にわかオタクの雑記帳

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ジャッジアイズ 死神の遺言 感想 歪んだ正義を断罪する覚悟

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7までナンバリングタイトルが発売され、外伝作品も含めるとかなりの本数がある、人気長寿シリーズ龍が如く
「ヤクザ」「極道」という自分とは縁もゆかりもないかけ離れた世界を描いているゲームであり、これまでは「こういうのが好きな人にはたまらないゲームなんだろうな」と遠目に眺めているだけでした。なので、評判の良さを耳にしてもあまり食指が動かず、最新作である7でゲームジャンルがアクションからRPGに変わったときに少し興味がわいたものの、結局購入までは至らずスルーしてしまいました。確かその時は別ゲーの発売と被っていたんだっけかな……

 

そんな「機会があったら触れてみたい」スタンスを続けていたところ、某動画を見て俄然意欲が高まりまして。今がその機会なのだとシリーズ作品を購入を決断。ネットで評判を調べ、高評価で時系列的には「龍が如く」の出発点である龍が如く0か、シリーズと世界観を共有した派生作品である「ジャッジアイズ」のどちらを買うかで迷い、単発で完結しているほうが気軽にプレイできるし、沼にどっぷり沈んで時間を溶かすこともないだろうと後者を選択しました。

 


「ジャッジアイズ」というタイトルに覚えがなくても、「キムタクが如く」と聞けばピンとくる人も多いのではないでしょうか。元SMAP木村拓哉氏が主人公の八神隆之を演じたことで話題になった本作。
新宿歌舞伎町をモデルとした、シリーズではお馴染みの舞台「神室町」を、あのキムタクを操作して駆け回り、チンピラ相手に派手なアクションを決めたり、探偵として事件解決に奔走したり、大真面目な顔でバカをやったりできる、それだけで唯一無二を誇れるゲームです。
メインストーリーは神室町で起きた連続殺人事件の謎に迫るシリアス中心の展開が続きますが、サイドケースと呼ばれるサブイベントでは、「変態三銃士」と呼ばれる下着泥棒を捕まえるために依頼者の女性から今履いている下着の柄を訊くキムタクが見られたり、風に飛ばされたカツラを全力疾走で追いかけるキムタクが見られたり、ひょんな事からパイロットのコスプレをすることになり、出演作品のパロディをされるキムタクが見られる等、実にバラエティに富んだシナリオが用意されています。
各種ミニゲームも豊富で、バーチャファイターを始めとした完全に別のゲームを遊ぶこともできます。
自分はあまり寄り道をせずにメインシナリオを進めてしまったのですが、全てを網羅しようとするとかなりの時間遊べるのではないでしょうか。キャバクラはありませんが、特定の女性キャラとデートを重ねて彼女にすることもできるぞ!

 


アクションが苦手な自分でも、難易度とイージーに下げればボタン連打で何とかなるし、さらに簡単になるベリーイージーも用意されている親切設計。
ミニゲームやサブシナリオのほとんどはプレイしなくても本編に支障はないので、本編だけ追えば20時間前後でクリア出来る、個人的にはちょうどいいボリュームでした。長すぎるとダレちゃうことが多いので……スルーしてしまったサブイベントは、クリア後でも攻略出来ますしね。

 


あと、自分は「ゲーム内で再現された現代日本の都会の町並み」が結構好きでして。初めてそれを自覚したのはペルソナ3をプレイしたときだったかな?
細部は異なれど、有名チェーン店からいかがわしい大人のお店まで歌舞伎町を再現した街は、無意味に散策しているだけでテンション上がるんですよね。店やビルの中まで作り込まれているところも多かったですし。リアルじゃ怪しさから入るのを躊躇してしまう場所も、ゲームなら気軽に踏み込める!
ただ、「京浜同盟」という本筋とは全く関係ないチンピラ集団とのエンカウントのせいで、気軽にお散歩を楽しめないのは残念でした。
1回だけならともかく、倒しても倒してもキリが無い中ボス連中は害悪でしかないよ……
無視することもできますが、そうすると雑魚敵とのエンカウント率が上がる+街の住人からイヤミを言われる八方ふさがりっぷり。RPGではないので、レベル上げて無双も出来ないですしね。

 

 

 

 

 

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証拠を探すサーチモードでは、どこかに潜んだ野良猫を見つける小ネタ要素も

 

