にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 3-11

「落ち着きなさいよ、朧。あいつらには何を言っても無駄なんでしょ?」
 完全に頭に血が上っている朧を見て、紫音は逆に冷静になることができた。
「俺は落ち着いてる!!」
 これはダメだ。
 泥酔している人間に向かって「酔ってます?」と訊いて「酔ってないよ~」と返ってきたときと同じ感じがする。
「……フェイも見てるのよ」
 その言葉に朧がハッとなる。
 フェイは無人となった露店の中にあった椅子に腰かけ、デュエルの様子を固唾を飲んで見守っている。あの位置だとこちらの話し声は聞こえないはずだが、先程の朧の怒鳴り声なんかは筒抜けだろう。
「チッ……悪い。ちょっとカッカしちまった」
「ちょっとどころじゃないでしょ。……ま、お互い様だけどね」
 フェイの名前が出た途端急速に頭が冷えたようなので、これ以上の追及は無しにする。
「俺のターン、ドロー! こいつはいいカードを引いたぜ! 調子乗ってられるのも今のうちだぞ朧!」
 その内にも隆司はさっさとフェイズを進め、
「リバースカードオープン! <リミット・リバース>! このカードの効果で、墓地の<ナチュル・フライトフライ>を攻撃表示で特殊召喚するぞ!」

<リミット・リバース>
永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 頭がプルーン、胸がぶどう、腹部がイチゴで身体を為している虫型のモンスターが現れる。おそらくはハエがモデルになっているのだろうが、一般的にハエに感じるような嫌悪感を一切排除したような可愛らしいモンスターだった。<ナチュル・マンティス>に通じるものがある。紫音の胸が自然とときめいたが、今度は態度に出さないよう我慢する。

<ナチュル・フライトフライ>
効果モンスター
星3/地属性/昆虫族/攻 800/守1500
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターの
攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在する
「ナチュル」と名のついたモンスターの数×300ポイントダウンする。
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在する
守備力が0のモンスター1体のコントロールを
エンドフェイズ時まで得る事ができる。

(墓地にいたってことは、さっきの<レインボー・ライフ>のコストとして捨ててたのか)
「<フライトフライ>が特殊召喚に成功した時、手札から<地獄の暴走召喚>を発動! 特殊召喚したモンスターと同名モンスターを、手札、デッキ、墓地から全て特殊召喚する! ついでに朧の<ヴァイロン・シグマ>も同名モンスターがいれば出していいぜ!」

<地獄の暴走召喚>
速攻魔法
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に
攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から
全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

「チッ……」
 <ヴァイロン・シグマ>はシンクロモンスターであるため、蘇生可能な状態で墓地にいない限りは同名モンスターの特殊召喚はできない。というか、たぶん<ヴァイロン・シグマ>は1枚しかエクストラデッキに入っていないだろう。
「俺はデッキから2体の<フライトフライ>を攻撃表示で呼び出すぜ!」
 紫音の場に表側表示のモンスターがいればそちらを選択する事も出来たが、<ナチュル・マンティス>が存在していた前のターンではそれも難しい。結局、隆司だけに有利な状況を作り出してしまった。
 羽音を響かせながらゆっくりと飛び回る3体の<ナチュル・フライトフライ>。
「これで<フライトフライ>の本領が発揮できる!」
「――ッ!? <ヴァイロン・シグマ>が!?」
 朧が驚きの声を上げる。見れば、機械天使の両腕が力無く垂れ下がり、無機質な青色の瞳からは光が消えている。
「<フライトフライ>は、相手のモンスターの攻撃力・守備力を、自分フィールド上の<ナチュル>と名のついたモンスターの数×300ポイントダウンさせる! 今、俺のフィールドには3体の<ナチュル>がいて、3体分の効果が合わさった結果、2700ポイント攻守をダウンさせてるんだぜ」
「やったねアニキ! これで<シグマ>の守備力はゼロだよ!」
「……守備力?」
 喜ぶ虎子の言葉に、違和を感じる。<ヴァイロン・シグマ>は攻撃表示なのだから、下がってうれしいのは攻撃力ではないか。
 その疑問の答えは、隆司が明かした<ナチュル・フライトフライ>の2つ目の効果によって判明した。
「<フライトフライ>の第2の効果を発動! 1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在する守備力0のモンスターを、エンドフェイズまで得ることができる――お前の<ヴァイロン・シグマ>、頂くぜっ!」
「なっ……!?」
 3体の<ナチュル・フライトフライ>が弱体化した<ヴァイロン・シグマ>の周りをうるさく飛び回る。すると、<ヴァイロン・シグマ>の背部にあった翼が開き、3匹のフルーツバエに誘導されながら、徐々に隆司のフィールドに移動していく。
「――冗談じゃない!」
 <ナチュル・フライトフライ>の攻守ダウン効果が適用されるのは「相手フィールド上の表側表示モンスター」。つまり、隆司にコントロールが移ってしまえば、攻撃力・守備力は元に戻る。装備魔法で強化された状態に、だ。
 そうなる前に、紫音は動いた。
「罠カード<狡猾な落とし穴>を使うわ! 破壊するモンスターは、当然<フライトフライ>2体よ!」

