にわかオタクの雑記帳

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遊戯王 New stage 番外編 ジェムナイトは砕けない-5

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 「ねこねこ喫茶」を後にした神楽屋は、これからの予定を思い浮かべる。
 天羽と輝王以外にも治安維持局に知り合いはいるが、これ以上聞き込みを続けても有力な情報は出てこないだろう。
(……大原なら何か知っているかもしれないが、アイツに話すと絶対首を突っ込んでくるだろうからな)
 レボリューションの元メンバーであり――どんな手段を使ったのかは知らないが――現在はセキュリティの捜査官である女性、大原竜美。彼女も公にはできない裏のつながりがいくつもあるらしいが……「エリートの不正を暴く」という目的を知れば、積極的に関わろうとしてくるだろう。お高くとまった連中を引きずり下ろす――竜美が好きそうなシチュエーションだ。
 とにかく、豹里の「内側の顔」は十分知ることができた。
 なら、次は「外側の顔」を探るべきだろう。
 それには、旧サテライト地区へと渡る必要があるが、その前に――
「……オイ。いつまでつけ回すつもりだ?」
「――――っ!」
 神楽屋が背後に振り向きながら呼びかけると、びっくりした様子で建物の陰に引っ込む人影があった。ぴょこぴょこと動くツインテールが見えてしまっているため、正体はバレバレだ。
「いいから出てこいよ、白下ほたる。言っておくが、お前が尾行してたことは最初から気付いてたからな」
「ええっ!? そんなぁ……結構自信あったのに……」
 しょぼんと肩を落としながら現れたのは、神楽屋の予想通り、今回の依頼人だった。
 デュエルギャングに所属している割には、随分お粗末な尾行だったというか……いや、尾行と言えるようなものではなく、単純に神楽屋を追いかけてきただけだ。
「……どうして付いてきた? そんなに俺のことが信用できなかったか?」
 気持ちは分からないでもない。依頼達成は困難だと念押しされたせいで、神楽屋が本当に情報収集に動いているのか不安になったのだろう。3日後に「色々探ってみたけど無理そうだから降りる」と言いつつ、実はどこかでサボっていただけなんて事態にならないかどうか監視しているのだ。
「ちが……あ、う、うん。そうよ。アンタがちゃんと仕事してるかどうかチェックしてたの」
「……今、違うって言いかけなかったか?」
「空耳よ! せっかくシティに来たんだし、観光したいなんて思ってないんだからねっ!」
 顔を真っ赤にしながら否定するほたるの視線は、ちらちらと「ねこねこ喫茶」のほうに向いている。何と言うか……隠し事が下手なやつだな、と神楽屋は思う。
「それよりも、喫茶店で女の人と会ったり、猫喫茶に入ったり……アンタ本当に仕事してるの?」
「お前も入りたかったのか? ねこねこ喫茶」
「だから違うって言ってるでしょ!」
 今にも掴みかからんとする勢いで喚くほたる。煽り耐性の低さは創志といい勝負だ。
「安心しろ、っても無理な話かもしれねえが……別に遊んでるわけじゃないからな。ま、今日はこれ以上動くつもりもないが」
 旧サテライト地区に向かうのは、日を改めたほうがいいだろう。豹里の情報封鎖がどの程度まで及んでいるのかは分からないが、あからさまに動くのは避けたい。この段階で目を付けられ、身動きが取れなくなってしまうのは厄介だ。
「俺は事務所に帰るけど……お前はどうする?」
「えっ? な、ならあたしもホテルに帰ろうかな。シティなんて回っても仕方ないし」
 そうやってほたるが強がってみせたときだった。
 バサリ、と彼女の背中から本のようなものが落ちる。
 「ネオ童実野シティ完全ガイド!」と書かれた本の表紙には、様々な名所や食べ物などの写真が並んでおり、中のページにはいくつも付箋が貼られていた。
「あっ! やだ、ちょっと見ないで!」
 ほたるは慌てて観光ガイドを拾うが、時すでに遅し。
「……ったく、素直じゃねえな。ちょっと来い」
 口でどう言おうと、本心は筒抜けだ。ほたるは、シティの観光を楽しみにしていたんだろう。けど、1人で出歩くのは不安だし、知り合いもいないから、神楽屋の後を追いかけた。
 一緒に、回ってほしくて。
 神楽屋は断りも無しにほたるの手を引くと、強引に歩き出す。
「ちょ、ちょっとアンタ! 何すんのよ!」
「さすがにネオ童実野シティ全部は回れねえが、この辺なら案内してやるよ。ガイドブックに載ってない隠れた名店も知ってるしな」
「い、いいってば! あたしはホテルに帰るって言ったでしょ! 手、離して!」
「嫌だね。お前の気持ちなんて知るか。俺がお前を連れていきたいと思ったから行くんだ。いくら拒否しようと、俺の気が済むまでは手は離さない」
「えっ……」
 こういう輩は、口でいくら言っても聞かない。だから、多少強引にも動いてしまったほうがいいと、神楽屋は今までの経験から判断した。
(とは言っても、女の子の手を握るってのは緊張すんな……)
 その辺の経験値はまだまだ足りない神楽屋である。実は結構緊張している。
(こんなところ、矢心先生に見られたら絶対誤解されるだろうな……)
 神楽屋がふとそんなことを考えると、
「あら、神楽屋君。奇遇ね」
 思い浮かべていた人物が、ひょっこりと現れた。
「や、矢心先生……!? どうしてここに……」
 銀色の髪を三つ編みに縛り、独特なカラーリングのワンピースを着ているこの女性は、矢心詠凛。神楽屋が以前から世話になっており、今は信二の担当でもある医者だ。
「今日は時間があったから、ちょっと遠出してランチしてきたのよ。神楽屋君は仕事中かしら……あら?」
 そこで矢心はほたるの存在に気付き、悪戯っぽい笑みを作る。
「ごめんなさい。デート中だったのね。邪魔しちゃったかしら」
「「違う!」」
 口元に手を添えて半目になる矢心に、神楽屋だけでなくほたるも即座に反論する。
「あらあら、別に隠さなくてもいいのよ? 今度ゆっくりお話聞かせてね。それじゃ」
 こちらの反論をさらりと聞き流し、矢心はひらひらと手を振りながら行ってしまった。神楽屋はもちろん引きとめたが、聞こえないフリをしているようだった。
「……今の綺麗な人、誰?」
 矢心が去った後、今度はほたるがジト目で睨んでくる。心なしか、手を握る力が強くなっている気がする。
 神楽屋は盛大にため息を吐いたあと、
「……後で説明する。とりあえず、今はさっさと店まで行こうぜ」
 ほたるからの質問を封じ込めるように、早足で歩き始めた。