にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 3-14

「そろそろ決めないとリーダー様が帰ってきちまうかもな……ドロー!」
 ドローしたカードを見た隆司が、品の悪い笑みを浮かべる。たちの悪いいたずらを思いついた時のような笑顔だった。
「あーあ、朧の<ヴァイロン・シグマ>が強すぎて倒せねえや……しょうがねえから自爆特攻でもするかなぁ。<ナチュル・ドラゴンフライ>を召喚だ」
 投げやりな態度が、いかにも演技くさい。
 召喚されたのは、頭がさくらんぼ、体がどんぐりで、そこから伸びた枝が尻尾になっているトンボだった。

<ナチュル・ドラゴンフライ>
効果モンスター
星4/地属性/昆虫族/攻1200/守 400
このカードは攻撃力2000以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。
このカードの攻撃力は自分の墓地に存在する
「ナチュル」と名のついたモンスターの数×200ポイントアップする。

「<ナチュル・ドラゴンフライ>は、墓地の<ナチュル>と名のついたモンスターの数だけ、攻撃力が200ポイントアップするぜ。俺の墓地に<ナチュル>は4体。よって、攻撃力は800ポイント上がって、ちょうど2000だ」
 <ナチュル・ドラゴンフライ>の尻尾の先に、鮮やかなたんぽぽの花が咲く。
 <ヴァイロン・ソルジャー>の攻撃力は上回っているが、仮に攻撃が通ったとしても与えられるダメージは300ポイント。トドメを刺すには至らない。
「……魔法カード<ナチュルの蜂蜜>を発動だ。フィールド上に<ナチュル>と名のついた植物族モンスターが存在するとき、自分のデッキからレベル4以下の<ナチュル>と名のついた昆虫族モンスターを特殊召喚できる」

<ナチュルの蜂蜜>
通常魔法(オリジナルカード)
フィールド上に<ナチュル>と名のついた植物族モンスターが表側表示で存在するとき、
発動することができる。
自分のデッキからレベル4以下の<ナチュル>と名のついた昆虫族モンスター1体を、
自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはリリースすることができず、シンクロ召喚には使用できない。

「野郎……ッ! 自爆特攻ってやっぱりそういうことかよ!」
 朧が何かに気付いたように声を上げる。それを見た隆司の口元が、ニヤリと吊り上がった。
特殊召喚するモンスターは……<ナチュル・モスキート>! こいつがフィールド上に存在する限り、他の<ナチュル>の戦闘で発生するダメージは相手が受けるんだぜぇ!」
「なっ……!?」
 カラフルな彩色の蚊がフィールドに現れ、紫音もようやく事態の深刻さを理解する。

<ナチュル・モスキート>
効果モンスター
星1/地属性/昆虫族/攻 200/守 300
自分フィールド上にこのカード以外の
「ナチュル」と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、
相手はこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。
このカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
「ナチュル」と名のついたモンスターの戦闘によって発生する
自分への戦闘ダメージは、代わりに相手が受ける。

「しかも<ナチュル・ドラゴンフライ>は攻撃力2000以上のモンスターとの戦闘では破壊されない! さあ、バトルフェイズに入るぜえええええ!」
「やっちゃえアニキ!」
 隆司が言った「自爆特攻」の意味――それは、<ナチュル・ドラゴンフライ>で<ヴァイロン・シグマ>に攻撃を仕掛けること。そして、その戦闘で発生するダメージは、<ナチュル・モスキート>の効果でこちらが受けることになる。
 <ヴァイロン・シグマ>の高い攻撃力が、またしても仇となる。このままでは、3600ポイントの戦闘ダメージが発生することになる。
「<ドラゴンフライ>で<シグマ>を攻撃だ! これで終わりぃ!」
 <ナチュル・ドラゴンフライ>が、宙を旋回しながら<ヴァイロン・シグマ>に接近していく。
 この攻撃が通れば、紫音たちの敗北が確定する。だが、紫音の場に朧をサポートできるカードはない。
「ちょっと朧! 何とかしなさいよ! あたしは自分の身は自分で守ったわよ! <海底神殿>で<アビス>除外して!」
 慌てる紫音に対し、朧は冷静だった。
「それは俺の<ヴァイロン・シグマ>がいたから守れたんだろうが。まあ、言われなくても何とかするつもりだ! <ドラゴンフライ>の攻撃宣言時に<ディメンション・ウォール>を発動する!」

<ディメンション・ウォール>
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、
かわりに相手が受ける。

