遊戯王オリジナルstage 【ep-11 サイドS】
切の問いが、弛緩していた場の雰囲気を一気に引き締めた。
力を持たぬ者が、圧倒的な「暴力」に立ち向かう。それはどれほどの恐怖を伴うものなのか。気付いた時には力を振るえるようになっていた切には、知りえない感情だった。
それを知りたいと思ったのは、かつて、かづなと同じように特別な力を持っていないにも関わらず、自分に手を貸したがためにサイコデュエリストと真っ向から渡り合うことになった「ある男」の気持ちに少しでも近づきたかったからだ。その男に問いを投げかけても、答えが返ってこないことは容易に想像できた。
「……怖くない、なんて胸を張って言えません。怖いです」
「かづなおねえさん……」
「なら、どうして戦えるのじゃ?」
切は問いを重ねる。
恐怖を跳ね除けるほどの何か。それをかづなは持っているということだ。
力を持たぬ者が、圧倒的な「暴力」に立ち向かう。それはどれほどの恐怖を伴うものなのか。気付いた時には力を振るえるようになっていた切には、知りえない感情だった。
それを知りたいと思ったのは、かつて、かづなと同じように特別な力を持っていないにも関わらず、自分に手を貸したがためにサイコデュエリストと真っ向から渡り合うことになった「ある男」の気持ちに少しでも近づきたかったからだ。その男に問いを投げかけても、答えが返ってこないことは容易に想像できた。
「……怖くない、なんて胸を張って言えません。怖いです」
「かづなおねえさん……」
「なら、どうして戦えるのじゃ?」
切は問いを重ねる。
恐怖を跳ね除けるほどの何か。それをかづなは持っているということだ。
「――頼まれちゃいましたから。あの人が帰ってくるまでは、私、負けられません」
かづなは視線を上げ、ガラス戸の向こう側に広がる曇天を見つめながら、はっきりと告げた。
「それに、もっと怖い事もありますから。それに比べれば、ペインなんてへっちゃらです!」
「……そうか」
かづなの答えは、ある意味曖昧だった。彼女の言う「あの人」が誰なのか、切にはさっぱり分からない。純也はそれを知っているのか、羨望と寂しさが入り混じったような複雑な表情を浮かべている。
「答えてくれて感謝じゃ。すまんの、おかしなことを聞いて」
それでも、切には何か得るものがあった。知りたかったものが何となく理解できた。そんな気がするのだ。
「別におかしなことじゃないと思うぜ。俺も聞けてよかった」
「創志君……」
今まで会話に耳を傾けていた創志が、満足げに頷く。
「それに、もっと怖い事もありますから。それに比べれば、ペインなんてへっちゃらです!」
「……そうか」
かづなの答えは、ある意味曖昧だった。彼女の言う「あの人」が誰なのか、切にはさっぱり分からない。純也はそれを知っているのか、羨望と寂しさが入り混じったような複雑な表情を浮かべている。
「答えてくれて感謝じゃ。すまんの、おかしなことを聞いて」
それでも、切には何か得るものがあった。知りたかったものが何となく理解できた。そんな気がするのだ。
「別におかしなことじゃないと思うぜ。俺も聞けてよかった」
「創志君……」
今まで会話に耳を傾けていた創志が、満足げに頷く。
「約束ってのは、守るためにあるもんだ。そうだろ?」
「――はい!」
「――はい!」
元気よく返事をしたかづなは、視線を棚に戻し、パン選びを再開する。
(創志にも、何か通じるものがあったのじゃろうな)
自分のことよりも、他人のことの方が力を発揮する創志のことだ。かづなの言葉は、胸を打つものがあったのだろう。
「えーと、できれば長持ちするパンがいいかな……どれにしよう……」
「……僕も手伝います」
迷っている様子のかづなを見るに見かねたのか、純也がトングを持っておさげの少女の隣に並ぶ――
(創志にも、何か通じるものがあったのじゃろうな)