気を取り直して、プレイ中に一番感じたのが、ゲームとしての演出の上手さ
実写と比べても違和感の少ない精巧なモデリングに、キムタクを始めとした各キャラの熱演は、映画かドラマを見ているような臨場感がありました。そのままテレビで放映してもいいんじゃないかと思わせてくれるレベル。
そんな臨場感あるイベントシーンから、シームレスでバトルに移行する演出が見事で、自然とコントローラーを握る手に力がこもるほど熱中してしまいました。本当にキムタクがかっけぇんだわ……
他の感想でも多く触れられていますが、物語を進めるにつれて「キムタク」ではなく「八神隆之」として認識が改まっていくキャラクターの魅せ方は、他キャラも含めて素晴らしかったと思います。


そして、メインシナリオについては、ネタバレを含みながら書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まず簡潔に感想を述べるなら、「引き込まれるほど面白かったけど、期待していたものとは少し違った」でしょうか。

 


単なるヤクザ同士の抗争と思われた連続殺人事件が、八神の弁護士人生を終わらせた過去の事件と結びつき、やがてずっと目を背けてきた「真実」を追う覚悟を迫られる。
バラバラだった事件が徐々に繋がっていき、裏に潜んだ国家ぐるみの巨大な陰謀が明らかになっていく中で、八神は相棒の海藤を始めとした信頼できる仲間たちと共に、かつて見捨ててしまった無実の死刑囚を救うために最後まで足掻き、黒幕を追い詰める――
黒幕を明かすだけで終わらない、クライマックスまで盛り上げてくれる展開は、圧倒されたし燃えましたし、事件を追う中で抱えた傷の痛みに苦しみ、それでも乗り越えることを選ぶ八神の感情の揺れ動きは、木村拓哉氏の熱演と、それを表現したモデリングの高さも相まって、痛いほどに伝わってきました。
八神隆之という男は、普段はひょうひょうとしているからこそ、底からわき出る感情の熱さが際立ち、キムタクが演じるに相応しい主人公だったと思います。弁護士として法廷にカムバックする流れは、王道ですがやはりテンション上がりました。

 


ただ、探偵物ということで、伏線を鮮やかに回収し「そうだったのか!」と唸るようなシナリオを勝手に期待してしまっていた自分としては、面白さの方向性が違ったかな、と思ったところもありました。
ジャンルがアクションなので仕方がないとはいえ、捜査方法が暴力による解決とそれでいいのかその場で捕まらないかとツッコみたくなる強引な展開もありましたし、龍が如くとは違う新規タイトルの割りにはヤクザが話の中心に据えられていたり、最後まで正体が隠されている殺し屋「モグラ」の正体も消去法で何となく察することが出来たりと、驚きに関してはやや物足りなさを感じた印象です。
まあ消去法で察せられると書いた割りに、俺は終盤まで星野君がモグラなんじゃないかと疑ってましたがね! だって一見暴力とは無縁の真面目で若い後輩キャラとか怪しいじゃん! さおりさんパートで見せた童貞っぷりで「あれやっぱ星野君じゃないのか? いやでも……」と結構悩んじゃったよ! さおりさんと幸せになってな……

 


シナリオ構成の荒さはやや目立ちましたが、その分を補って余りあるほどのキャラクターの魅力がありました。
最序盤で登場する借金探偵や、黒幕の正体を告げフェードアウトしたかに思われた羽村のカシラなど、ここぞという場面でのキャラの使い方が上手く、主要キャラクターに「出ただけの端役」がいなかったのは歯車の回し方が見事だな、と。
個人的に一番好きなキャラは、前で名前を出したさおりさんですかね。
暗くて冷たいイメージのボサボサ髪の地味な女性が、実は滅茶苦茶美人でしたとか夢がありすぎてたまらんでしょ。甘い和菓子に目がなくて、差し入れのどら焼きを他の人の分まで素早く食べちゃうところとかお茶目で可愛いし、なんでさおりさんは彼女にできんのじゃ……とがっかりする反面、彼女をドレスアップ(着せ替え)してキャバクラに潜入したり、敵側の中心人物にハニートラップを仕掛ける展開になったときは思わずガッツポーズしちゃいました。
ストレートに好意を表現する星野君とはおねショタ……とまでは行かずともいい年の差カップルだと思うので、隙あらばイチャイチャしてほしい。

 

 

 

 

 

 

