にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

オリジナルstage 【ep-20 サイドS】

「……これからどうします?」
 両足を畳の上に投げ出した格好の純也が、気の抜けた声で言った。
「どう、する、かのう。むぐむぐ」
 答えた切は、未だにパンをほおばっている。
 結局謎のパン屋に戻ってきてしまった創志一行は、店の奥にあった4畳半ほどのスペースを間借りして、各々買ってきたパンを食していた。どのパンも味は絶品で、是非ともティトや信二、リソナにも食べさせてやろうと、お持ち帰り用に何個か袋に包むほどだ。特にクリームパンの味は格別で、濃厚なのに後味がすっきりしているという至極の一品だった。
 ……と、パンの話はともかく、色々話し合ったものの、明確な行動指針は決まっていなかった。
 比良牙が言った「主様」。その人物に会うのが一番手っ取り早いのだろうが、居場所の見当はつかない。加えて、一緒に飛ばされたであろう神楽屋、ティト、リソナ、七水、そして一般人である藤原萌子の行方も掴めてない。
 この世界に飛ばされてからすでに2人の敵を倒したものの、まだほとんど何も分かっていない、というのが現状だ。
(分かっているのは、その「主様」って野郎はサイコパワーに用があるらしいな)
 創志は自らの左手を見つめながら、握って、開く。
 これは切の見解だが――最初のペインの捨て台詞「それでこそ、我ガ主の生贄ニふさわシイ」、そして比良牙の「デュエルして力を吸い上げるなんて無駄」という言葉を鑑みるに、「主」は創志たちのサイコパワーを奪うためにこの世界に連れてきたと考えるのが妥当だ。かづなは、純也や七水と行動を共にしていたことで、巻き添えを食らってしまったのだろう。
 つまり、この世界でデュエルに敗れた場合、サイコパワーを根こそぎ吸収されてしまう恐れがある。
(……まだこの力は必要だ。いや、これから先、もっと強い力が必要になるかもしれねえ)
 ここで負けるわけにはいかない。元の世界に戻れば、創志には守らなければならないものがたくさんあるのだ。
 しかし、当然元の世界に戻る手段の手がかりもない。
「ここでまったりしてても仕方ねえ。アテもないが、とりあえず外に出てみるか」
 創志は腰を上げ、壁に立てかけてあったデュエルディスクを装着する。
 体は痛むが、無理には慣れている。まだまだ元気いっぱいな切とかづなは問題ないが、比良牙とのデュエルのせいで疲労している純也を歩き回らせるのは少し心苦しい。しかし、このままパン屋にいても状況は好転しそうにない。
 外に出れば再び敵に襲われる危険もあるが、むしろ好都合だ。今度は知っている情報を洗いざらい吐いてもらえばいい。
「ほふじゃな。ほろほろゆふか」
「まずは口の中のものを飲みこめ、切」
 ハムスターのように頬を膨らませた切に呆れ顔を向けていると、むむむと唸っていたかづなが、ちらちらとこちらに視線を向けてくる。何か言いたいことがあるようだ。
「どうした?」
「特に目的地はないんですよね? だったら、さっきの場所に戻ってみません?」
「さっきの場所っていうと……比良牙とデュエルしたところですか?」
 創志の代わりに尋ねたのは、純也だ。
「危なくないですか? 爆発のせいで火事になってるかもしれないし、どんな有害物質が蔓延してるか分かったもんじゃないですよ」
「それに、あの野郎のことじゃ。何か情報を残しているとは思えん」
 純也の意見に、切が同意する。
 創志が店のガラス越しに外の様子を窺ってみると、爆発の直後はもうもうと上がっていた黒煙が、今は収まっていた。火災の類は起きていないようだ。
「ううーん。あの人なら、私たちがそう考えることを見越した上で、手掛かりを残してそうな気がするんです。『こんな近くに重要な情報があったのに気付かないお前らバーカ!』みたいな」
 わざわざペロリと舌を出し、身振り手振りを交えて比良牙のウザさを再現するかづな。
「確かに……あいつならそんなこと言いそうですね! 腹立ってきた!」
 勝利の余韻に浸っていたせいで忘れていた怒りが戻ってきたのか、腕組みをした純也が唸りだす。あれだけ罵倒されたら、グーの一発でも入れないと気が済まないだろう。その気持ちは創志にも十分すぎるほど分かった。
「んじゃ、行ってみるか? 犯人は必ず犯行現場に戻るって言うし、かづなの意見にも一理あると思うぜ」
「創志君。それはちょっとニュアンス間違ってると思います」
「……お前にだけはツッコまれたくなかった」


