にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王オリジナルstage 【ep-10 サイドS】

「つまり、かづなと純也は俺たちとは別の世界から来たってことか。ぶっ飛んだ話だとは思うけど、そう考えるとつじつまが合いそうだな。お、このカレーパン美味い。具は少し辛めだけど、生地が分厚いからバランス取れてるな」
「私たちの世界では、サイコデュエリストが変異した形――『ペイン』の存在は一般常識と言っても過言ではないです。『ペイン』に襲われることを避けるために外出を控えるようセキュリティから注意が呼びかけられましたし。私たちの世界で『ペイン』という単語を知らないのは、よっぽどの箱入り娘さんだけだと思います」
「セキュリティ、って組織は共通してるっぽいんだがな」
「はい。でも、私はネオ童実野シティなんて街聞いたことないですし……うーん、このアンドーナツ不思議な食感ですね。どうやって作ってるんでしょうか?」
「とにかく、優先するべきは一緒に飛ばされた仲間の捜索じゃ。創志と一緒にいたのはティト、神楽屋、リソナ、それにバイト先の店長じゃったな? かづなたちは、『しちみ』という女の子に、<スクラップ・ドラゴン>の精霊とはぐれてしまったと」
「ええ……スドちゃんは心配いらないですけど、もし七水ちゃんが1人ぼっちだとしたら、きっと不安になってると思うんです」
「こっちも一般人が交じってるからな。さっきのようなヤツに絡まれでもしてたら危険だ」
「そうじゃな。準備ができ次第、すぐにでも捜索に向かおうかの。しかし、たまにはパンというのも乙なものじゃな! 握り飯一択だった今までの自分を叱ってやりたいの!」
「ここのパンは特別美味い気がするけどな。今度萌子さんに手伝ってもらってパン作りでも挑戦してみるかな……」
「創志君料理するんですか? 何だか意外です」
「そりゃどういう意味だ」

「……………………皆さん、何やってるんですか?」

 懸命に怒りをこらえた純也の冷ややかな声が響き渡る。
 木特有の温かさを最大限に醸し出した、木造の店構え。狭い店内には、少ないスペースを上手に活用し、多種多様なパンが並んでおり、食欲をそそるようなかぐわしい香りを漂わせている。
「「「何って……」」」
 今まで和気あいあいと会話を続けていた創志、かづな、切の3人が声を揃えて首をかしげる
「見て分かんねえか?」
「分かります。けど、理解したくないんです」
 純也がわざとらしくため息を吐いた。
 ペインとのデュエルを終えたあと、怪我を負った創志はかづなの手当てを受けた。出血は派手だったものの、幸い傷自体は深くはなく、適切(?)な応急処置のおかげで大事に至ることはなかった。
 純也はかづなの手伝い。手が空いてしまった切が、1人で周辺の探索に向かったのだが――
 兼ねてから空腹を訴えていた切は、とある木造の建物を発見した。
 荒廃した他の建物と違い、目立った損傷も無くひっそりと佇んでいたその建物からは、香ばしい小麦の香りがぷんぷんと漂ってきていたのだ。
 早い話が、「街の小さなパン屋さん」がそこに在ったのである。
 正面にあるガラス戸から覗ける店内は、綺麗に並べられた無数のトレーの上に、様々なパンが所狭しと並んでいた。嗅覚だけでなく視覚からも空っぽの胃を刺激された切は、残った理性を振り絞って仲間の元へ戻り、パン屋の存在を伝えた。
 切ほどではないものの、ちょうど腹を空かせていた創志とかづなは、何の疑いも無くパン屋へと足を運び、何のためらいもなく食事タイムに突入したというわけだ。
「だって明らかにおかしいでしょう!? 他の建物はみんな荒れ果ててるのに、ここだけ無事でなおかつ焼きたてのパンが並んでるなんて! 店員もいないし、どう考えても罠ですよ!」
「まあそうカリカリすんな、純也。あんぱんでも食って落ち着いたらどうだ?」
「いりませんよ! 毒でも入ってたらどうするんですか!?」
 正しいはずなのに自分が間違っているような空気に耐えられず、純也はこの空間の異常性を訴える。
「まだここがどんな世界も分かっていないのに……軽率な行動は控えるべきだと思いますけど!」
「大丈夫ですよ、純也君」
 すると、柔和な笑みを浮かべたかづなが、諭すような声色で口を開く。
「お金はちゃんと払っておきましたから!」
「そういう問題じゃありません!」
「はっ、そうか。このお店は円が使えるかどうか分かりませんね……これじゃパン屋さんが生活できません。どうしましょう?」
「ペソならあるぞ」
「じゃあ安心!」
「じゃな! 存分に食べまくるのじゃ! むぐむぐ!」
「そんなわけないでしょ!!」
 ひとしきりツッコミを入れてから、純也は頭を抱える。
(全然話が進まない……治輝さんは適度にツッコミ入れてくれてたけど、創志のヤツはさっぱりだ)
 ペインとのデュエルで緊張感を使いはたしてしまったかのように、のほほんとした空気が漂っている。これは非常にまずい。何しろ――

「いつまたペインに襲われるか分からないんですよ?」

 純也の言葉に、手当たり次第にパンを口の中に放り込んでいた切の手が止まる。頬がパンパンに膨れるまでパンを詰めこんでおり、ハムスターのようだ。
「……そうじゃな」
 状況が把握できていない以上、ここは敵地のど真ん中と言っても差し支えない。
 ペインは、サイコデュエリストの変異した形。先程のようにわざわざデュエルを介さなくても、カードの効果を実体化させることで遠距離から攻撃を行うことなどたやすい。ロクな遮蔽物も無く、身を隠すにも反撃にも転じるにも不利な狭い店内からは、一刻も早く立ち去るべきだ。
「……ごめんなさい、純也君。ちょっとはしゃぎすぎてたかもしれません」
「だな。腹も膨れたし、そろそろ出るか」
 ようやく純也の訴えが実を結んだようで、創志とかづなは神妙な顔つきになる。
「創志、怪我は大丈夫かの?」
「大丈夫だって言ってるだろ。傷は深くないのに派手に出血しただけだ」
 創志の額に巻かれた包帯には、未だに血が滲んでいる。それでも、本人がこう言っているのだから、これ以上の休息は不要だろう。
「あ、それじゃあこれからに備えて少しお持ち帰りさせてもらいましょう」
 いいことを思いついたと言わんばかりに手を叩いたかづなが、空のトレーとプラスチック製のトングを持って、持ち帰るパンを選び始める。
「……かづな、ひとつ訊いていいかの?」
 そんな彼女に、ようやく口の中のパンを全て飲みこんだ切が声をかける。
「何ですか?」
「お主は、サイコデュエリストではないんじゃろう? しかし、ペインと戦っている」
「そうです。スドちゃんのサポートがなかったら、満足に戦えないですけどね」
 そう言って、かづなは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。

「怖くは、ないのかの?」