遊戯王 New stage２ サイドＳ ３－１２

「あたしのターン！」
　ドローしたカードは＜サルベージ＞。これで、十分すぎるほどに準備は整った。
「まずは手札の＜シャドウ・リチュア＞を捨てて効果を発動するわ。デッキから＜リチュア＞と名のついた儀式魔法カードを手札に加える。あたしは＜リチュアの儀水鏡＞を手札に加えるわ」

＜シャドウ・リチュア＞
効果モンスター
星４/水属性/海竜族/攻1200/守1000
水属性の儀式モンスターを特殊召喚する場合、
このカード１枚で儀式召喚のためのリリースとして使用する事ができる。
また、手札からこのカードを捨てる事で、
自分のデッキから「リチュア」と名のついた儀式魔法カード１枚を手札に加える。

　＜リチュア＞を動かしていく上ではお決まりのようなプレイングを進め、儀式魔法カードを手札に加える。
「そして、＜リチュア・アビス＞を召喚！　このカードが召喚に成功した時、デッキから＜リチュア・アビス＞以外の守備力1000以下の＜リチュア＞モンスターを手札に加えることができる！　あたしが手札に加えるのは、＜リチュア・ヴァニティ＞！」

＜リチュア・アビス＞
効果モンスター
星２/水属性/魚族/攻 800/守 500
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「リチュア・アビス」以外の守備力１０００以下の
「リチュア」と名のついたモンスター１体を手札に加える事ができる。

　頭部が鮫になっている奇怪な姿をした半魚人がフィールドに現れ、首から提げていた錨型のペンダントを指で弾く。キン、という金属音が響くと同時、紫音のデッキから１枚のカードが飛び出す。サーチした＜リチュア・ヴァニティ＞だ。
「早速＜ヴァニティ＞の効果を使うわ。このカードを手札から捨てることによって、相手は＜リチュア＞と名のついた儀式魔法カードの発動と、＜リチュア＞と名のついた儀式モンスターの召喚に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を発動することができなくなる！」

＜リチュア・ヴァニティ＞
効果モンスター
星２/水属性/水族/攻1000/守 800
自分のメインフェイズ時に、このカードを手札から捨てて発動する事ができる。
このターン、相手は「リチュア」と名のついた儀式魔法カードの発動に対して
魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事ができず、
「リチュア」と名のついた儀式モンスターが儀式召喚に成功した時、
相手は魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事ができない。

　つまり、儀式召喚を妨害されることが無くなる、というわけだ。
「くそ……気付いてやがったか」
「当然でしょ。＜ナチュル・マンティス＞は通常召喚を封じていたけど、その＜ホーストニードル＞は特殊召喚を妨害できるのよね」
　＜ナチュル・ホーストニードル＞の効果への対策をしないまま儀式召喚を行えば、それこそ相手の思うつぼだ。だから＜リチュア・ヴァニティ＞を手札に加えた。
「＜サルベージ＞を発動！　墓地から攻撃力1500以下の水属性モンスター……＜シャドウ・リチュア＞と＜リチュア・ヴァニティ＞を回収」

＜サルベージ＞
通常魔法
自分の墓地に存在する攻撃力１５００以下の水属性モンスター２体を手札に加える。

　＜シャドウ・リチュア＞は儀式魔法カードをサーチするほかにも、重要な効果がある。
「こっからが本番！　＜リチュアの儀水鏡＞を発動っ！　回収した＜シャドウ・リチュア＞をリリースして、＜イビリチュア・ソウルオーガ＞を儀式召喚するわ！」

＜リチュアの儀水鏡＞
儀式魔法
「リチュア」と名のついた儀式モンスターの降臨に必要。
手札・自分フィールド上から、儀式召喚するモンスターと
同じレベルになるようにモンスターをリリースしなければならない。
また、墓地に存在するこのカードをデッキに戻す事で、
自分の墓地に存在する「リチュア」と名のついた儀式モンスター１体を選択して手札に戻す。

　紫音のフィールドにリチュアの紋章が浮かび上がり、その中心から水柱が立ち上る。
　水柱から飛び出してきたのは、紫色のヒレを生やした魚人＜イビリチュア・ソウルオーガ＞だ。ズン！　と重厚な音を立てながら、高レベルの儀式モンスターにふさわしい威圧感を纏いつつ着地する。

＜イビリチュア・ソウルオーガ＞
儀式・効果モンスター
星８/水属性/水族/攻2800/守2800
「リチュア」と名のついた儀式魔法カードにより降臨。
１ターンに１度、手札から「リチュア」と名のついたモンスター１体を捨てる事で、
相手フィールド上に表側表示で存在するカード１枚を選択して持ち主のデッキに戻す。