◆◆◆


「そういや、かづなが話してた時枝治輝ってヤツもこっちに飛ばされてたりしねーのかな」
 カラクリ人形が爆発した地点に向かう途中、ふと気になって創志は口を開いた。
 4人でパンを食べている間、それぞれの成り行きなんかをかいつまんで話していたのだが……かづなの話の中で頻繁に名前が登場した「時枝治輝」という男。曰く、搦め手を好み面倒くさい言い回しをするドラゴン使いの決闘者らしいが、話しているかづなの表情を見れば、彼がとてもいいヤツだったのは分かる。
 海外に留学してしまったようだが、一度でいいからデュエルしてみたかった。
 話を聞いてるだけでわくわくして来るようなデュエリストなんて、久しぶりだ。最近の相手はもっぱら神楽屋がほとんどで(ティトもたまに付き合ってくれたが、アカデミアの宿題があるときはそっちが優先だった)、手の内が分かっていること前提でのデュエルが続いていた。だからこそ、時枝治輝のように見ている者を驚かせるようなプレイングをする人物と、手合わせしてみたかった。
 元々、創志は弟の信二を喜ばせるために、デュエルを始めたのだ。デュエルは楽しむものであって、本来なら命のやり取りを含むようなものじゃない。
 そう考えているからこそ、時枝治輝と純粋なデュエルをしてみたいと思ったのだが――
「そいつもサイコデュエリストなんだろ? だったら――」
「不謹慎じゃぞ、創志。この世界に飛ばされることの危険性は身をもって体験しておるはずじゃ。帰れるかどうかも分からぬ世界にかづなの友人を勝手に放り込むでない」
「あ……悪い」
 そんなつもりではなかったのだが、切の言うとおり配慮の足りない失言だった。
 頭を下げて詫びると、かづなは「大丈夫です」と微笑んでくれたのだが、
「……なお君は、来てないと思いますよ」
 一瞬だけ表情に影が差したかと思うと、ポツリとそう呟いた。
「……そっか」
 その表情を見てしまった創志は、会話を打ち切る。きっと、これ以上は自分が踏み込んではいけない領域だ。
「創志さんが治輝さんに挑むなんて、10年早いと思いますけど」
 と、自分にしては気を利かせたと思っていたら、純也が割り込んできて話題を続けてしまう。
「何だと?」
 空気読めよこのガキ、という意味合いも込めて睨んでみるが、純也は意に介していないようで話を続ける。
「創志さんは、相手の場に<ライオウ>がいて、伏せに<次元幽閉>と<神の宣告>がある状態で、1ターンで相手のライフをゼロにできます?」
「<ライオウ>? なんだそりゃ」
「……詰めデュエルをする以前の問題でしたね。治輝さんに挑むのは20年早いかもしれません」
「なんで倍に増えてんだよ!」
 ちなみに、<ライオウ>の効果はこれだ。

<ライオウ>
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1900/守 800
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加える事はできない。
また、自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、
相手モンスター1体の特殊召喚を無効にし破壊する。

 相手の特殊召喚を封じる上に、下級モンスターとしては高打点の1900の攻撃力を持つ、強力なモンスターだ。
「……そうだなぁ。もし治輝さんとデュエルすることになったときのために、このカードを貸してあげます」
 やや唐突な感じで、純也は1枚のカードを差しだしてきた。
 白い枠のモンスターカード。それは、比良牙とのデュエルで勝負の決め手となったカードだった。
「<アームズ・エイド>……いいのか?」
「僕は3枚持ってますから。3体も召喚することなんて滅多にないですし」
「……分かった。機会があるかは分からんが、借りとくよ。サンキューな」
 創志が礼を言いながら受け取ると、純也は気恥かしそうに顔を逸らした。
 変なヤツだな、と思いつつ、<アームズ・エイド>をエクストラデッキに収める。
 その強力な効果は折り紙つきだ。きっとこれからのデュエルで役立ってくれるだろう。