にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 1-1

 もうすぐ日付が変わろうとしているというのに、この街は眠ることを忘れてしまったかのように煌々と輝き続ける。
 その中でもひときわ目立つ高層ビルのふもとから、もうもうと黒煙が上がっていた。周囲ではけたたましくサイレンが鳴り響き、行き交うセキュリティたちが情報を交換している。
「状況は!?」
「爆破テロだ! 派手にやらかしたみたいだが、重傷者は出てない!」
「しかし、安否がわからない者が何人かいるようだ」
「犯人は複数なのか!? それとも――」


 喧騒から離れた、建物が密集している路地裏。そこを根城にしていた野良猫が、侵入者の気配を敏感に察知し、逃げだしていく。
 ざりっ、とわざと派手に足音を立てて、輝王は深い闇の奥へと視線を移す。
 ――いる。
「くふ。くふふ。セキュリティにも、ずいぶん鼻の利いた人間がいるものですね」
 ひどく濁っていて、聞いているだけで不快になるような声が、闇の中から響く。
「出てこい」
 輝王は端的に告げる。その声に応えるように姿を現したのは、髪を毒々しい紫に染め、ルージュの口紅を光らせた――長身の男だった。ピチピチの黒いジーンズに、ファー付きのロングコートを直接着ている。前のボタンは外されていて、引き締まった肉体を惜しげもなくさらしていた。
 男の悪趣味な格好に、輝王は顔をしかめる。
「甘いマスクに黒の長髪、そして妙に鋭角的なジャケット……あなたのことは知ってますよ、輝王セイギクン」
 人をおちょくるようにウインクをして、男は目を細める。
「その名前で俺を呼ぶな。テロリスト――いや、宇川昇(うかわのぼる)」
「くふ。こっちの素性は割れているようですね……あと、その名前で呼ばないでもらえます? 仲間内では『織姫』で通ってますので」
 なにが織姫だ、と心の中で吐き捨てて、輝王は宇川を見据える。
 奇抜なファッションだが、その左腕にはしっかりとデュエルディスクが装着されていた。
「テロ組織『レボリューション』の一員……アルカディアムーブメントを襲撃したのは貴様だな」
「……その通りです、と言ったら?」
 宇川の挑発的な瞳が、輝王を射抜く。それに応じることなく、輝王ははっきりと告げた。
「貴様を拘束する」
 ――宇川はうつむいた状態で、片手で自らの顔を隠し、含み笑いを漏らす。
 奴の奇行に付き合っている暇はない。輝王は宇川に向かって一歩を踏み出す。
「いいですね。あなたのような魅力的な男性に拘束されるというのも悪くない。しかし――」
 宇川の瞳がぎらりとあやしく光ったかと思うと、左腕のデュエルディスクから『何か』が発射される。
「ッ!?」
 こちらに向かって高速で飛んでくるそれを、輝王は自分のデュエルディスクで受け止める。盾代わりに使いたくはなかったが、到底避わせる速度ではなかった。
「数年前に、あるデュエルギャングが使っていたものです。素敵でしょう?」
 見れば、輝王と宇川のデュエルディスクが細いロープで繋がっていた。ディスクに取り付いた手錠はがっちりと固定され、簡単には外れそうにない。
「――私を拘束するのは、デュエルで屈服させてから、というのはどうでしょう?」
 そう言って舌なめずりをする宇川。
 サイレンの音はまだ鳴り響いている。この状況では、仲間に連絡を取ることは不可能だろう。
(……元よりそんなつもりはない)
 宇川には、個人的に訊きたいことが山ほどある。親友の高良が死亡直前まで追いかけていたテロ組織「レボリューション」――ようやくその尻尾をつかんだのだ。他の連中に逮捕されてしまえば、私怨を持つ自分には取り調べをさせてもらえないだろう。今回のような緊急事態でなければ、チャンスはない。
「いいだろう。なら、俺が勝ったら話してもらうぞ――貴様らの組織のことを」
 だから、ここはあえて挑発に乗ってやる。
「くふ。仲間を売るというのはとても心が痛むのですが……」
 言葉とは正反対の愉快気な笑みを浮かべながら、
「いいでしょう。あなたになら教えますよ。輝王クン」
 その言葉を合図に、双方のデュエルディスクが展開する。

「――それでは、楽しいデュエルの時間の幕開けですよォッ!」
 宇川の狂気が、闇を呼び込んでいる――そんな錯覚を感じた。