自分のことよりも、他人のことの方が力を発揮する創志のことだ。かづなの言葉は、胸を打つものがあったのだろう。
「えーと、できれば長持ちするパンがいいかな……どれにしよう……」
「……僕も手伝います」
迷っている様子のかづなを見るに見かねたのか、純也がトングを持っておさげの少女の隣に並ぶ――
その時、襲撃は来た。
「――伏せろッ!」
創志が鋭い叫びを発すると同時、ガシャァァァンと盛大な音を立ててガラス戸が砕け散る。
砕かれたガラスの破片は、ひとつひとつが鋭利な刃物と姿を変え、店内にいた4人に襲いかかる。曇天から差し込むささやかな光がガラスの破片に乱反射し、幻想的な光景を作り出していたが、それに見入る者は皆無だった。
創志は近くにいたかづなを引き寄せると、その身をかばうように覆いかぶさりながら身を低くする。その2人の前に立った純也は、大型の手甲としても機能するデュエルディスクを盾のように構え、降り注ぐ破片を弾き返した。
奇襲を受けたリアクションとしては、及第点と言える反応だった。
唯一、切だけが反撃に転じていた。
礫のように降り注ぐ破片から脅威度が高いものだけを見定め、器用に避けつつ強引に外へと躍り出る。
サテライトの各地を練り歩き、弱者を助け強者をくじく切の行動は、多くの人間を救う一方で、強者から疎まれても仕方のないものだった。結果、身の程知らずの若者の命を狩り取らんとする脅威に晒されることになったのである。
奇襲など日常茶飯事――そんな世界を、友永切は生き抜いてきた。
ゆえに、切たちを襲った攻撃が遠距離から放たれる火器の類ではないことを見抜いていた。おそらく、棍棒のような鈍器でガラスを殴りつけたのだろう。それはすなわち、襲撃者はすぐ近くにいることを示している。
腰に提げた刀を抜き放ち、素早く周囲を見回す。
(――いた!)
切から見て、右斜め前方10メートルほどの位置に、悠々と直立している影がある。
2メートルに届こうかという長躯は、頭からすっぽりと黒装束に覆われており、その全貌を窺い知ることはできない。
ザリ、と小さな音を立てて、切のわらじが砂を踏む。
相手の真意を問おうと切が口を開く前に、
「――――ッ!」
影が、動いた。
明確な敵意。夕陽を受けて伸びる影をそのまま具現化したかのような存在は、脇目も振らずに切目がけて突進してくる。
(危険じゃが――前に出る!)
対し、両手で刀の柄を握り、下段に構えた切も大地を蹴る。
進む方向は、前。回避ではなく、こちらからも影との距離を詰めにかかる。相手の得物が分からない段階では危険な判断だが、まずは先手を取って気勢を削ぐ、というのが切の狙いだった。下手に攻撃を回避したことによって、かづなや純也、そして怪我人である創志が標的になるのは避けなければならない。
影が切の間合いに入る直前、黒装束の中からギラリと光る刃が顕わになる。
刃渡り10センチメートルほどのナイフだ。
影が左足を踏みこみ、ナイフを握った右腕を振り上げる。
その動作から剣閃がなぞる範囲を見極めた切は、ギリギリのところでナイフを回避したあと、すぐさま黒装束を斬り伏せる覚悟を固める。
刃が煌めき、ナイフが振り下ろされる。
切は疾駆していた身体に急ブレーキをかけると、刃をすんでのところで避ける――
はずだった。
「なっ!?」
瞬間、切は信じられないものを視界に捉える。
黒装束が振り上げた右腕が、あろうことか「伸びた」のだ。
幻や錯覚などではない。ギリギリギリと歯車が回るような音と共に、肘のあたりが強引に引き延ばされていく。
結果、放たれた刃は切の予想よりも前へと食いこみ、その左肩を抉らんと迫る。
「くっ――!」
全身の筋肉が悲鳴を上げることにも構わず、切は攻撃を避けたあと反撃に転じるために前のめりになっていた体を、その場に押し止める。
下段に構えていた刀を即座に構え直し、迫る刃の進行上へと置く。
激突。
