にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 2-1

「紹介しよう。今日からこの第17支部に配属になった、輝王正義君と――」
「ストラ・ロウマンです! よろしくお願いします!!」
 自分の隣でぺこりと頭を下げる後輩の姿を見て、輝王は頭を抱えた。
 ……まさか、本当についてくるとは思わなかった。
 すでに異動が決まっていた輝王と同じ日に配属になったということは、相当急いで手続きをしたのだろう。最も、好き好んでサテライトに来るような物好きは、シティのサテライト本部にはいないか。
 輝王が案内されたのは、全員分のデスクが並んだオフィスのようだった。机の上に並んだノートパソコンはすでに型落ちしたもので、部屋の隅に置かれた複合機は継続的に異音を発していた。
 コンクリートがむき出しの壁はところどころひびが入り、スキマ風が吹き抜けてくる。
 最新の設備がそろった本部とは雲泥の差だ。
「2人は本部の人間の中でも選りすぐりのエリートだ。活躍を期待しているよ」
 そう言ってはげ上がった頭をポリポリと掻く中年男性が、第17支部の所長だ。
「みんなも仲良くしてやってくれ。とは言っても――」
 輝王とストラの前にいる第17支部のメンバーは、たった2人だけだった。
「サテライトの支部はどこも慢性的に人手不足でね……ゴドウィン長官も、本気でサテライトの治安を安定させる気があるのかどうか……」
 所長が大きなため息を吐く。
 ……所長には悪いが、彼の期待には応えてやれそうにない。
 輝王は個人的な理由――親友の死に関わっていた「レボリューション」という組織を探るためにここにやってきたのだ。余計なことに首を突っ込んでいる暇はない。
「輝王くんに、ストラちゃんか。私は大原竜美(おおはらたつみ)。これからよろしくね」
 最初に話しかけてきたのは、ストラと同じようなOL風のスーツの上に、深紅のロングコートを着込んだ赤髪の女性だった。女性の中でも背は低い部類に入るだろうが、その身から漂わせる威圧感のようなものが、彼女の姿を一回り大きく見せていた。
 身長のせいで年齢が判別しにくいが、落ち着いた口調からすると年上だろう。24~25くらいだろうか。
「わざわざこんな辺境の地にようこそ。ま、仲良くやりましょう」
 そう言って竜美は右手を差し出す。友好の証、ということだろうか。
「は、はい……」
 ストラが差し出された手を握り返す。竜美の雰囲気に気圧されているのか、おっかなびっくりだ。
「……俺はジェンス・マクダーレン。よろしく頼む」
 竜美の隣に立つ男性が、軽く頭を下げる。
 輝王も背が高い方だが、ジェンスはそれ以上だった。おそらく2メートルはあるだろう。セキュリティの制服の上からでも、盛り上がった筋肉がよく分かる。日焼けした彫りの深い顔のあちこちに傷跡があり、「サテライト」がどういったところなのかを物語っているようだった。
「じゃ、ジェンス君、後は頼むよ」
 その言葉を残して、所長は奥にある別室へと引っ込んでしまった。閉じられた扉には「所長室」と書かれたプレートが下がっている。
「まったく、あのオヤジはいつも口ばっかり……」
 所長の姿が見えなくなった途端、真っ先に竜美が文句を垂れる。
「そう言うな、竜美。あれで結構いろいろと手を回してくれているんだ」
「どうだか。ただ単に外をパトロールする度胸がないだけなんじゃないの」
「…………」
 ストラが無言でこちらを見上げてくる。
 この第17支部が担当しているエリアは、サテライトの中でもかなり治安が悪い方だ。建物の損傷もひどく、たちの悪いごろつきやデュエルギャングのたまり場になっている。
 順調にエリート街道を進んできたストラは、現場に出た経験が少ない。本部で各所に指示を出したり、集められた情報を統合して犯人を割り出すことが多かった。
