にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-18】

 力だけが、自分の存在意義だった。
 生まれつき強力なサイコパワーを持っていた砂神緑雨は、幼い頃から力に翻弄され続けた。
 他人から疎まれるのは、強すぎる力のせい。
 他人から持ち上げられるのは、強すぎる力のせい。
 他人から求められるのは、強すぎる力だけ――
 そこに、砂神緑雨という個人は必要なかった。
 それでも、砂神は力を手放そうとはしなかった。
 力のせいでいじめられたから、いじめてきたやつを半殺しにしてやった。
 力のせいで持てはやされたから、お山の大将を演じてやった。
 力を求められたから、何も考えずに力を振るった。
 分かっていたのだ。
 この力を手放せば、唯一の居場所が失われてしまうと。
 だから、次元を渡る力を手にしたとき――自らの居場所を求めて様々な世界を渡り歩いた。
 どこかの世界には、きっと砂神緑雨という人間を必要としてくれる場所がある。
 そう信じて、来る日も来る日も次元を渡った。
 しかし。
 どの世界にも、砂神緑雨の居場所はなかった。
 彼が持つ力だけが、必要とされた。
 度重なる次元転移で精神は摩耗し、考えることが苦痛になっていった。
 何故、自分がこんなに苦しまなければならないのか――
 分かっていた。サイコパワーを手放せば、少なくともこの苦痛からは解放される。
 けれど、できない。最早、力は切っても切り離せないくらい「砂神緑雨」という自我を支える存在になっていた。
 そんな時だった。
 サイコデュエリストが変異した形――自我を失った亡者。
 ペイン、と呼ばれているモノに、出会った。
 そこで、彼は気付いた。
 自我を失ってしまえば……ペインになることができれば、自分はもう苦しまなくて済む。
 ペインになるためには、もっと強い力が必要だ。自分自身で制御できなくなるくらい、暴走するくらいの力が。
 それを得るために、自分だけの世界を創り出し、そこを狩り場とした。
 様々な世界から有能なサイコデュエリストを連れ込み、力を奪う。
 何度も何度も狩りを繰り返せば、いつか自分もペインになれる。
 砂神緑雨という存在から解放される。
 そのためには、あと少し。
 あと少しだけ力が足りない――

 ◆◆◆

 崩れゆく<邪神ドレッド・ルート>を尻目に、天高く飛翔した<-蘇生龍- レムナント・ドラグーン>は、闇の深い空で目一杯翼を広げたあと、治輝の元へと舞い戻る。
 邪神が放っていた呪縛は解かれ、フィールド上のモンスターの攻守は元の数値へと戻る。
「糞が……糞が糞が糞が糞が糞がッ!! どうして俺様の邪神が二度も敗れなければならない! どうして貴様らは邪神の前にひれ伏そうとしないッ!!」
 犬歯を剥き出しにして、砂神は吠える。ピラミッドの頂上から治輝たちを見下しつつも、その表情からはすでに余裕は消え失せていた。
「また人格が変わったみたいだな……」
「いや、違うんだ創志。砂神のあれは二重人格なんかじゃない」
 砂神の敵意を真っ向から受けた治輝は、視線を逸らすことなくはっきりと宣言する。
「言葉遣いや雰囲気は違うかもしれない。けれど、本質的な部分は同じなんだ。傲慢で、わがままで、それでいて傷つけられるのを怖がってる……子供なんだ」
「貴様ッ……!」
「そうだろう? だって、お前はまだ自分の強さすら分かってない。その邪神だって、誰かから奪った借り物みたいだ。自分の強さが分かっているデュエリストなら、自らのプレイングで、デッキ構築で、カードの力を最大限に引き出そうとするはずだ。お前の邪神からは、それが感じられない。だから、その二重人格だって、ただ演じてるだけなんじゃないか?」
「黙れッ!!」
 今までで一番大きな声で、砂神が吠えた。
 砂神の手札は<冥界の宝札>の効果により、かなり充実しているはずだ。にもかかわらず、伏せカードは<―聖なるバリア― ミラーフォース>のみ。輝王が<邪神アバター>に攻撃した際も、<終焉の焔>がセットされていただけで、邪神をサポートするカードは一切なかった。
 砂神は、邪神を召喚した時点で思考を止めてしまっている。強大な力で相手を叩き潰し、平伏させる……だが、それが通じなかった時のことは想定していない。そんな詰めの甘さからも、カードを扱いきれていないという未熟さが滲み出ているのだ。
「……どうやら時枝の言うとおりのようだな。図星というわけか」
「確かに、この変則タッグデュエルじゃなかったら、アイツのデッキは重すぎて邪神召喚する前に負けちまってたかもな」
「黙れと言っているんだッ!」
 砂神は治輝たちを一喝すると、ピラミッドの頂上を、ダン! と強く踏みつける。
 ビキッ! という破砕音が響き渡り、ピラミッドに縦一直線のヒビが生まれた。
「喚くなカス共が……! まだデュエルは終わっていない! 偉そうな口を叩くのは、俺様を倒してからにしてもらおう!」
「……そうだな。お前にはそれが一番効きそうだ。俺はカードを1枚伏せて、ターンを終了する」
 2体目の邪神は潰えた。
 終局の時は、近い。

【砂神LP3900】 手札4枚
場:裏守備モンスター3体、冥界の宝札
【輝王LP200】 手札2枚
場:A・マインド(守備)、機甲部隊の最前線、伏せ2枚
【治輝LP500】 手札5枚
場:-蘇生龍- レムナント・ドラグーン(攻撃)、伏せ2枚
【創志LP1250】 手札2枚
場:マシン・デベロッパー(カウンター10)