にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 氷点下の結び目-9

「わたしのターン……これで、わたしの伏せカードは使えるんだよね?」
「え、ええ。<ブリザード・プリンセス>の効果は、召喚したターンしか適用されませんわ」
 ティトの言葉に内心ぎくりとしつつ、ビビアンは焦りを隠しながら答える。
「よかった。それなら、わたしの勝ちだね」
「え……?」
 突然の勝利宣言に、ビビアンは呆気に取られる。
 思考が追いつく前に、ティトは動き出していた。
「永続罠<リミット・リバース>を発動して、墓地の<氷結界の伝道師>を蘇生」

<リミット・リバース>
永続罠
自分の墓地に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、
攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

<氷結界の伝道師>
効果モンスター
星2/水属性/水族/攻1000/守 400
自分フィールド上に「氷結界」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚するターン、
自分はレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。
また、このカードをリリースする事で、
「氷結界の伝道師」以外の自分の墓地に存在する
「氷結界」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

「……ああっ!?」
 その段階に至って、ようやくビビアンはティトがやろうとしていることを理解する。
 <氷結界の伝道師>――あのモンスターは、自身をリリースすることで、墓地の<氷結界>モンスターを特殊召喚できる効果がある。その対象に、レベルなどの制限はない。
 つまり。
「来て。<グングニール>」
 先程葬られた氷の龍を蘇生させることも可能、ということだ。
 <氷結界の伝道師>によって、再び圧倒的な存在感を顕示する<氷結界の龍グングニール>。
「……完全に、私の負けですわね」
 認めざるを得ない。
 ビビアンは、ティトの伏せカードを恐れ、最後の一歩を踏み出すことができなかった。
 あの時、<ブリザード・プリンセス>ではなく<青氷の白夜龍>を召喚していれば、その時点で勝敗は決していた。けれど、できなかった。
 ティトは、ビビアンの伏せカードを恐れることなく、自らのエースモンスターを再び呼びだした。手札は1枚……伏せカードを処理できない状況であっても、だ。
 そこに、決定的な差があった。
 確実に勝利を手にしようと選んだ道が、敗北へと繋がっていたのだ。
「やりなさい、ティト・ハウンツ。私に手は残されていませんわ」
 ビビアンは、自ら伏せカードがブラフであることを明かす。最も、ティトはそれを見抜いていただろうが。
「……えと。じゃあ、<グングニール>の効果で手札を1枚捨てて、<ブリザード・プリンセス>を破壊」
 幼い姫君が、納得のいかないといった表情で砕け散る。
(納得がいかないのは、私も同じですわ)
 デッキパワーが劣っていたわけではない。
 勝敗を分けたのは、デュエリストの差――
「<グングニール>でダイレクトアタック」
 自らの未熟さを噛みしめながら、ビビアンは負けた。

【ビビアンLP1500→0】


 ビビアンがデュエルアカデミアで負けるのは、これが初めてだった。
 その初めてを与えた銀髪の少女が――ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
 彼女に対しては、散々ひどいことを言った。
 罵倒されるのだろうか。報復されるのだろうか。それとも――
 そんな悲観的なイメージを思い描いていると、
「びびあん」
 ぎゅっ、と。
 空いていた右手が、暖かな感触に包まれる。
 ティトが、ビビアンの右手を握っているのだ。
「え……」
 ビビアンが戸惑っていると、ティトは優しげな微笑を浮かべ、口を開く。

「ありがとう。とっても楽しかった」

 楽しかった――
 そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
 ビビアンは、憧れの人に近づくために、何人ものデュエリストを完膚なきまでに叩き潰してきた。
 デュエルが終わった後、そこにいるのは屈辱にまみれた敗者だけだった。
 そこに、楽しいなどという感情は皆無だっただろう。
 ビビアンも、敗者となったことで、同じような屈辱を味わうのだろうと思っていた。
 だが、違う。
 勝者である少女は微笑み――そして、敗者である自分は、充実感で満ちていた。
「…………ッ!!」
 感情が整理できなくなり、ビビアンはティトの手を強引に振り払うと、逃げるように第二デュエル場を後にする。
 顔が真っ赤になっていることくらい、鏡を見なくても分かった。