばむ手のひらに心地よい。
「……ん」
ティトの顔が綻ぶ。
その表情は笑顔とは言い難がったが、とても幸せそうに見えた。
窓から降り注ぐ柔らかな日差しが、2人を包んでいた――
「ここは……」
目覚めた創志が最初に見たものは、見覚えのない灰色の天井だった。
体を起こすと、ギギッと木製のベッドが軋む。クリーム色の毛布が丁寧にかけられており、自分が寝かされていたことが分かった。
現状を把握しようとする前に、腰のあたりにわずかな重みと、心地よい温もりを感じる。
見れば、銀色の髪の少女が、創志の体に突っ伏して寝息を立てていた。
創志が廃美術館から連れ出そうとした、ティト・ハウンツだ。
(そうだ。俺はセラとのデュエルのあと、意識を失って――)
アルカディア・ムーブメントの使者を名乗った男、セラ。彼との激闘を思い出し、指先がわずかに震える。
少し体を動かしてみるが、痛む箇所はない。これなら問題なさそうだ。
「ん……」
創志の身じろぎを感知したのか、ティトがゆっくりとまぶたを開く。
「あ、ワリィ。起こしちゃったか」
体を起こしたティトの頭がふらふらと揺れ、徐々に目の焦点が定まっていく。
その視界に、創志が映ったと思われた瞬間――
「そうしっ!!」
ガバッ! と抱きついてきた。
「うわっ!? お、おいティト!?」
ティトの細い両腕が創志の背中に回され、2人の体が密着する。
少女の顔が創志の胸にうずめられ、服越しに彼女の温もりが伝わってくると同時に、さわやかな香りが鼻孔をくすぐる。
きゅう、とティトの腕に力がこもる。いきなりの事態にわけがわからず、心臓の鼓動が馬鹿みたいに速くなる。
「よかった……め……覚ましてくれて……」
ティトの体が細かく震えるのが、はっきりと分かった。
胸に顔を押し付けているため表情はうかがえないが、きっと涙をこらえているのだろう。
「……ごめんな。心配かけたみたいで」
宙ぶらりんになっていた右手で、少女の後頭部を優しく撫でる。
「ん」
少女はわずかに頷くと、徐々に両腕の力を抜いていく。
「そうし」
創志の胸から顔を離したティトが、灰色の瞳でじっと見つめてくる。
その目の下には、うっすらと隈が浮かんでいた。
(……もしかして、寝ずに看病しててくれたのか?)
もしそうだとしたら、礼を言うだけでは済まない。
「なんだ?」
「……もう一回、撫でてくれる? 創志に撫でてもらうと、なんだか安心するの」
透き通るような白い肌に、ほんのりと朱が差す。
それを見た創志の心臓が、ひときわ高い鼓動を打つ。
「わ、分かった」
(これはあくまで看病をしてくれたお礼であって、決してやましい気持ちがあるわけじゃ――)
そんなことを自分に言い聞かせながら、創志はティトの頭を撫でる。
銀色の髪から伝わる冷たさが(なぜか)汗ばむ手のひらに心地よい。
「……ん」
ティトの顔が綻ぶ。
その表情は笑顔とは言い難がったが、とても幸せそうに見えた。
窓から降り注ぐ柔らかな日差しが、2人を包んでいた――
「お楽しみ中のところ申し訳ないですが、そろそろいいですか?」
場の雰囲気をぶち壊すことに定評のある男が、扉にもたれかかりながら、やれやれとかぶりを振った。