にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドM 6-4

「それでは始めてください。お願いしますねストラさん」
 卑猥に動く宇川の手が、ストラの細い肩に絡みついた瞬間、
 ドン! と建物全体を揺るがすような爆発音が轟く。
「くふ。大原さんも短気ですねぇ……ともあれ、早くデュエルの決着をつけないと、共倒れになりかねませんよ?」
「…………」
 周囲の熱気が、明らかに増している。
 今の爆発で、拘置所を包む火の手が、危険な領域へと踏み込んだのだろう。この取り調べ室が一面火の海になるのも時間の問題だ。
「私は安全なところから観戦させてもらいますよ。約束は守りますから、ご心配なく」
「――信じると思っているのか?」
 内に渦巻く憤怒の感情を押し殺しながら、輝王は低い声で告げる。
 対し、宇川は大仰に両手を広げ、
「ストラさんを倒せば分かることですよ。くふ」
 心底楽しそうに言った後、背後の扉を開く。
「そうそう。この取り調べ室から出られるのは、デュエルの勝者だけです。負けたものは、丸焼きか蒸し焼きになって、ここで生涯を終えるでしょう、くふ。そういう『仕掛け』を設置しておきました」
 最悪の事実を言い残し、紫髪の変態は部屋から出て行った。
 それを合図に、ストラの方の扉からも、鍵が閉まる音が聞こえる。
 この取り調べ室の鍵は、体当たりしたくらいでは壊れないよう頑丈に出来ている。取り調べを受けている容疑者が、万が一逃げ出さないためだ。
「…………」
 呼びとめる気にもなれない。
 今、輝王の中に溜まっているありったけの怒りを込めてガラスを殴れば、簡単に砕けるんじゃないかと錯覚するほどの激情が、体を支配しようとしている。
 しかし、その激情に流されるわけにはいかない。
 光を失った瞳で、虚空を見つめる後輩――ストラ・ロウマンを正気に戻さなければならない。
 宇川の発言と、彼女の様子から推測するに、ストラがマインドコントロールを受けたのは間違いないだろう。ジェンスや竜美のように、正体を偽っていた可能性もなくはないが……。
 輝王は視線を走らせ、取り調べ室の隅々を見まわす。以前大石を取り調べしたときとなんら変わらないように見えるが、宇川の言うことが本当なら、デュエルの敗者をなぶり殺すための装置があるはずだ。
「輝王先輩」
 沈黙を破ったのは、ストラだった。
「先輩は、わたしのことどう思ってますか?」
 その声は感情の起伏に乏しく、彼女が何を考えているかを読み取ることは難しい。

「わたしは、先輩のこと愛してます」

 輝王の返事を待たずに、ストラは平坦に告げる。
 それは愛の告白だったが、言葉に「想い」は微塵もこもっていない。
 ただ、事実を伝えるかのような無機質な声は、コンピューターに読みあげさせたのではないかと思わせる。
 普段のストラ・ロウマンなら、こんな声は絶対に出さない。
 輝王は、彼女がマインドコントロールを受けていることを確信した。
「世界中の誰よりも、先輩のことを愛している自信があります。アカデミアで先輩に色目を使っていた娼婦紛いの女よりも、健気さをアピールして先輩に取り入ろうとした被害者の女よりも、過去を捏造して先輩の気を引こうとした犯罪者の女よりも、その気はないみたいなことを言っておきながら先輩を意識していた意地汚い同僚の女よりも、馴れ馴れしく先輩に話しかけてた赤い髪の女よりも――そして、あのサテライトの馬鹿女よりも。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと先輩を愛しています」
 感情がこもっていれば、背筋がうすら寒くなるような告白。
 しかし、今のストラはそれすらも感じさせない。
 ただ、言葉だけが吐き出されている。
「だから」
 デッキがシャッフルされ、一番上のカードに指を添えるストラ。
「だから、わたしを見てください」
 カードが引かれる。
 ――説得によって、彼女を正気に戻すことは難しいだろう。なら、戦うしかない。
 覚悟を決めた輝王は、自らのデッキからカードを5枚引く。
「先輩、愛してます」
 歪なその言葉が、デュエル開始の合図となった。