にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

オリジナルstage 【ep-21 サイドS】

 かづなには、創志たちに話さなかったことがある。
 時枝治輝はサイコデュエリストではなく、ペインであること。
 その力のせいで、今はこことは異なる異世界にいること。
 それでも、治輝のことを話すたびに、顔を輝かせながら続きを促してくれる創志の顔は、見ていてうれしかった。
 いつまで一緒にいられるか分からないけれど、いつの日か全部話せるといいな――そう思っていた。


◆◆◆


「まさか本当に手掛かりを残しているなんて……」
「比良牙のヤツ、トコトン腹立つヤツじゃのう」
 デュエルが行われた場所まで戻ってきた一行の前に現れたのは、巨大な円筒型の装置らしき物体だった。例えるなら、怪しげな地下施設で怪しげな実験生物が培養されていそうなアレだ。
 カラクリ人形が爆発したせいで地面が焦げ付いていたが、火災が起きたり有毒なガスが発生したりしているということはなさそうだ。
「何でしょうかこの装置……巨大ミキサーかな?」
「いや、それはないと思うぞ」
 装置の周囲をぐるぐる回りながら首をかしげるかづなに、創志は短くツッコミを入れる。
 人1人が入っても余裕な大きさのミキサーで、一体何を砕いてすり潰すというのか……それ以上は考えないようにした。
「ん? 中にパネルがあるな」
 創志は円筒部分の内部に足を踏み入れる。円筒を支える柱の一部に、数字やアルファベットのキーが並んだパネルが埋め込まれていた。おそらく、このキーを押して装置を動かすのだろう。
「下手にいじらないでくださいよ。敵が残した罠かもしれませんし」
「罠だとしたら、創志君が中に入った時点で作動してそうな感じですけどね」
「怖い事言うなよ……」
 などと装置の外にいるかづなや純也と言葉を交わしていると、

「――敵じゃ!」

 刀を抜き放った切が、鋭い叫び声を上げた。
「敵――!?」
 装置の周囲は遮蔽物が何もない更地だ。一体どこに潜んでいたというのか。
 その答えは、すぐに明らかになった。
 焦げ付いた地面の下――土の中から、緩慢な動作で起き上がるカラクリ人形。
 1体ではない。装置の周囲を取り囲むようにしていくつも土が盛り上がり、木製のカラクリ人形が姿を現す。その腕には、それぞれデュエルディスクが装着されていた。
「くそっ、罠だったのか!?」
 焦った創志は、バン! と柱に手を突いて苛立ちを顕わにする。
 と。
 突然ガシャン! と音を立てて円筒の扉が閉まり、天井のランプが赤や緑の光を明滅させる。装置全体が細かく振動し、腹の底に響くような重低音が鳴り始める。
 どこからどう見ても、装置が作動していた。
「え、ちょ、何やってるんですか創志さん! これ動いてますよね!?」
「あー……ワリィ。下手にいじっちまったみたいだ」
 うろたえる純也に、創志はバツの悪い笑みを浮かべた。
 乱暴に柱に手を突いたとき、操作盤と思わしきパネルを触ってしまったようだ。
「どうしたのじゃ!? 敵が間近に迫っておるぞ!」
「創志君を外に出さなきゃまずいです! こうなったら、私の雪平鍋でこのミキサーを壊すしかありません!」
「やめてくださいかづなおねえさん! あとミキサーじゃないです!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐ3人の背後には、カラクリ人形の大群が迫っている。
「早く脱出しねえと……!」
 ドアノブのようなものは見当たらないし、かといって自動ドアのように人を感知するセンサーの類も付いていないようだ。かづなの言うとおり、いっそのこと扉を割ってしまったほうがいいかもしれない。円柱を形成している透明な壁はガラスではなくプラスチックのようだが、何回も体当たりすればそのうち壊れるだろう。
 そう思った創志が、助走をつけようと数歩下がったときだった。
「――ッ!?」
 体が上から引っ張られるような感覚が襲ってくる。エレベーターに乗って上の階に上がるときと似たような感覚だ。
 装置から響く重低音が大きさを増すと同時、創志の視界が白くぼやけていく。
「創志君!」
「創志!」
 かづなと切が自分の名前を叫んでいるのが聞こえる。
「何だよこりゃ……! かづな! 切!」
 困惑しながらも、2人の名前を叫び返すが、こちらの声が届いていないようで、2人は変わらず創志の名前を叫び続ける。
 迂闊だった。一体何が起こっているのかは分からないが、これが比良牙の仕掛けた罠であったことは確実だ。
(比良牙の野郎……!)
 心中で罵るが、白く染まる視界をどうにかすることはできなかった。