にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-19】

「俺様のターン!」
 カードを鋭利な刃物へと変貌させる勢いで、砂神がカードをドローする。
「すでに生贄は揃っている――3体のモンスターをリリース!」
 砂神の場に在る3体の裏守備モンスターの姿が、蜃気楼のように揺らめき、消える。
 いつの間にか治輝たちの足元から霧が立ち込め、同時に空間を包む圧迫感が強くなっていく。<邪神アバター>や<邪神ドレッド・ルート>が召喚されたときと同じだ――
「ぐっ……!?」
 突然、ふらりとよろめいた創志が片膝を突く。
 確かに、感じる圧迫感は他の邪神が召喚された時と同じだ。
 だが、今回はそれとは別の感覚が、治輝たちを襲っていた。
 体中から力が抜けていく――いや、吸い取られていくような奇妙な感覚。吸われた力は霧に乗って、砂神の場へと流れていく。
 霧は時間が経つにつれて濃くなり、砂神を、そしてピラミッドまでも覆い隠していく。

「奪え! 力を! それがお前に課せられた使命だ! 現界せよ――<邪神イレイザー>!!」

 砂神の宣言と共に、霧が吹き飛ぶ。
 明瞭になった視界に映るものは、第三の邪神だった。
「……やはり、3体目の邪神がいたか」
 輝王が苦虫を噛み潰したような顔になる。予想はしていたが、それが的中してほしくはなかったのだろう。
 禍々しい空気を放つ、ドラゴンによく似た鋭いフォルムの上半身。下半身は蛇の尻尾に酷似しており、霧の中に沈んでいるためどれほどの長さなのか把握できない。
 <邪神アバター>のような異質さも、<邪神ドレッド・ルート>のような迫力もない。
 ただ、研ぎ澄まされた恐ろしさだけがある。
「時枝治輝! 貴様は言ったな! 俺の邪神は、誰かから奪った借り物のようだと!」
 <冥界の宝札>の効果でカードを2枚ドローし、瞳に憎しみの炎をたぎらせたまま、砂神は叫ぶ。
「この<邪神イレイザー>の攻撃力と守備力は、相手フィールド上に存在するカードの枚数×1000ポイントの数値になる、まさに借り物の神だ! <邪神アバター>と同じ、力を奪うべき相手がいなければ、弱小モンスターにも劣る、不完全な神サマなんだよ!」
 かつて、とあるデュエリストに「人頼みの神」と評された第三の邪神。
 その特性を踏まえたうえで、砂神は告げる。
「けれど、俺様はこの戦い方を改めるつもりはないッ! 奪って……奪って奪って奪い尽くして! 砂神緑雨という存在が消え失せるまで力を奪い続ける! <邪神イレイザー>のようにな!」

<邪神イレイザー>
効果モンスター
星10/闇属性/悪魔族/攻   ?/守   ?
このカードは特殊召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を
生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールド上に存在する
カードの枚数×1000ポイントの数値になる。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、フィールド上のカードを全て破壊する。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する事ができる。

 <邪神イレイザー>は、大切な何かを奪われてしまう恐怖の具現。
 その恐怖は、他の2つの恐怖よりも、深い爪痕を残す。
「バトルだ! <イレイザー>で目障りなそこの龍を攻撃!」
 現在、治輝たちのフィールドに在るカードは8枚。<邪神イレイザー>の攻撃力・守備力は8000という途方もない数値になっていた。通常のシングルデュエルであれば、相手に相当のボードアドバンテージを握られていない限り、ここまでの攻撃力・守備力にはならない。
「くっ……速攻魔法<超再生能力>を発動!」

<超再生能力>
速攻魔法
このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、
このターン自分が手札から捨てたドラゴン族モンスター、
及びこのターン自分が手札・フィールド上からリリースした
ドラゴン族モンスターの枚数分だけ、
自分のデッキからカードをドローする。

 やむを得ず、治輝は伏せカードの1枚を発動する。元々は<-蘇生龍- レムナント・ドラグーン>が破壊された時のために残しておいたカードだが、今は少しでも<邪神イレイザー>の攻撃力を下げることが先決だ。
「場のカードを減らしてきたか。だが、まだ<邪神イレイザー>の攻撃力は7000ある! <レムナント・ドラグーン>を葬り、貴様にトドメを刺すには十分な数値だ!」
 治輝の手札にあるドラゴン族は4枚……<-蘇生龍- レムナント・ドラグーン>の効果を使ったとしても、攻撃力は6200までしか上がらない。
(くそ……こんなことなら、さっきのターンに<超再生能力>を使っておくべきだった)
 万が一のための保険として残しておいたのが仇となった。
「治輝!」
 創志が叫ぶが、治輝に<邪神イレイザー>の攻撃を防ぐ術はない。もう1枚の伏せカードは<リビングデッドの呼び声>であり、これを使ったとしても<邪神イレイザー>の攻撃力を上昇させるだけだ。
「終わりのようだな。俺様を馬鹿にした報いを受けろ! ダイジェスティブ・ブレス!」
 <邪神イレイザー>が攻撃を放つ瞬間、再び力を奪われるような感覚が治輝たちを襲う。いや、奪われる「ような」ではない。実際に奪われているのだ。
 他人から奪った力を糧とし、<邪神イレイザー>は本質を顕わにする。
 口から放たれた波動が、青き龍へと迫る。
「……ダメージステップ! 手札にある4枚のドラゴン族モンスターを見せることで、<レム>の攻撃力を上昇させる!」
「ヒャハハハハハ! 今度こそ無駄な足掻きだなァ! 死ね! 時枝治輝!」
 邪神が放った波動――「ダイジェスティブ・ブレス」が、<-蘇生龍- レムナント・ドラグーン>を呑みこんでいく。
 青き龍の背中には4本のブースターが出現していたが、その推進力を得ても波動を突き破ることは叶わない。
 青い光が屑となって散らばり、龍が崩れていく。
「<レム>――」
 治輝の手札が左手からこぼれ落ちると、<-蘇生龍- レムナント・ドラグーン>は跡形もなく消滅した。