にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage 番外編 ジェムナイトは砕けない-21

「…………ッ」
 神楽屋はギリ、と音が鳴るくらい奥歯を強く噛む。デュエルなどというまどろっこしい手段を取っている余裕はない。初撃は防がれたが、実体化させた<ジェムナイト・ルビーズ>による攻撃を続け、豹里の意識を奪うべきだ。沸騰した感情はしきりにそう訴えている。
 だが、囚われたほたるの生殺与奪の権利を握っているのは、豹里だ。感情に流された行動を取れば、彼女の身に大きな傷が残るのは間違いない。それは、神楽屋が最も恐れることだった。
 今は、豹里に従うしかない。神楽屋は<ジェムナイト・ルビーズ>の実体化を解除した。
「懸命な判断ですね。では、私の先攻で始めさせていただきますよ」
 期待通りの反応を見て気分を良くしたのか、声を弾ませた豹里は最初のドローを行う。すでに初手である5枚のカードはドロー済みだ。
「ふむ……まずは先輩様のお手並み拝見といきましょうか。モンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドです」
 裏守備モンスターと伏せカードが現れ、豹里のターンは終了する。
 ……いちいち癇に障る物言いをするやつだ、と神楽屋は思う。創志と意気投合したことだが、デュエリストに挑発行為は必須なのだろうか。

【豹里LP4000】 手札4枚
場:裏守備モンスター、伏せ1枚
【神楽屋LP4000】 手札5枚
場:なし

「……俺のターンだ。ドロー」
 神楽屋がドローしたカードは、<ジェムナイト・フュージョン>。デッキを回すためのキーカード――というよりも、このカードがなければ<ジェムナイト>は始まらないといっても過言ではない。にも関わらず、神楽屋はこのカードを引けないことが多かった。このカードをサーチするためのモンスター<ジェムタートル>を投入しても、だ。
 そのカードが最初のドローで引けた幸運に、神楽屋は逆に不安を覚える。
(三隅とのデュエルでも初手に<フュージョン>があった……降って湧いた幸運のあとには、大抵ロクでもないことが待ち構えてるもんだ)
 デッキの回転の良さに違和感を覚えるなど、それこそ構築に問題がありそうなものだが、創志やティトが神楽屋のデッキを使うと比較的早い段階で<ジェムナイト・フュージョン>が手札に来るので、単純に運が悪いだけなのだろう。
 思考が横道に逸れたことで、幾分か落ち着きを取り戻すことができた。神楽屋は磔になっているほたるに視線を送ってから、1枚のカードを取る。
「ハッ、お手並み拝見ってことなら派手にいかせてもらおうじゃねえか。俺は<ジェムレシス>を召喚。効果でデッキから<ジェムナイト・ルマリン>を手札に加えさせてもらうぜ」

<ジェムレシス>
効果モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1700/守 500
このカードが召喚に成功した時、
自分のデッキから「ジェムナイト」と名のついた
モンスター1体を手札に加える事ができる。

 アルマジロのようなモンスター<ジェムレシス>が神楽屋のフィールドに現れ、鋭い爪で真下の地面を掘る。そこから1枚のカードが出現し、手札に加わる。
「そして<ジェムナイト・フュージョン>を発動! 手札の<ルマリン>と<クリスタ>を融合する!」

<ジェムナイト・フュージョン>
通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
「ジェムナイト」と名のついた融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
また、このカードが墓地に存在する場合、
自分の墓地に存在する「ジェムナイト」と名のついた
モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを手札に加える。

<ジェムナイト・ルマリン>
通常モンスター
星4/地属性/雷族/攻1600/守1800
イエロートルマリンの力で不思議なエナジーを創りだし、
戦力に変えて戦うぞ。
彼の刺激的な生き方に共感するジェムは多い。

<ジェムナイト・クリスタ>
通常モンスター
星7/地属性/岩石族/攻2450/守1950
クリスタルパワーを最適化し、戦闘力に変えて戦うジェムナイトの上級戦士。
その高い攻撃力で敵を圧倒するぞ。
しかし、その最適化には限界を感じる事も多く、仲間たちとの結束を大切にしている。

 神楽屋は、自分を慕う後輩の顔を思い浮かべながら、エクストラデッキからカードを引き抜く。
(力を貸してもらうぜ、ミカド!)
 このモンスターで、道を切り開く――いつか、ミカドと心の底から笑いあう日のために。
「音を超え、光を超え、その速さを刃と化せ――融合召喚! 駆け抜けろ! <ジェムナイト・パーズ>!」
 神楽屋のフィールドに、人間大の黄玉が出現する。雷を纏った宝玉に亀裂が走り、内側から砕けると、宝玉と同じ色の甲冑を纏った騎士が現れた。濃い緑のマントをはためかせ、<ジェムナイト・パーズ>は両手に握った得物を構える。

