にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 2-3

 輝王と切の視線がぶつかる。
(……多少揺らいではいるが、覚悟のこもった瞳だ)
 少なくとも、嘘はついていないようだ。
 今まで見てきた犯罪者の瞳とは違う、と経験から判断する。
 もちろんレボリューション側が仕掛けた罠ということも考えられるが、虎穴入らずんば虎児を得ず、だ。
「――詳しく話を聞かせろ」
「ちょ、ちょっと先輩!? こんなヤツの言うこと信じるんですか!?」
 ストラが信じられないといった感じで声を上げる。それに対し「こんなヤツとはなんじゃ」と切がすかさず反論する。
「いきなり襲いかかってきたんですよ! 素性も全くわからないし、一度支部に戻ってちゃんと取り調べを――」
「ロウマン」
 ストラの絶叫をさえぎり、輝王の重く低い声が場に響く。
「少し黙っていろ」
 輝王自身は気付いていなかったが――そのとき、明らかに彼の纏う空気が変わった。
 冷たく、尖ったものへと。
「……しばし時間をもらうが、いいかの?」
「構わん」
 輝王の短い答えに、切はゆっくりと語り出した。




 元々、レボリューションというのは、名もなき小さなデュエルギャングだった。
 サテライトの地で生きていくために、身寄りのない人間たちが自然と集まって出来た、組織とも呼べないような集団。
「その中心にいたのが、レビンじゃった」
 皆の精神的主柱で、デュエリストとして高い能力を有していたレビンは、仲間たちの先頭に立ち、他のデュエルギャングたちを倒していった。
 それによって、彼らは周りから一目置かれる存在になり、サテライトに自分たちの「場所」を切り開いたのだ。
「あの頃は楽しかったのう。もちろん、日々の暮らしはきつかったが……仲間たちと食う飯ほど、うまいものはなかった」
 切が遠くを見つめる。過ぎ去ったの日々を思い出し、感慨深そうだ。
「……きっかけは、あるデュエルギャングとの戦いじゃった」
 そのころ、サテライト統一を掲げ、各地のデュエルギャングと戦っていた集団がいた。
「名は確か、『チーム・サティスファクション』じゃったかな」
 もちろん、レビンや切たちも――すでに「レボリューション」と名がついていた――例外ではなかった。
「自慢ではないが、わしらも結構な腕前だったんじゃぞ。特にレビンの実力は仲間内でも群を抜いておった。しかし、たった4人の『チーム・サティスファクション』に歯が立たなかった」
 負けはしたものの、彼らは「レボリューションを倒した」という実績が欲しかったらしく、住処を追われるようなことはなかった。
「だから、わしらは特に気にしていなかったんじゃ」

 ――しかし、レビンだけは違った。

 敗北を機に、態度に余裕がなくなった。何かに取り憑かれたように日夜デュエルのトレーニングに励み、喧嘩を売ってきた他のデュエリストを容赦なく叩き潰すようになった。
「そこにヤツは姿を現した」
 気づけば、「ある男に紹介された」という理由で、レボリューションに加わるメンバーが急増していた。それに合わせて、昔からの仲間がいつの間にかいなくなっていた。
「わしが気づいたときには、もう手遅れじゃった……ヤツが加わってから、レボリューションは変わったのじゃ。それこそ、巨悪を為そうとする組織のように」
「……その「ヤツ」っていう人物の名前は?」
 我慢しきれなくなったようで、ストラが口を挟む。

「――光坂慎一。ヤツはそう名乗っておった」

 光坂慎一。おそらくは偽名だろうが……聞いたことのない名だ。
「そして今、レボリューションはただのテロ集団になり下がったわけじゃ」
 話に区切りがついたのか、切はいつの間にか目の前に置かれていた湯呑を手に取ると、ゆっくりと中の茶をすする。
「……だから、お前は組織を抜けたと?」
「そうじゃ。レビンが……残っている昔の仲間たちが大罪人になる前に、奴らを止めねばならん」
「今、レボリューションが何をしようとしているのか、知っているんですか?」
 メモ帳を片手に、ストラがさらに突っ込んだ質問をする。
「……光坂は「ある力」を持ったデュエリストを重要視していた。最近は姿を見かけないことが多かったのう。きっと、サテライトを回ってメンバーを集めていたのじゃろうな」
「ある力?」
 輝王が訊くと、切は突然何かを閃いたような顔になり、跳ねた一房の前髪――あとでストラに訊いたら「アホ毛」というらしい――がピンと立つ。
「ふむ、いい案が浮かんだぞい……百聞は一見にしかずじゃ!」
 そう言って、切は勢いよく席を立つ。
「はぁ!? また何の脈絡もなく……まだわたしの質問に答えてもらってませんよ!」
「いちいち細かいやつじゃのう。お主の疑問は後回しじゃ」
「なっ……!?」
 相当苛立っているのか、ペンを折ってしまいそうなほど右手が震えている。
「お主! 名は?」
 切は輝王を指差し、瞳を爛々と輝かせながら告げる。
「……輝王。輝王正義だ」
「よし、輝王! これからお主の腕前をテストするぞ! ついてまいれ!」
 がっはっは、と豪快に笑い、ゆっくりとした足取りで出口に向かう切。
「な、何なんですかあいつ! 勝手に話を進めて! さっき自分で先輩のこと「相当な実力者」って言ってたじゃないですか! 矛盾してませんか!?」
「……貴重な情報源だ。我慢しろ」
 カッカするストラに、輝王なりのフォロー(?)を入れてから、切の後に続く。
 ……彼女の話が本当かどうか、それはまだわからない。
 だが、判断するのは切の「テスト」とやらを受けてからでも遅くはない――輝王は漠然と感じていた。

 スッ、と。

 輝王の行く手を阻むように、食堂の主人(マスター)が立ちふさがった。
 きれいに剃られたスキンヘッドといかつい顔面が、強烈なプレッシャーを与えてくる。
「……お客さん、お勘定」
 そう言って、主人(マスター)は、伝票を輝王に手渡す。
 そこに書かれた金額は――
「せ、先輩! あいつが逃げるといけないんで、先に行ってますね!」
 後ろから伝票を覗き込んでいたストラが、焦って駆けだす。
「払えない……なんて言わないよな?」
 輝王は、自分が高給取りのエリートであることを、生まれて初めて感謝した。