 だからこそ、いきなりサテライトにやってきて、何が起こるか不安なのだろう。思えば、ここに来るための車中でも、妙に外を気にしていた気がする。
「どうしたの? もしかして、本部のエリートともあろう方が怖じ気づいちゃった?」
 ストラの様子に気づいたのか、竜美がいたずらっぽく笑いながら彼女を小突く。
「そ、そんなことありません! どんな連中が来ても返り討ちにしてやりますよ! お茶の子さいさいです!」
 胸を張るストラだが、腰に当てた両腕が小刻みに震えていた。
(……まったく、怖いのならそう言えばいいのに)
 輝王は無理矢理ついてきたブロンド髪の後輩を見ながら、そう思った。まあサテライトまで来てしまった以上、覚悟を決めるしかないのだが。
「さて。そろそろ本題に移ろう」
 ジェンスが場を仕切り直すように言ってから、自分のデスクへと移動する。
「こっちへ来てくれ」
 3人が集まったのを確認すると、粗末なパイプ椅子に腰掛ける。
「所長――正確にはゴドウィン長官からだが、話は聞いている。君たち2人は『レボリューション』の捜査のためにやってきたのだろう?」
「……はい」
 輝王は頷く。ここまで話が通っているのなら、動きやすそうだ。
「正直なところ、こちらでは大した情報は掴んでいない。『レボリューション』のアジトがこの支部の担当エリアにあること以外は、有力な手掛かりはない」
「なぜ、このエリアにアジトがあると?」
「……信頼できる筋からの情報だ。悪いがこれ以上は話せん」
 話せない理由を探ろうとして、やめる。今はそれよりも優先すべきすることがあるはずだ。
「なかなか尻尾をつかませないのよね、連中。サテライト中からデュエリストを集めてるって噂もあるし、どこかで足がついてもよさそうなもんだけど……」
 竜美が舌打ちをする。どうやら『レボリューション』についてはかなり手を焼いているようだ。
「これといって表立った事件を起こしていないのも、奴らの動きを特定できない要因の1つだな。それだけに、先日のアルカディアムーブメント襲撃は驚いたがね」
「輝王君は犯人と対峙したんでしょ?」
「ええ……結局逃げられてしまいましたが」
 宇川の高笑いが耳の奥で残響し、輝王は不快感を覚える。結果として、宇川の思い通りに事は進んでいたのだろう。
「話を戻そう。現状、俺と竜美は他に捜査しなければいけない事件が山積みでな。残念だがそちらの手伝いはできそうにない」
「わたしも本当なら『レボリューション』を追いたいんだけどね……奴らを放っておくと、とんでもないことになりそうな予感がすんだよ」
「とんでもないこと……ですか」
 ストラが竜美の言葉を反芻する。
「今は前段階――事を起こすための準備期間……ヤな感じさ」
 もし、火乃が組織の人間に殺されたとしたら――また犠牲者が出る可能性は高い。
「そういうわけにもいかないだろう。事件に大きい小さいもない」
「はいはい。それがあんたの口癖だものね」
 やれやれ、と首を振った竜美は、向かいにある自分のデスクに座ってノートパソコンに向かう。
「……というわけだ。所長も情報集めに奔走しているだろうが――」
 ちらりと所長室に視線を向けるジェンス。
「基本的には、君たち2人だけで捜査に当たってもらうことになる。その代わりと言っては何だが、他の事件はすべてこちらに回してくれて構わない」
「――了解しました」
 輝王が頭を下げると、ジェンスは「健闘を祈る」と自分のデスクに積まれた書類の山に向かい始める。
「……大丈夫なんですかね?」
 尋常ではない書類の量を見て、ストラが心配そうに訊いてくる。
「大丈夫なんだろう」
 投げやりな答えだったが、今まで2人でやってきたんだ。これが日常茶飯事なのだろう。
 ……最も、竜美のデスクの上に書類が1枚もないのは気になったが。