にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【幕間-1】

「さあて、これからどうすっかね」
 嘆息しつつ、場を仕切り直すように言ったのは、神楽屋だ。
「うう……リソナのサイコパワーで突破してやろうと思ってたのに……がっくりです」
「あえて壁に攻撃して罠を起動させ、先に落ちた時枝と合流するってのもアリと言えばアリだが……同じ場所に落ちられる保証もなければ、もう一度同じ罠が起動する保証もない。危険すぎるな」
 神楽屋のすぐ傍で体育座りをして、しょげている金髪の少女、リソナ。
 治輝が「落とし穴」に落ちたあと、2人は相変わらず光の壁の前で立ち往生していた。
 曰く、飛び越えようとしても弾かれるし、物理的手段では破壊不能な壁。攻撃を加え破壊に失敗すれば、一番壁の近くにいる人物が「どこか」に落ちる罠が仕掛けられている。
 治輝の無事を確認したあと、残された3人と1匹(?)は、二手に分かれて周辺を探ってみた。敵に捕らえられていた七水と、<スクラップ・ドラゴン>の精霊――通称スドをコンビにすることには若干の不安を覚えたが、本人たちが口を揃えて「大丈夫」というので、神楽屋はリソナと共に来た道を引き返し、他のルートが無いか探索を始めた。
 が、結局成果は無く、こうして光の壁の前に戻ってきたというわけだ。
 神楽屋たちが戻ってから10分ほど経つが、まだ七水とスドの姿は見えない。特に集合時間を決めていたわけではないので、まだ探索を続けているのだろう。
(……敵に襲われてる、って可能性は捨てきれない。用心するに越したことはねえな)
 神楽屋は周辺の気配に注意を向けつつ、蛍のように鮮やかな光を放つ壁を見上げる。
 この先には、一体どんな世界が広がっているのだろうか――そんなことを考えていると、
「あ、そういえばリソナ、変なカード拾ったです」
 デュエルディスクの墓地ゾーンからカードを引っ張り出したリソナは、それを神楽屋に向けて差し出してきた。
「あん? 魔法カードか……見た事ねえカードだな」
 記されているアイコンは装備魔法を示しているが、テキストの部分がかすれてしまっていて、どんな効果を持つカードなのかは不明だ。
「<神器アルマーズ>……何かすごそうなカードです?」
「装備魔法か。なら、ちょっと試してみるぜ」
 神楽屋は左腕に装着しているデュエルディスクを展開すると、エクストラデッキからカードを1枚選び取り、ディスクにセットする。
「<ジェムナイト・パーズ>!」
 立体映像として現れたのは、金色の甲冑を纏った宝玉の騎士だ。その両手には、トンファーによく似た武器を携えているが、
「こいつなら使いこなせそうな感じだ。<神器アルマーズ>を装備!」
 トンファーを手放した<ジェムナイト・パーズ>が、新たに現れた武装――<神器アルマーズ>の柄を握りしめる。
 カードイラストを見るに、<神器アルマーズ>は斧のようだ。もしかしたら、このカードこそが光の壁を破壊できる唯一の手段なのかもしれない。
 ソリットビジョンシステムがカードのデータを読み取り、立体映像として映し出す。
 あとは、それをサイコパワーによって実体化させればいい。
 そのはずだったのだが――
「な、何だこりゃ!?」
 ドスン! と盛大な音を響かせながら、実体化した<神器アルマーズ>が地面に落ちる。
 確かに、それは斧だった。
 刀身に雷鳴を模した紋章が刻まれている、神聖なる雰囲気を纏う武器だ。
 戦士族である<ジェムナイト・パーズ>なら装備できるはずだと思ったのだが、それは間違いだったようだ。
 問題なのは、その大きさ。
 どう見ても3メートルくらいはある。これを扱うには、人間大の<ジェムナイト・パーズ>では無理だ。
「おっきい斧です……」
 リソナがほええと目を丸くしながら、地面に横たわる巨大な斧に見入っている。
(推測だが、壁の破壊に<神器アルマーズ>を使うってのは間違ってないはず。けど、これを振り回せるモンスターっていったら……)
 まず、神楽屋の<ジェムナイト>は無理だ。どのモンスターも人間大くらいの大きさしかなく、<ジェムナイト・パーズ>が無理だったのだから、他を試すのは時間の無駄だ。
 リソナの<裁きの龍>なら大きさの問題はクリアしているだろうが、さすがに斧を手に持って振るうことはできないだろう。となると、人の形を模した巨大なモンスターが理想ということになるが――
 神楽屋がそこまで考えたとき、遠くから足音が聞こえてきた。
 七水のものではない――というか、人間のものではない。ドスン、ドスン、と一歩を踏む度に地面が軽く揺れ、地響きによく似た音が響き渡る。
「あ、神楽屋さん、リソナちゃん、ただいま戻りました」
「面白いものを拾えたわい」
 やがて、足音の主の全貌が明らかになる。
 それは、灰色の巨人だった。土や岩石を組み合わせて組み上げられた、巨人――一般的には「ゴーレム」と表されているものだった。
 七水とスドの声は、ゴーレムの右肩付近から響いている。
「わー! わー! わー! 何ですコレ!? おっきいおっきい人形です!」
「ゴーレム、って言うんだよ。リソナちゃん」
「ごーれむ! カッコいい名前です! リソナも乗りたいですー!」
 灰色の巨人を目の前にして大はしゃぎのリソナ。
 すると、それを察したのかゴーレムが片膝を付き、左手を差し出してくる。
「……乗れ、ってことです?」
 リソナの問いに、ゴーレムが頷く。リソナはぱあっと顔を輝かせ、体から喜びを爆発させるように跳ねまわりながら、ゴーレムの左手に飛び乗った。リソナが肩まで昇ったのを確認したあとゴーレムは再び立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。
「あははー! すごいですー! 高いですー!」
「……<グラゴニス>でもっと高いところ飛んでただろうが」
 はしゃぐリソナに聞こえないようにツッコミを入れつつ、神楽屋は降りてきたスドに向き直る。
「んで? このゴーレムは何だよ」
「詳しい事は分からんが、どうやら破棄されていたようじゃの。七水が近づいたら突然動き始めたのじゃが……危険はなさそうだったので、ここまで連れてきたのじゃ。壁の破壊に一役買ってくれるかと思っての」
「そうか……」
 そこで、神楽屋は気付く。
 <ジェムナイト・パーズ>では扱えなかった、巨大な斧。

