にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 3-15

「あーあーあ。負けちまったか」
「惜しかったね、アニキ」
「ま、いい暇つぶしにはなったかもな」
 <イビリチュア・ソウルオーガ>の攻撃前にはあんなに悔しそうにしていたのに、負けた途端に冷めた態度を見せる隆司。
「はん。負け惜しみにしか聞こえないわね。とにかく、あたしのほうがあんたたちより強いってことが証明されたわけだし、今までのクソ生意気な暴言の謝罪を――」
 自分の方が年齢でもデュエルの腕前でも上であることを認識させ、散々苛立たたせた罰として、とりあえず双子が大泣きするまで謝罪させてやろうと考えていた紫音だったが、
「――――」
 その前に、デュエルディスクを展開したままの朧が歩きはじめていた。
「な、なんだよ朧」
 朧は双子の目の前で足を止める。紫音の位置からでは表情は見えないが、隆司と虎子の怯え方から見るに、相当険しい顔をしているようだ。
「ちょっと朧。いきなりどうしたの?」
 紫音は慌てて朧を追いかける。
 思った通り、彼は激しい怒りを内側に溜めこんでいるように見えた。
「……虎子。最初にセットしたモンスターを見せてみろ」
「えっ……?」
 突然の要求に、虎子は戸惑いを見せる。
 その反応はまどろっこしかったのか、朧は展開したままの虎子のディスクから強引にカードを剥ぎ取る。
「てめえ! いきなり何すんだ!」
 隆司の抗議の声も、朧の耳には入っていないようだった。
 裏守備モンスターの正体を知った朧は、ギリ、と歯が砕けそうなほど強く奥歯を噛む。
「……気付いてたか、紫音」
 朧は手に持っていたカードを紫音の方に差し出しながら、

「こいつら、このデュエルで1回もシンクロ召喚を行っていないことに」

 事実を告げた。
「あ……!」
 差し出されたカード――虎子が1ターン目にセットしたカードは、<ナチュル・チェリー>。レベル1のチューナーモンスターだ。
「確かに<ナチュル>は複数のモンスターを並べることで力を発揮するモンスターたちだ。チューナーモンスターがいなくても戦えることは戦える」
 朧が怒っていた理由が分かった。
 虎子の2ターン目、「何か」をしようとした彼女を、隆司は大声で制した。
「だが、俺は知ってる。こいつらの切り札が、シンクロモンスターであることを」
 あれは、<ナチュル・チェリー>を反転召喚して、シンクロ召喚を行おうとしていたのではないか?

 だとしたら、紫音たちは手加減をされたのではないか?

 シンクロモンスターは、優れた効果を持つモンスターがほとんどだ。
 紫音たちの相手をするには、シンクロを使う必要などないと言いたいのだろうか。
 勝利の余韻が一気に消えさり、代わりに舐められたことへの怒りが沸いてくる。
(ふざけないでよ……! がんばったのが馬鹿みたいじゃない!)
 さすがに怒りを抑えるのも限界だ。一発殴って、手加減しないようきつく言ってから再戦しないと気が済まない。
 紫音と朧の雰囲気を感じ取ったのか、
「……わたしたちが手を抜いた、って思ってる?」
「だとしたらそれは間違いだぜ。俺たちは手加減してたわけじゃない」
 隆司が髪をガシガシと掻きむしりながら、深いため息を吐く。
「わたしたちは『清浄の地』に入って強くなった」
「だからリーダー様に言われてるのさ。許可なしにシンクロモンスターを使うなって。何でも、相手の戦意を根こそぎ奪っちまうんだと。俺たちにはそんな気ないのになぁ」
「だね、アニキ」
 双子は互いの顔を見つめ合いながら頷いているが、紫音には隆司の言葉の意味がちっとも理解できなかった。
「なに、それ?」
 シンクロモンスターを出すだけで、相手の戦意を奪う?
 そんなことあるはずない。隣を見れば、朧も戸惑っているようだった。
 サイコパワーは、モンスターを実体化させたり、カードの効果を現実に及ぼしたりすることができる。2人は、相手の精神に干渉するようなカードを持っているということだろうか? そういえば、彼らが行った「人払い」とは、一体どんな方法だったのだろうか?
「……お前たちは、どうして『清浄の地』に入った?」
 紫音が考えているうちに、朧が先に口を開く。
「決まってるじゃん。もっと強くなりたかったからだよ」
「あと、桐谷に誘われたから」
 隆司と虎子は悪びれもせず即答する。
「じゃあ、お前たちは今まで何をしてきた? ――本当に、サイコデュエリストを始末したのか? その手伝いをしたのか?」
 朧は苦しさに顔を歪めながら、体の奥から絞り出すように声を出す。
 本当は訊きたくない。でも訊かなくちゃいけない。
 そんな覚悟が伝わってきた。
 朧は言っていた。「双子は昔の知り合いだ」と。まだ子供である2人が人を殺めていたら、またはその手助けをしていたとしたら……それを黙って見過ごすことはできないだろう。
「それは――」
 朧の言い方が気に食わなかったのか、ムッとした隆司が口を尖らせて言い返そうとする。
 その瞬間だった。

 バキリ、と。

 何もない空間に、亀裂が走る。
 全員の視線がその不可思議な現象へと吸い寄せられる。もちろん、紫音も例外ではない。
 空間に入った亀裂は、バキバキとガラスを砕くような音を響かせながら、その範囲を広げていく。
「な――!?」
 唯一この現象を見たことがないであろう朧が、驚愕の声を上げる。
 だが、紫音には分かっていた。

「お喋りが過ぎるぞ、隆司。しばらく口を閉じていろ」

 亀裂の中から、低い男の声が響く。
 ピリピリと肌が粟立つ。双子のおかげですっかり意識の外に追いやっていた「あの感覚」が蘇る。
 弱者は、呼吸することすら許されないほどのプレッシャー。
 広がった亀裂の中から、喪服を着たオールバックの男が姿を現す。