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メインシナリオは、事件の首謀者こそ死亡してしまったものの、闇に葬られるところだった真実を暴き出し、罪を着せられた死刑囚である大久保のえん罪も晴らすことが出来たというハッピーエンドで幕を閉じます。
八神たちが暴き出した「真実」とは、新薬を使用した無許可の人体実験
多くの人たちが待ち望む、世界を救うと言っても過言ではない「夢の薬」。それはマウス実験では有用性が示されたものの、人に注入すると毒性を発揮し、必ず死亡してしまう欠陥を抱えていました。その薬を完成させるために、被験者にするヤクザを誘拐し秘密裏に繰り返された人体実験――連続殺人事件はそれの隠れ蓑。
完成すれば「救世主」になれる。そのためには、犠牲を生んでもやむを得ない。
そんな歪んだ正義を糾弾し、然るべき裁きを与えるために奔走する八神たちの背中を見ながら、俺はぼんやりと考えていました。

 

果たして、今も苦しむ人々を救うために非道な人体実験を行う彼らの正義を、「狂気」と切り捨てることができるのかと。

 

アドデック9と名付けられた夢の薬がもたらす効能は、アルツハイマー病の根治
認知症の主たる病気であり、未だ根本的な治療法が確立されていないアルツハイマー病。これはゲームの中だけではなく、現代社会が抱える社会問題であり、老人が老人を介護する老々介護など、高齢化社会と言われる現状では、これから先ますます大きくなっていくものです。
親しかった祖父母が、親が、認知症によって記憶を失っていく、自分のことが分からなくなってしまう、異常行動が増える……直視するだけでも辛い現実に、誰もが「治るのなら治したい」と考えるでしょう。自分には直接介護に携わった経験はないものの、祖母の介護を巡って父親と叔母とで大いに揉めた経験があるため、「認知症を治す新薬」なんてものが発表されたら、大手を振って歓迎すると思います。ただでさえ重労働な介護者の負担が、大幅に軽減されるのは間違いないのですから。
今はまだ目を背けられても、このまま歳を重ねていけば、いつかは介護の問題に向き合うときが来ます。その時に、例え認知症になったとしても、完全に治療することができる選択肢があるとないとでは、精神的な負担が天と地ほども違います。まさに人類が求める、夢の薬です。

 

結局、本編中ではアドデック9に含まれた毒性を取り除くことはできず、夢の薬は夢のまま消えていきました。
アドデック9の研究リーダーであり、事件の黒幕の1人だった生野は、その事実を認めることが出来ず、最後は自らにアドデック9を投与し、副作用で死亡しました。彼は最初に行った人体実験――「殺人」を隠匿するために、実験とは無関係な殺人を行っていたこともあり、仮に死亡しなかったとしても、研究者としての道は絶たれていたことでしょう。

 

でも、もしも。

 

アドデック9が……アルツハイマー病を治す新薬が、本当に完成するとしたら?
そのために、犠牲が必要なのだとしたら?
生野が実験の被験者としてヤクザを選んだ理由のひとつに、「悪人なら良心が痛まないから」がありました。自分が行っていることはあくまで「正義」であり、罪のない人を犠牲にしてはならないと。


「この世界に犠牲になっていい人間なんていない」――そう断罪することが、正しいのでしょう。


けれど、その必要悪を重ねた末に、認知症に苦しむ多くの人々が救われるのだとしたら。
生野も、彼をかばった検事正も、アルツハイマー病に苦しめられた過去があります。新薬がもたらす莫大な利権に目がくらんだ連中とは違い、彼らには芯の通った正義があります。
無論、自分が「犠牲者側の当事者」になれば、死人を出す実験を断固として認めるわけにはいかないでしょう。正当な裁きを受けるべきだと声を荒げるはずです。
では、自分が「新薬によって救われる側」、もしくは「何の関係もない第三者」として立った時。
八神のように、真実を追い続けることが出来るのだろうか。
生野を「歪んだ正義にとりつかれた狂気の科学者」と切り捨てることができるのか。
闇を暴いて白日の下に晒しだし、「夢の薬の完成」を潰すことが出来るのだろうか――
「ヤクザなら死んでも良いんじゃないか」「多少の犠牲は仕方ないんじゃないか」と無慈悲な判断を下してしまいそうな自分が顔を覗かせていることに、追い詰められれば化けの皮が剥がれる醜さが見えた気がして、少し自己嫌悪に陥りました。

 

 

 

 

 

 

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ジャッジアイズ、面白かったし主人公の八神隆之はとても魅力的なキャラクターでしたが、「夢の薬」を巡っては、八神の言動とプレイヤーである自分の感情が乖離したりしなかったりする、心のしこりが残るゲームでした。ラスボスの主張としてよくある「地球の環境を守るために人類を滅ぼさなければならんのだ!」みたいな言葉よりも、遙かに現実味があって、心臓をわしづかみされたような錯覚を覚えます。


今も逃げ続けている自分が向き合わなければならない未来を思い、ちょっぴり鬱になる……など。