「確かに強そうなモンスターだが、随分と手札消費が激しいじゃねえか！　虎子の場には２枚の伏せカードがあるんだぜ？　そいつがやられちまったら後がないんじゃないか？」
「そうだそうだー」
　＜イビリチュア・ソウルオーガ＞を見た隆司が、鼻を鳴らしながら馬鹿にしてくる。
「はん。手札１枚のあんたに言われたくないわ。＜ソウルオーガ＞の効果で、手札の＜リチュア・キラー＞を捨てて相手フィールド上の表側表示カードを１枚デッキに戻すわ」
　挑発を軽く流す。まともに付き合って神経をすり減らすのも馬鹿らしい……ちょっと気付くのが遅かった気がするが。
　紫音は隆司のフィールドに目を向ける。そこには２体のモンスターがいる。
　ダメージを狙うなら当然攻撃力の低い＜ナチュル・フライトフライ＞を残すべきだが、＜ナチュル・ホーストニードル＞の効果は厄介だ。加えて、＜ナチュル・フライトフライ＞を３体墓地に揃えさせるのは危険な匂いがする。レベルと攻撃力の低い＜ナチュル・フライトフライ＞は蘇生が容易で、再び＜地獄の暴走召喚＞を使われてはたまらない。
「対象は……＜ナチュル・フライトフライ＞！　やりなさい＜ソウルオーガ＞……デモン・ファウンテン！」
　主人の指示を受け、＜イビリチュア・ソウルオーガ＞が右手で虚空を薙ぐ。
　瞬間、自由に飛びまわっていた＜ナチュル・フライトフライ＞の真下から、狙いすましたかのように濁流が噴き出す。
　濁流に呑まれたフルーツバエは上空に打ち上げられ、光となって隆司のデッキに戻っていく。
「……＜ソウルオーガ＞の効果を使う必要はあったのか？　そいつ１体じゃ、どうがんばってもダイレクトアタックを通すことはできないぞ」
「＜ナチュル＞は複数並ぶと厄介、ってことが分かったから。手札を切るのは痛いけど、今後のことを考えたらフィールドに残しておかないほうがいいんじゃない？」
「……それも一理あるか」
　朧が口を挟みたくなったのも分かる。少ない手札を消費してまで＜イビリチュア・ソウルオーガ＞の効果を使うべきだったのかは迷うところだが、ここは自分の判断を信じることにする。
「バトルフェイズよ。＜ソウルオーガ＞で＜ホーストニードル＞を攻撃！」
「ちっ……虎子！」
「ここは耐えてアニキ！」
「薄情だな妹！　そんなとこも好きだぜ！」
　言葉通り、虎子の伏せカードが発動する様子はない。
　魚人は両手の爪を剥き出しにすると、鋭く研ぎ澄まされたそれでデフォルメされた蜂を切り裂く。
　逃げる間もなく裂かれた＜ナチュル・ホーストニードル＞は、粉々に砕け散る。
「…………ッ！」

【隆司・虎子ＬＰ5600→4600】

　ようやく初ダメージが発生する。紫音のターンはまだ２回目だが、ここまでとても長く感じた。
「……おい。もじゃもじゃ」
「もじゃもじゃって誰のことかしら？　あたしには上凪紫音って名前がある、って言ったはずだけど」
「じゃ、紫音」
　今までとは打って変わって、真剣な口調で紫音の名を呼ぶ隆司。
「……何よ」
「お前もサイコデュエリストなんだろ？　なんで力を使わなかった？」
　隆司から、子供とは思えないほどの凄味が伝わってくる。それを察したのか、虎子も押し黙る。
「なんでって……だってデュエルにサイコパワーなんていらないでしょ。相手が使ってきたならともかく、こっちからわざわざ力を使って相手を傷つける理由が見当たらない。あたしはきちんと力を制御できるし」
　質問の意図がよく分からなかったので、思ったままを伝える。
　紫音が光坂に教えを乞いてサイコパワーを操れるようにしたのは、エリアを取り戻すために戦うことが必要になると思ったからだ。普通のデュエルで全て解決できるなら、サイコデュエリストになることなどなかった。
「……アニキ」
「――ハァ。セシルあたりが聞いたら、怒り狂いそうなセリフだな。まあいいや。さっさと進めてよ」
　隆司は含みのあるため息を吐くが、それ以上喋ろうとはしない。
「……ったく、何なのよ。あたしはこのままターンを終了するわ」
　いきなり意図の読めない質問をされ、勝手に失望された。納得がいかなかったが、ここで隆司を問い詰めても答えてくれない気がする。隣で朧が渋い顔をしているのも気になる。
　が、考えても答えが出そうにないのでここはスルーすることにしよう。

【朧・紫音ＬＰ4000】
朧：手札６枚
場：ヴァイロン・シグマ（攻撃：魔導師の力、アームド・チェンジャー、ヴァイロン・コンポーネント装備）
紫音：手札１枚
場：リチュア・アビス（攻撃）、イビリチュア・ソウルオーガ（攻撃）、伏せ１枚

【隆司・虎子ＬＰ4600】
隆司：手札１枚
場：リミット・リバース（発動済み）
虎子：手札３枚
場：裏守備モンスター、伏せ２枚