防御が間にあったのは奇跡に近い。
白刃がぶつかり合い、独特の音を鳴らす。
両者の力が拮抗し、鍔迫り合いと呼ばれる状況を作り出す。
だが、それは一瞬のことだった。
創志が鋭い叫びを発すると同時、ガシャァァァンと盛大な音を立ててガラス戸が砕け散る。
砕かれたガラスの破片は、ひとつひとつが鋭利な刃物と姿を変え、店内にいた4人に襲いかかる。曇天から差し込むささやかな光がガラスの破片に乱反射し、幻想的な光景を作り出していたが、それに見入る者は皆無だった。
創志は近くにいたかづなを引き寄せると、その身をかばうように覆いかぶさりながら身を低くする。その2人の前に立った純也は、大型の手甲としても機能するデュエルディスクを盾のように構え、降り注ぐ破片を弾き返した。
奇襲を受けたリアクションとしては、及第点と言える反応だった。
唯一、切だけが反撃に転じていた。
礫のように降り注ぐ破片から脅威度が高いものだけを見定め、器用に避けつつ強引に外へと躍り出る。
サテライトの各地を練り歩き、弱者を助け強者をくじく切の行動は、多くの人間を救う一方で、強者から疎まれても仕方のないものだった。結果、身の程知らずの若者の命を狩り取らんとする脅威に晒されることになったのである。
奇襲など日常茶飯事――そんな世界を、友永切は生き抜いてきた。
ゆえに、切たちを襲った攻撃が遠距離から放たれる火器の類ではないことを見抜いていた。おそらく、棍棒のような鈍器でガラスを殴りつけたのだろう。それはすなわち、襲撃者はすぐ近くにいることを示している。
腰に提げた刀を抜き放ち、素早く周囲を見回す。
(――いた!)
切から見て、右斜め前方10メートルほどの位置に、悠々と直立している影がある。
2メートルに届こうかという長躯は、頭からすっぽりと黒装束に覆われており、その全貌を窺い知ることはできない。
ザリ、と小さな音を立てて、切のわらじが砂を踏む。
相手の真意を問おうと切が口を開く前に、
「――――ッ!」
影が、動いた。
明確な敵意。夕陽を受けて伸びる影をそのまま具現化したかのような存在は、脇目も振らずに切目がけて突進してくる。
(危険じゃが――前に出る!)
対し、両手で刀の柄を握り、下段に構えた切も大地を蹴る。
進む方向は、前。回避ではなく、こちらからも影との距離を詰めにかかる。相手の得物が分からない段階では危険な判断だが、まずは先手を取って気勢を削ぐ、というのが切の狙いだった。下手に攻撃を回避したことによって、かづなや純也、そして怪我人である創志が標的になるのは避けなければならない。
影が切の間合いに入る直前、黒装束の中からギラリと光る刃が顕わになる。
刃渡り10センチメートルほどのナイフだ。
影が左足を踏みこみ、ナイフを握った右腕を振り上げる。
その動作から剣閃がなぞる範囲を見極めた切は、ギリギリのところでナイフを回避したあと、すぐさま黒装束を斬り伏せる覚悟を固める。
刃が煌めき、ナイフが振り下ろされる。
切は疾駆していた身体に急ブレーキをかけると、刃をすんでのところで避ける――
はずだった。
「なっ!?」
瞬間、切は信じられないものを視界に捉える。
黒装束が振り上げた右腕が、あろうことか「伸びた」のだ。
幻や錯覚などではない。ギリギリギリと歯車が回るような音と共に、肘のあたりが強引に引き延ばされていく。
結果、放たれた刃は切の予想よりも前へと食いこみ、その左肩を抉らんと迫る。
「くっ――!」
全身の筋肉が悲鳴を上げることにも構わず、切は攻撃を避けたあと反撃に転じるために前のめりになっていた体を、その場に押し止める。
下段に構えていた刀を即座に構え直し、迫る刃の進行上へと置く。
激突。
防御が間にあったのは奇跡に近い。
白刃がぶつかり合い、独特の音を鳴らす。
両者の力が拮抗し、鍔迫り合いと呼ばれる状況を作り出す。
だが、それは一瞬のことだった。