<ジェムナイト・パーズ>
融合・効果モンスター
星6/地属性/雷族/攻1800/守1800
「ジェムナイト・ルマリン」+「ジェムナイト」と名のついたモンスター
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ
エクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地に送った時、破壊した
モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「おやおや。そのモンスターは手放していたはずでは?」
「昨日返してもらったんだよ。さすがにそこまでは調べていなかったみたいだな」
 豹里は神楽屋のことを調査したと言っていた。デッキの中身も知っているようだが、<ジェムナイト・パーズ>を所持していることまでは調査が及ばなかったらしい。
「先制攻撃と行かせてもらうぜ! <ジェムナイト・パーズ>で伏せモンスターを攻撃!」
 宣言を受け取った黄玉の騎士が、身を低くする。両足に限界まで力を溜め、それを爆発させることで跳躍。標的との距離を一瞬でゼロにする。
 <ジェムナイト・パーズ>の武器の形状は、打撃が主な用途になるトンファーと酷似している。が、握り手の先には雷を模した形の刃が付いており、攻守両面において活用できるトンファーよりも、斬撃による攻撃を重視した武装であることが分かる。
 ブレード・トンファーとも言うべき武装から繰り出される、雷鳴のような斬撃――
「ライオ・ザッパー!」
 閃光が煌めき、裏守備モンスターが両断される。破壊されたのは、クリスマスに飾りつけるリースに、天使の羽が生えたモンスターだ。
「<コーリング・ノヴァ>の効果発動。このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、攻撃力1500以下の光属性・天使族モンスターを特殊召喚することができます」

コーリング・ノヴァ>
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1400/守 800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、
代わりに「天空騎士パーシアス」1体を特殊召喚する事ができる。

「天使族のリクルーターか……だが、こっちも効果が発動する! <パーズ>が相手モンスターを破壊して墓地に送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」
 ブレード・トンファーに帯電していた雷が、バチッ! と爆発するように弾け、豹里に襲いかかる。

【豹里LP4000→2600】

「くっ……このダメージは想定外でしたね……」
 豹里が顔をしかめるが、それはプレイングの軌道修正を余儀なくされたからだろう。今の神楽屋がデュエル中に攻撃を実体化させることは、滅多にない。
「それでは、次はこちらの番です」
 <コーリング・ノヴァ>の効果発動、と続くはずだった言葉は、
「あっ! ああ、ぐっ……ああっ!」
 ほたるの苦悶の声に変わった。
「なっ……!?」
「もう忘れてしまったんですか? 言ったはずですよ。私のライフが削られる度に、鎖は強く締まると。神楽屋君は私にダメージを与えました。もちろん、彼女が苦しむことを承知の上で、ですよね?」
「…………ッ!」
 忘れていたわけではない。ただ、「鎖の締め付けを強くする」というのはこちらを揺さぶるためのハッタリだと思っていたのだ。正義の味方を名乗っているデュエリストならば、こちらの戦意を露骨に削ぐような真似はしない。そう楽観視していた。
 この男は――豹里兵吾は違う。ほたるを人質に取った時点で認識するべきだった。
「状況の再確認が終わったところで、デュエルに戻りましょう。<コーリング・ノヴァ>の効果で、私はもう1体の<コーリング・ノヴァ>を攻撃表示で特殊召喚します」
 現れた<コーリング・ノヴァ>の攻撃力は1400。加えて、<ジェムナイト・パーズ>は1度のバトルフェイズ中に2回の攻撃が可能だ。<ジェムナイト・パーズ>の効果を知っているなら、豹里のプレイングは愚作としか言いようがない。
 だが。
「……チッ。バトルフェイズを終了する」
「いいんですか? <ジェムナイト・パーズ>も<ジェムレシス>もまだ攻撃可能ですよ?」
 豹里のわざとらしい問いに、神楽屋は無言を貫く。
 <ジェムナイト・パーズ>の追撃はもちろんのこと、<ジェムレシス>の攻撃でもわずかながらダメージは発生する。さらに、豹里は<ジェムナイト・パーズ>で攻撃できないことを見越して、最適なモンスターをリクルートしてくるだろう。せめてその事態は避けたかった。
「カードを1枚伏せる。ターンエンドだ」
 まずは、ほたるの救出を最優先にしなければならない。
 しかし、神楽屋が仲間を呼ぶような素振りを見せれば、豹里は即座に動くだろう。そもそも、奴の目をかいくぐってほたるを助け出せるような隠密行動ができる知り合いはいない。
(っても、このままじゃジリ貧だ。何か手を打たねえと……)

【豹里LP2600】 手札4枚
場:コーリング・ノヴァ(攻撃)、伏せ1枚
【神楽屋LP4000】 手札2枚
場:ジェムレシス(攻撃)、ジェムナイト・パーズ(攻撃)、伏せ1枚