にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-22

 瀧上との距離は15メートル。この程度なら、<ドラグニティ・ドライブ>による跳躍補正によって一息で詰められる。
「――コード<ライトパルサー>!」
 突き出された手の平に、光の矢が3本出現する。
(――見える!)
 地下通路ではわけも分からずただ受けるしかなかった瀧上の攻撃が、はっきりと見える。
 あの光の矢が高速で発射され、輝王の体を穿ったのだ。
(シールド・コードによる防御を念頭に置いてはダメだ。それなら――)
 アクティブ・コードによって全身を保護しつつ、右足を地につけ、急ブレーキをかける。
 それと同時に、3本の光の矢が放たれた。
 矢を回避したあと、もう一度跳んで瀧上の懐に潜り込む。
 そう決めた輝王は、瀧上の挙動に気を割きつつ、矢の行方を注視する――
 が。
「な……!?」
 放たれた光の矢は、数センチ進んだところで忽然と姿を消した。
 その現象について詳しく考える暇は与えられない。
 次の瞬間、消えた光の矢は、何の前触れもなく輝王の眼前に現れる。
「くっ――」
 即座にシールド・コードを展開。ギリギリのタイミングで間にあったようで、光の矢は透明の障壁に激突し、霧散する。ビキリ、と嫌な音を立てて障壁にヒビが入った。
「足が止まったなァ! 白斗の話じゃ<ドラグニティ・ドライブ>は高速戦闘が十八番らしいが、<ライトパルサー>が真正面から受けてるようじゃお話にもならねぇ!」
 第二射が来る。輝王は矢が放たれる前に真横へと跳ぶ。
「それで避けたつもりかよ!」
 放たれた光の矢は、またしても消失し、輝王の眼前へと出現する。
 シールド・コードを再展開するが、跳んでいる途中だったため命力の配分が乱れた。反射的に身を屈める。
 バギン! と。
 結果、威力は減衰されたものの矢は障壁を貫通し、輝王の脇腹へと突き刺さった。
「ぐっ……」
 衝撃を殺し切れず、輝王の体が地面に叩きつけられる。二度三度バウンドしながら体勢を整え直し、背後の壁にぶつかることは回避する。
「どうした? 俺はここで棒立ちしたまま<ライトパルサー>を連射してるだけでいいのかよ。難易度低すぎだろうが」
 拍子抜けだと言わんばかりにため息をつく瀧上に、輝王は言葉を返せない。
 脇腹の出血が瞬く間にスーツに沁み込んでいく。致命傷と言うほどではないが、無視できない痛みが断続的に襲ってくる。それを強引に振り払い、輝王は思考を集中させる。
(コード<ライトパルサー>は、光学迷彩のように軌道を不可視にしているのか、それとも矢を瞬間移動させているのか……そのどちらかだ)
 このまま黙って受け続けるわけにはいかない。回避から反撃に転じるために、確かめる必要がある。
 輝王は、遊具――昇り降りして遊ぶための、木で作られた小さな砦の陰を目指して跳ぶ。
 当然、それを追うようにコード<ライトパルサー>による光の矢が発射された。
 砦の陰に入ったところで、前面にシールド・コードを最大強度で展開させる。
 直後、光の矢は輝王の数センチ手前で現出する。
(やはり――)
 ガキキキキ! と甲高い音が連続して鳴り響き、光の矢が弾かれる。またしても障壁に亀裂が走るが、貫通する事だけは防いだ。
 次の攻撃が来る前に、輝王は砦の陰から躍り出る。そして、瀧上の側面を目がけて再度跳躍する。
「やっぱりかくれんぼは中止、ってか!」
「元より隠れるつもりなど――!」
