にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-12 サイドS】

「――――」
 全く予期していなかった攻撃。
 黒装束の腹の部分を突き破り、ガラスを砕いたと思われる棍棒が飛び出て来たのだ。
 両手で刀を支えている切には、当然それを防ぐ手段はない。
「ぐうっ!?」
 重い一撃を腹に受けた切は、そのまま後方に吹き飛ばされる――
 いや、あえて吹き飛ばれた。
 そのまま場に留まれば、ナイフで切り裂かれかねない。
 しかし、その代償として、無様に地面を転がる羽目になってしまった。腹部に受けたダメージも深刻で、すぐには立ち上がれそうにない。
(何なのじゃ、こいつは……)
 腹から飛び出してきた棍棒。その不可解な攻撃に疑問を覚えながら、切は改めて黒装束を纏った影へと視線を向ける。サイコパワーを使ったのか、それとも……
 ちょうどその時、吹き抜けた突風が破れた黒装束の一部を剥ぎ取っていった。ナイフを握った右腕と、胴体が顕わになる。
「…………!?」
 明らかになった襲撃者の体に、切は息を呑んだ。
 それは、人間のものとは思えなかった。
 黒装束の下にあったのは、職人の技で丁寧に磨き上げられたであろう、木材だ。木目をはっきりと残したこげ茶色の木材が、あろうことか襲撃者の胴体と右腕を構成している。先程切を襲った棍棒は、腹に開いた扉の奥へと収納されていくところだった。
 その姿は、巨大なからくり人形、と表すのが的確だろう。
「切! 大丈夫か!?」
 創志の切迫した声が響く。3人分の足音が聞こえることから、全員で切を追ってきたようだ。
 そして、3人とも切と同じように息を呑んだ。

「あーあ、これじゃ暗殺は無理かな。気付かれないよう1人ずつ殺っていくつもりだったのに」

 最初、その声がどこから響いたものなのか分からなかった。
 目の前のからくり人形が発しているとは思えないほど、流暢な言葉だったからだ。
「間近で見るとよく分かるねぇ。雑魚、雑魚、雑魚、雑魚。どいつもこいつも主様に捧げる価値もない貧弱な力しか持ち合わせてない。1人に至っては、全くの無能力だし」
 そう言って、襲撃者は木で作られた右腕を動かし、かづなを指差す。
 男にしてはやや高めの声だが、女性のものとは思えない。黒装束に隠れたままの上半身と両脚がどうなっているかは分からないが、人間だとするなら男だろう。
「わざわざデュエルして力を吸い上げるなんて、時間の無駄だと思うんだよね。だからさ、即刻ここで自殺してくれない? それか、大人しくそこで棒立ちしててくれれば、すぐに殺してあげるからさ」
「何だと……!」
 真っ先に反応したのは創志だった。雑魚、貧弱、殺す……どれも彼を怒らせるには十分なワードだ。
「あーあーあー、ペインくずれごときに大怪我してる弱者は引っ込んでなよ。虚勢張ったってみっともないだけだよ?」
「てめえ!」
 今にも殴りかからんとする勢いで吠える創志。以前の彼だったら、勢いだけでなくそのまま殴りに行っていたに違いない。そういう意味では、挑発に対して少しは耐性ができているのかもしれない。
「ホラ、弱い奴ほど過敏に反応するのさ。挑発にね」
 襲撃者の表情は未だ黒装束に覆われ見ることが叶わないが、下衆な笑みを浮かべていることは容易に想像できた。
(しかし……奴は何と言った?)
 腰に提げた鞘を引き抜き、それを杖代わりにして切はようやく立ち上がる。
 それに気付いたかづなが、「大丈夫ですか?」と駆け寄ってきて、切の体を支えてくれた。
「主に力を捧げる、デュエルで力を吸い上げる、ペインくずれ……どうやら奴は、先程のペインよりも多くの情報を有しているようじゃな」
 たった二、三言の中に、気になるキーワードが盛りだくさんだ。何とかしてこの襲撃者から情報を絞り取るしかあるまい。
「僕としてはさっさと全員始末して、他の連中のところに行きたいところだけど、『一応』主様が選んだデュエリストだ。君たちにその気があるなら、デュエルしてあげても構わないよ?」
 どこまでも上から目線の態度に、切もカチンと来る。先刻の攻防と腹部の鈍痛がなければ、創志を焚きつけて一緒に斬りかかっていたかもしれない。
「上等じゃねえか! なら俺が――」
「待ってください。僕が行きます」
 腕まくりをして前に出ようとした創志を制止し、代わりに進み出たのは純也だった。
「あの程度の挑発に乗ってるようじゃ、きっとこのデュエルには勝てません。怪我もしてますしね」
「けど……」
「ここは譲りませんよ」
 そう言って、純也は切とかづなの方に視線を向けてくる。今の言葉は、創志だけに向けたものではない、というメッセージだろう。
 このメンバーの中で一番幼い純也を戦いに送りだすのは、やはり気が引ける。しかし、創志と切が負傷している今、ペインに対抗できる力を持つのは純也だけなのだ。
「ま、誰から来ても同じだけどね。雑魚は雑魚。弱いものはさっさと淘汰するに限る」
「確かに、僕の力はそれほど強いものじゃない。けど――」
 黒装束の言葉に動じることも無く、堂々とした態度で純也は言い放つ。

「その雑魚に負けるお前は、もっと弱いってことだ」

「へぇ……言うじゃないか」
 声に喜色を滲ませた黒装束は、顕わになった腹部から上――上半身の装束を乱暴に剥ぎ取った。
 その姿を見て、全員が確信する。
 彼は、人間ではない。
 木材で構成された、鎧のように重厚で角ばった体。頭部はフルフェイスのヘルメットのような形をしており、本来2つの目があるはずの部分には、不気味に赤く光るモノアイが見えた。
 まさに、からくり人形。
「なら、君の自信を、死を持って砕いてあげよう。人間をやめた『からくり技師』、僕こと比良牙(ひらが)がね」