<狡猾な落とし穴>
通常罠
フィールド上に存在するモンスター2体を破壊する。
自分の墓地に罠カードが存在する場合、このカードは発動できない。

 紫音の場のリバースカードが頭を上げると、せっせと<ヴァイロン・シグマ>を誘導していた<ナチュル・フライトフライ>の真下に、ぽっかりと穴が開く。
 飛んでいるフルーツバエには落とし穴など意味がないはずだったが、穴の上空には特殊な重力が働いており、それを受けた2体の<ナチュル・フライトフライ>が落下していく。
「……まだ序盤だから、墓地に罠カードがなかったんだ」
「その通りよ。最も、中盤以降に発動する術は用意してあるけど」
 虎子の指摘に、紫音は補足をつけ加えつつ頷く。<狡猾な落とし穴>はフィールド上のモンスター2体を破壊できる強力なカードだが、墓地に罠カードがあると発動できないと条件が厳しい。
「これで<フライトフライ>の効果は1体分のみ! <シグマ>の守備力は0じゃなくなるから、コントロールを奪うことはできない!」
「くっ……!」
 このタッグデュエルが始まって初めて、隆司の顔が悔しそうに歪む。
「悪い! 助かったぜ、紫音」
「あんたが集中攻撃されてライフがゼロになれば、あたしも負けなんだからね。しっかりしてよ、もう」
 そう言って紫音は口を尖らせる。普段ならここで口喧嘩に発展するところだが、先程頭を冷やしたばかりなので、朧が「ああ」と頷いただけでやり取りが打ち切られる。
「……でも、俺はまだ通常召喚してない! <ナチュル・ホーストニードル>を召喚!」
 隆司は残り2枚となった手札の片方を選び取り、フィールドに繰り出す。
 他の<ナチュル>モンスターと同様にかわいらしくデフォルメされた蜂が、つぶらな瞳をせわしなく動かしながら、残された<ナチュル・フライトフライ>の近くを飛ぶ。

<ナチュル・ホーストニードル>
効果モンスター
星4/地属性/昆虫族/攻1800/守 100
相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、
このカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
「ナチュル」と名のついたモンスター1体をリリースして発動する事ができる。
そのモンスターを破壊する。

 <ナチュル・ホーストニードル>が召喚されたことで、<ヴァイロン・シグマ>の攻守は600ポイントダウンし、2700と1900。コントロール奪取どころか、戦闘破壊すらもままならない数値だ。
「……俺の邪魔をした罪は重いぞ! バトルフェイズ、<ホーストニードル>でもじゃもじゃのモンスターを攻撃!」
 矛先がこちらに向く。
 <ナチュル・ホーストニードル>が不規則な軌道で飛び回り、尻尾の針で紫音の裏守備モンスターを突き刺す。
 セットモンスターがリバースし、黒のローブを纏った青髪の魔術師――<リチュア・エリアル>が姿を現す。

<リチュア・エリアル>
効果モンスター
星4/水属性/魔法使い族/攻1000/守1800
リバース:自分のデッキから
「リチュア」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

 <リチュア・エリアル>は手にした杖を正面に構え、防御用の魔法陣を展開させる。
 <ナチュル・ホーストニードル>の攻撃力と<リチュア・エリアル>の守備力は互角。通常ならこのまま戦闘が終了するはずだが、そう上手くはいかない。
「<フライトフライ>の効果だ。そいつの攻守も下がるぜ!」
 針の勢いに押された魔術師はガクリと膝を突き、魔法陣を突破されその体を貫かれてしまう。
「……ッ」
 やはり、いい気分ではない。<ナチュル>モンスターの愛らしさに見とれていた浮つく気持ちが一気に吹き飛んだ。
「……<エリアル>のリバース効果で、デッキから<リチュア>の名のついたモンスター――<シャドウ・リチュア>を手札に加える」
「ちぇっ、リバースモンスターかよ。攻撃して損した。ターンエンド!」
 八つ当たりするような口調でターンの終了を宣言する隆司。
(……言葉を真似るなら、<エリアル>を破壊した罪は重い、ってとこね。相手が調子づく前に、このまま叩き潰す!)
 紫音は反撃の口火を切るために、指先に力を込めた。

【朧・紫音LP4000】
朧:手札6枚
場:ヴァイロン・シグマ(攻撃:魔導師の力、アームド・チェンジャー、ヴァイロン・コンポーネント装備)
紫音:手札4枚
場:伏せ1枚

【隆司・虎子LP5600】
隆司:手札1枚
場:ナチュル・フライトフライ(攻撃・リミット・リバース蘇生)、ナチュル・ホーストニードル(攻撃)
虎子:手札3枚
場:裏守備モンスター、伏せ2枚