にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-19 サイドS】

 <紅蓮魔闘士>の攻撃が通った時点で、勝敗は決した。
 <アームズ・エイド>には、装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地に送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある。
 それが、2体分も発動したのだ。ライフが満タンだろうとひとたまりもない。
「……僕の、勝ちだ」
 大きく息を吐いたあと、純也は比良牙に向かってはっきりと宣言する。
「やりましたね! 純也君!」
 駆け寄ってきたかづなが、喜びを抑えきれないといった感じで背中から抱きついてくる。
 かづなの温かな雰囲気を間近で感じることで、緊張が徐々にほぐれていくのが分かった。
「最初はどうなることかと思ったがの……よく持ち直したものじゃ」
 腕を組んだ切も、安堵のため息を吐く。
 そして。
「見せてもらったぜ。お前のデュエル」
 背後から聞こえてきた声に、純也はかづなに断ってから、振り向く。
 頭に巻いていた包帯を外した皆本創志は、白い歯を覗かせながら笑うと、

「頑張ったじゃねえか。カッコよかったぜ」

 そう言って、右の拳を真っ直ぐ突き出した。
「……はい!」
 純也は右拳を強く握り、創志のそれに突き合わせる。
 コツン、と拳と拳が軽くぶつかる音が鳴り、触れた部分から創志の体温が伝わってきた。
 熱かった。自分のデュエルを見て、血がたぎったせいだ――そう思いたかった。

「やれやれ。まさかこの僕が負けるとはね」

 デュエルディスクを収納状態に戻したカラクリ人形――比良牙がポツリと呟く。
「へっ、お喋りが過ぎたみてえだな。お前みたいに口の軽い悪役は、最後に逆転されて負けるって決まってんだよ」
「フィクションの世界に浸りすぎだよ、雑魚が。僕は負けたとしても君たちに対する認識を改める気はないし……それに、敗因はバトルマニアの猿の土俵に上がってしまったことだ。僕らしく戦えば、こんな結末はなかっただろうね」
「負け惜しみじゃな。何を言っても言い訳に聞こえるぞ? 比良牙とやら」
「ああ、負け惜しみだよ。それでも言わずにはいられないのさ。君たちは弱い、とね」
 デュエルに負けたというのに、比良牙の減らず口は相変わらずどころかさらに勢いを増していた。
「主様にも困ったもんだ。獲物の選別は、もうちょっと慎重にやってもらわないと」
「……貴様には聞きたいことが山ほどあるのじゃ。その主様というのは――」

「――伏せカード」

 切が詰問を始めようとしたところで、かづなが口を開いた。
「かづなおねえさん……?」
「あなたは、まだ伏せカードを1枚残していましたよね。あれはなんだったんですか? ブラフとは思えません」
「…………」
 かづなの真っ直ぐな視線が、比良牙の目――カラクリ人形の赤いモノアイを捉える。
 その視線に何かを感じたのか、比良牙はかづなから目を逸らすと、
「それに答えるわけにはいかないな」
 早口で呟いた。先程までベラベラと喋っていた男のものとは思えないほど、短い言葉だった。
 かづなの言うとおり、最後の攻防の時、比良牙はもう1枚伏せカードを残していた。
 もし、あの伏せカードが<紅蓮魔闘士>の攻撃を阻害するものだったとしたら?
 そんな考えが、純也の脳裏をよぎる。
 すると、ポン、と優しく頭を叩かれた。見れば、傍らに立った創志が自信ありげな表情を浮かべている。
「余計なこと考えんな。お前は勝ったんだ。胸張っていいんだぜ」
 創志の言葉が、影が差し始めていた心中に、再び晴れやかな光をもたらしてくれる。
(そうだ。僕は、勝ったんだ)
 もう、恐れない。
 この手には、戦う力があるのだから。

「……そうそう。負け惜しみついでにひとつ言っておくよ。実は僕はまだ人間で、今は別の場所にいるんだ。このカラクリ人形は、遠隔操作できるデュエルマシーンなんだけど……負けたら自爆するようにセットしておいた。負けた瞬間からカウントダウンが始まってるから、あと10秒くらいで大爆発かな」

「……は?」
 カラクリ人形のマイクから響いた声に、その場にいた全員が耳を疑う。
 あと10秒で、大爆発?
「それじゃ、また会えることを祈らないでおくよ。君たちのアホ面はもう二度と見たくないから」
 比良牙が最後の憎まれ口を吐くと、ブチッとマイクの電源を切ったような音が響く。
 そして、さっきまであれほど滑らかに動いていたカラクリ人形が、ピクリとも動かなくなった。
 静寂。
 爆発のリミットを告げるカウントダウンがないのが、逆に爆弾の存在に真実味を持たせていて不気味で仕方がなかった。

「あ、そっか。ロボットが自爆するのってお約束ですもんね!」

 ポンと手を叩いたかづなが呑気なことを言った瞬間――
「逃げるぞおおおおおおおおおおおお!!」
「合点承知じゃああああああああああ!!」
 4人は一斉に(かづなは切に手を引かれて)走り出した。
 とにかくカラクリ人形から距離を離す。創志や純也、切のサイコパワーでは、間近で起きた大爆発など防げるはずがない。
 走る。脇目も振らずに走り抜ける。
 もうとっくに10秒は経過しているはずだが……
 そう思った純也が、背後を振り返った途端。
 ドカァァァァァァァン! と。
 ハリウッド映画でしかお目にかかれないような大爆発が巻き起こった。
「くそっ! あの野郎マジで爆弾仕込んでやがった!!」
 創志が信じられないといった感じで呻く。
 何とか爆風の余波から逃げ切り、すっかり息の上がった4人は、もくもくと黒煙が上がる光景を眺める。
 ……結局、比良牙から情報を聞きだすことはできなかった。
 彼の言うことが真実なら、比良牙はまだ生きている。再戦の可能性もあるということだ。
 比良牙の言った「主様」。それは、純也たちをこの世界に飛ばした青年のことを指しているように思える。
 あの青年は、何故純也たちや創志たちをこの世界に連れてきたのか?
 疑問は解決されず、疲労感だけが募っていく。創志や切も似たような心境なのか、口を開こうとしなかった。
「とりあえず――」
 沈黙を破ったのは、またしてもかづなだった。

「お腹空きません? パンでも食べましょう!」