 今の攻撃で確信する。コード<ライトパルサー>は、光の矢を瞬間移動させ、標的の眼前に出現させる攻撃だ。木の砦が全く傷つかなかったことがその証明になる。おそらくは、<ライトパルサー・ドラゴン>の除外効果の解釈を重視しているのだろう。
「種が分かった、って顔だな!」
 輝王の考えを読みつつも、瀧上はその場から動かず、光の矢を放ってくる。それは、自信の表れか、それとも輝王を試しているのか――
 眼前に現れる光の矢。数は3。狙いは輝王の頭部に集中している。
「――――ッ!」
 シールド・コードを展開させる必要はない。
 目の前に現れるのが分かっているなら、見てから回避すればいいのだ。
 矢が到達する寸前、輝王は瞬時に上半身をひねる。アクティブ・コードで肉体を保護していても筋肉が悲鳴を上げる無茶な挙動に、脇腹の傷から血が溢れた。
 それでも、半身が傾いたことで、光の矢は輝王の髪を数本抉り、背後へと流れていく。
 輝王は傾いた体勢を戻さず、片足で地を蹴りそのまま回転へと繋げる。
 槍がしなり、空気を裂く音が響く。振り向きざま、回転の勢いを加えた打ち下ろし。
「コード<ダークフレア>」
 黒い炎の壁が瀧上を覆うように燃え上がり、槍の一撃を阻む。
 ここまでは、計算通りだ。
 輝王は左手を滑らせて槍を引くと、強く地面を踏みつけ腰を落とす。
「シッ!」
 そして、突き。
 体全体でぶつかるように、至近距離から放たれた瞬速の一撃は、
「――とんだナマクラだな、オイ」
 しかし、炎の壁を突き破ることは叶わない。
 逆に、その壁を内側から突き破り、瀧上の拳が飛んでくる。
 輝王は咄嗟に槍を水平に構え、柄の部分でそれを受け止める。
 衝撃。
 下からのアッパーカットに、留まれば槍を跳ね上げられ無防備な姿を晒すと判断した輝王は、拳を受け止めると同時に後ろへ跳ぶ。
 三度、両者の距離が開いた。
「……<ライトパルサー>の矢を避けたのは称賛してやるぜ。けど、どんなに足掻こうがテメエはそこまでだよ、輝王正義」
 コード<ダークフレア>を解除し、炎の壁を消した瀧上は、その場から動かずに告げる。
「テメエには牙がない。俺の心臓を抉り、喰い殺そうとする牙がな。だからテメエは<ダークフレア>を突破できない」
 瀧上に対し、一切の憎しみがないかと問われれば、頷くことはできない。
 だが、彼の言う通り、殺意は微塵もない。
 輝王の目的は瀧上を倒し、もう一度法の裁きを受けさせることだ。命を奪おうとは考えていない。
 脇腹の傷が痛む。この状況は、その驕りが招いた結果だ。
 それでも。
「……例え牙がなかったとしても、俺は退かないし倒れるつもりもない。俺は、俺を支えてくれる人たちのために、お前に負けるわけにはいかない」
 矛ではなく、盾。
 誰かを守るために、自分の力はある。誰かを守るために、自分は強くなれる。
 それが、輝王の考える「自分だけの強さ」だ。
 術式<ドラグニティ・ドライブ>が生み出した槍を固く握りしめる。
「……やっぱテメエは何にも成長してねえな、ガキ」
 苛立ちを募らせた瀧上が、古びたジャングルジムを殴りつける。それだけで、ジャングルジムはバラバラに崩れ去った。
「それ以上夢物語を語るんなら、まずは喉を潰す。悲鳴が聞けねえのは残念だがな」
 瀧上の右手が上がる。コード<ライトパルサー>を発動する気だ。
 回避のタイミングは掴んだ。後は、いかにしてコード<ダークフレア>を突破するか。
 そう考えていた輝王の目の前に、今までとは異なる景色が生まれる。
 それは、広場を埋め尽くすほどの光の矢。
「さあ、避けてみろよ」
 蝶が舞うことも許されないほど敷き詰められた光の矢が、一斉に放たれた。