 このゴーレムなら、振るえるのではないか?

「――おい! 七水! リソナ!」
「何ですか?」
 神楽屋がゴーレムの肩に乗っている2人に呼びかけると、七水が反応した。リソナは全然気付いていないようだ。
「そのゴーレムにここに落ちてる斧を拾わせて、壁に攻撃することはできるか?」
「……ええっと、できるかどうかわからないけど、とりあえずお願いしてみます」
 頷いた七水が、ゴーレムに向かって囁きかける。
「…………」
 ゴーレムは<神器アルマーズ>の存在を確認したあと、静かに片膝を付く。
「ど、どうしたです?」
「……たぶん、降りろってことだと思う」
 七水に促され、渋々といった感じでリソナがゴーレムから降りる。続けて七水も降りると、ゴーレムは横たわる巨大な斧を掴み取り、両手でしっかりと握りしめた。
 刀身に刻まれた紋章に光が走り、<神器アルマーズ>が雷を纏う。
 ゴーレムは、その斧を天高く振り上げ――
 光の壁に叩きつけた。
 ガシャアアアアン! とガラスが砕け散るような音が響き渡り、壁が崩れる。
 淡い光が消え、ただの岩塊と化した壁が、土埃を巻き上げながら崩れ去っていく。
 やがて粉塵が収まり、崩れた壁の先に新たな道が続いているのが見えた。