にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage 番外編 リボーン・ドライブ-24

「ぐ、おッ……!?」
 瀧上の顔が苦痛に歪む。崩れそうになる体勢を必死にこらえているようだった。
 だが。
(浅い――)
 槍は、瀧上の脇腹を掠めただけだ。本能的に輝王の攻撃を危険だと感じ取った瀧上が、ギリギリのタイミングで体をずらしたのだ。
 初めて、輝王以外の人間の血が流れる。
「へっ……いいモン持ってんじゃねえかよッ!」
(まずい!)
 左足で踏ん張ることによって前のめりになっている体を強引に引き止める。
 瀧上の左手が動く。狙いはコードの発動――ではない。輝王の槍を掴み、動きを封じることだ。
 石像との戦いがフラッシュバックする。輝王は前へ進もうとする運動エネルギーに逆らい、無理矢理槍を引き戻そうとする。筋肉が引き千切れる音が聞こえるが、構ってなどいられない。
 ここで槍を掴まれたとしたら、輝王は己の武器を放棄して下がらざるを得ないだろう。そうなってしまえば再び懐に潜り込むのは至難の業だろうし、そもそも<ドラグニティ・ドライブ>を再起動して2本目の槍を作り出す余裕があるかどうかも怪しいところだ。
 瀧上の指が、槍の柄に触れる――
 瞬間、槍は輝王の元へと引き戻された。
 刹那の空白。
 瀧上の右手が上がる。
 輝王の右足が地を踏みしめる。
「ナイトコード……」
 詠唱を始めたところで、口の中に錆びついた味が広がった。命力の枯渇によってアクティブ・コードによる保護が十分ではなかったため内臓が傷つき、出血したのだ。
 威力の高いコードの連発は、体に多大な負荷がかかる。東吾はそう言った。
 だが、決してできないとは言わなかった。
 例え命力が足りなくても。例えこの身が引き千切れても。
 絶対に、ここで下がるわけにはいかない。
「<ゲイボルグ>ッ!」
 刃が金色へと変化する。コードは確実に起動した。
 対し、瀧上の右手には光の矢は生まれていない。脇腹の傷が、瞬間的な判断力を奪ったのだろう。
 刺突が放たれる。
 炎の壁を貫通する。

「――コード<ダークフレア・アサルト>」

 そこで、槍の半分から先が黒い炎に呑まれた。
「……俺は、今のお前よりも強い高良火乃に復讐するためにこの力を身につけたんだぜ? 隠し玉のひとつくらい持ってなきゃ、アイツは出し抜けないだろ」
 壁を作り上げていたはずの黒い炎が、瀧上の両拳に集まっていく。
 それはまるで、狼の顎のようだ。
 揺らめく炎は鋭く尖り、突き立てられれば身を焦がされるだろう。
「想像力不足だな。輝王正義」
 瀧上の拳が、輝王の腹に突き刺さった。



 輝王の体が吹き飛ばされ、地面を転がる。刃を失った得物が手から滑り落ち、カラカラと軽い音を立てながら転がって行った。
「…………フン」
 これで終わりだと思ったが、拳に伝わった感触はそれを否定していた。
(寸前でシールド・コードを発動させて防ぎやがったな。往生際の悪いヤツだ)
 だが、瀧上にとっては好都合だ。意識があったほうが、なぶり殺す甲斐があるというもの。舌なめずりをして、口の端から出血していることに気付いた。
「あんまコイツは使いたくねえんだがよ。威力は申し分ねえんだが、自分の手も焼いちまうのが欠点でな。火傷した手じゃ、女を……藍子を抱けねえだろ?」
 コード<ダークフレア・アサルト>は、その名の通り<ダークフレア>の攻撃モードだ。全てを焼き尽くす黒の炎を拳に纏い、触れたものを消し炭にする。それは使用者である瀧上であっても例外ではない。
 拳を受けた輝王の腹部は、来ていたスーツとシャツが焼失し、黒く焦げた肉が顕わになっていた。それでも全身に炎が燃え広がらなかったのだから、攻撃箇所を予測して強固な障壁を発生させたのだろう。
 もうひとつの難点として、コード<ダークフレア・アサルト>発動時は他のコードを発動できないという条件があるのだが、わざわざこちらを明かす必要はない。
 瀧上は、この戦いで初めて自らの足を使って輝王に近づく。
 得物を失った青年は、震える体に鞭を打ち、ようやく立ち上がったところだった。
「まずは喉だったな」
 右手の指をかぎ爪のように曲げる。それに応じるように、炎も鋭さを増した。
 輝王は立ち上がるのがやっとという有様だったが、それでも瞳は死んでいない。
「術式解放……<ドラグニティ・ドライブ>……」
 右手を突き出し、再度術式を起動しようとする。
 無駄な足掻きだ、と思いつつも瀧上はそれを止めない。
 この短期間でナイトコード<ゲイボルグ>を習得していたのは予想外だったが、瀧上にとっては高良火乃との戦いですでに見た技だ。<ダークフレア・アサルト>を発動した今なら、対処は難しくない。あるいは、<ダークフレア・アサルト>を解除し、距離を取ってコード<ライトパルサー>で狙い撃ちにすることもできる。
 輝王は、死に物狂いで反撃してくるだろう。
 その芽をひとつひとつ丁寧に摘み取り、絶望へと叩き落とす。それでようやく瀧上は満たされる。
 歓喜の瞬間を心待ちにしつつも、瀧上ははやる気持ちを押さえて輝王との距離を詰める。
 そこで、違和感があった。
 <ドラグニティ・ドライブ>については、白斗の協力もあり多少の知識を得ている。あれは、術式の起動と同時に、<ドラグニティ>の象徴ともいえる槍が出現するはずだ。再起動した場合、最初に出現した槍はどんな状態であれ一旦消えるはず。
 しかし、炎に焼かれた槍は地面に転がったままで、一向に消失する気配がない。
 疑問の解は、続く輝王の言葉によってもたらされる。

「――アームズコード<レヴァテイン>」

 それは、瀧上の知識には存在しないコード。
 風と共に生まれたのは、一振りの大剣。
「隠し玉、か。生憎だが、ジョーカーなら俺も持ち合わせている」
 思い出す。
 <ドラグニティ>には、騎士だけではなく、剣の名を冠した竜たちがいたことに。
「決着をつけよう。瀧上轟」
 <ドラグニティアームズ-レヴァテイン>。
 竜が手にしたものと同じ剣を構えた輝王は、最後の激突を望んでいた。