「な、何だよそのカード!? 前は入ってなかったぞ!?」
 はっきりと隆司の目が泳ぐ。
「<モスキート>の凶悪さは身に沁みて理解してるからな。それに、高攻撃力の<ヴァイロン>は除去されることがほとんどで、場ががら空きになることが多い。だからこのカードを入れた」
 <ナチュル・ドラゴンフライ>が果敢に体当たりを仕掛けるが、巨大化した<ヴァイロン・シグマ>はそれを右腕一本で払いのける。
 バチン! と地面に叩きつけられた<ナチュル・ドラゴンフライ>は、それでもふらふらと飛び上がり、隆司のフィールドに戻っていく。
 ここで<ナチュル・モスキート>の効果が発動し、この戦闘で発生した3600ポイントのダメージは、相手――紫音と朧が受けることになる。
 だが、朧が発動した<ディメンション・ウォール>により、こちらが受けるはずだった戦闘ダメージを再度跳ね返す。

【隆司・虎子LP4600→1000】

「自爆特攻したかったんだろ? 攻撃が成功してよかったな」
「ちっくしょう!」
 目論見を外された隆司が。悔しげに地団駄を踏む。
「アニキ……」
「くそ、ターンエンドだ!」

【朧・紫音LP1000】
朧:手札4枚
場:ヴァイロン・シグマ(攻撃:魔導師の力、アームド・チェンジャー、ヴァイロン・コンポーネント、巨大化装備)、ヴァイロン・ソルジャー(攻撃)
紫音:手札1枚
場:忘却の海底神殿

【隆司・虎子LP1000】
隆司:手札0枚
場:ナチュル・ドラゴンフライ(攻撃)、ナチュル・モスキート(守備)、リミット・リバース(発動済み)
虎子:1枚
場:ナチュル・パンプキン(攻撃)、ナチュル・ホワイトオーク(攻撃)、裏守備モンスター

「あたしのターン!」
 絶好のチャンス到来だ。
 隆司、虎子の場には伏せカードはなく、残りライフポイントは互角。
 しかし、紫音の場にモンスターは存在せず、手札は<リチュア・ヴァニティ>1枚だけ。<忘却の海底神殿>の効果で除外した<リチュア・アビス>が戻ってくるのはエンドフェイズであり、サーチ効果が発動できるのはこのターンが終わってからだ。
 さらに、ライフポイントが並んだことによって、<ヴァイロン・シグマ>に装備された<巨大化>が効果を失っている。<魔導師の力>のおかげで3800という高い攻撃力を維持しているものの、脅威がダウンしたことには変わりない。
 虎子にターンが回り、もう一度<ガオドレイクのタテガミ>のような攻撃力上昇カードを使われ<ヴァイロン・ソルジャー>が狙われれば、今度こそ防ぐ手立てはないだろう。
 このターンで決めるしかない。
 何より、いいところを全部朧に持って行かれているのが気に食わなかった。
 朧の言った通り、今までの戦術は全て「強化された<ヴァイロン・シグマ>が存在する」ことが前提で機能してきた。<ヴァイロン・シグマ>がいなければ、すでに負けていたかもしれない。
(せめて、最後くらいは――!)
 紫音は強く念じ、カードをドローする。
 この状況からフィニッシュまで持って行けるカードは限られている。

「――魔法カード<契約の履行>を発動ッ! ライフを800ポイント支払い、墓地に存在する儀式モンスター1体を特殊召喚する!」

<契約の履行>
装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

 紫音は、その内の1枚を引き当てた。

【朧・紫音LP1000→200】

「決めるわよ! <イビリチュア・ソウルオーガ>!」
 地面から水柱が噴き上がる。
 その水柱を内側から斬り裂き、姿を現した<イビリチュア・ソウルーガ>。
 胸の部分に埋め込まれた<リチュア>の紋章が煌々と輝き、獲物に飢えた瞳をぎらつかせる。
「……くそったれが!」
「この場面でそんなカードを引いてくるなんて、すごい……」
 双子がそれぞれ違った反応を見せる。隆司は紫音の幸運を呪うように、虎子は尊敬するように、言葉を漏らす。
 最早小細工は必要ない。
 この攻撃を通し、デュエルを終わらせる。
「――さっきのお返しよ! <ソウルオーガ>で<ナチュル・パンプキン>を攻撃!」
 瞬間、<イビリチュア・ソウルオーガ>の爪先から水流が噴き出し、水の刃を形成する。
 底知れぬ怒りを秘めた魚人が、カボチャの妖精に向かって跳ぶ。
 爆発的な跳躍力で一気に両者の距離を詰め、両手を同時に振り上げる。
 このタッグデュエルのルールでは、自分フィールド上全体に効果を及ぼす永続効果は、パートナーのフィールドには適用されない。<ナチュル・モスキート>の効果では、虎子を守ることはできないのだ。
サファイア・クロス!」
 水の刃が、<ナチュル・パンプキン>の体を×の字に斬り裂く。

【隆司・虎子LP1000→0】

 カボチャの妖精が砕け散る音が、デュエル終了の合図だった。