にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 3-8

「――お前! 負け犬朧!」
「まけいぬ朧!」
「負け犬じゃねえ!」
 即座に双子の言葉を否定したのは、灰色の髪に学ランを着た男――若槻朧だ。
「大丈夫か? フェイ」
「朧……」
「ちょっと休んでろ。俺はガキ共のしつけをしてくるから」
 フェイの傍に屈みこんだ朧は、彼の顔色を確認したあと、優しく背中を叩く。
 そして、紫音の隣に並ぶと、デュエルディスクを展開させた。
「……よくここが分かったわね。やっぱり尾行してたの?」
「やっぱり、ってなんだよ。……あの双子は昔の知り合いだ。あいつらが『人払い』を行った気配を感じたから、急いで駆けつけた」
「ふうん」
 曖昧な返事をしつつも、紫音は朧が尾行していた可能性を捨て切れなかった。
「何があった?」
「あとで説明するわ。とりあえず、あんたはフェイを連れてこの場を離れて。危険よ」
「それはできない相談だな。あの双子はサイコデュエリストだ。俺と同じか、それ以上の力を持つくらいのな。お前1人で相手にするのは荷が重すぎる」
「……っ」
 もたもたしていれば、伊織が戻ってきてしまうかもしれない。それまでには、フェイを連れて逃げていてほしかった。
「……フェイは知らないだろうが、俺はあいつらが『清浄の地』に入ったことを知っている。あいつらがやろうとしているのは、サイコデュエリスト狩りか……または目撃者の口封じ、ってところか」
 苦渋の色を浮かべながら、朧はチラリとフェイを見る。
 朧が来たことで幾分かフェイの表情は明るくなったようだが、濃い疲労と困惑の色は抜けきっていない。
「――それ、本当?」
「話さなかったのは悪かったと思ってる。けど、クレームは後にしてくれ」
 つまり、朧は「清浄の地」のメンバーの居所を知りながら、紫音に隠していたということだろうか?
(……いや、違う。居所を知っていたなら、あの双子がリーダーと一緒にここに来ていたことも知っていた。それなら、絶対にフェイを1人にはしなかったはず)
 ――朧はフェイを大切に思っている。それは間違いないはずだ。
 今は、その思いを信じることにする。
「負け犬は引っ込めよ! 今からそのもじゃもじゃを『くちふうじ』するんだからよー!」
「ひっこめー! ひっこめー!」
 こちらの重苦しい空気などお構いなしに、わあわあと喚く双子。
「……なるほどね。確かに後回しにしたほうがよさそうだわ」
「だろ?」
 額に青筋を浮かべた紫音と朧は、互いの顔を見て頷き合う。

「「まずはあのクソガキどもを泣かす!」」

「タッグデュエルだ! お前らの得意な土俵で勝負してやろうじゃねえか!」
 犬歯を剥き出しにして吠える朧。
(負け犬だのもじゃもじゃだの好き勝手言ってくれちゃって……!)
 本当なら双子のことを口汚く罵ってやりたかったが、年上の威厳を保つためにグッとこらえる。
「アニキ、タッグデュエルだって。面白そうじゃない?」
「うぐ、でも『くちふうじ』は……」
「それはデュエル終わってからでもいいじゃん! やろうやろう!」
 今までは兄の意見に同調するだけだった妹の虎子が、顔をほころばせながら飛び跳ねる。それだけを見たら、年相応の少女にしか見えない。
「虎子がそう言うなら、受けて立つか! 負け犬朧なんてコテンパンにしてやろうぜ!」
「ついでにもじゃもじゃもね!」
「だから負け犬じゃねーっての! クソ、真理の野郎……!」
「このもじゃもじゃはパーマなの! ファッションなの!」
 4人それぞれが言いたいことを好き勝手言いながらも、
「じゃあ、タッグデュエルスタートだぜ!」
「わーい! わたしがんばる!」
「足引っ張るんじゃねえぞ、紫音!」
「こっちのセリフ!」
 つい数分前までまき散らされていた圧迫感など忘れさられたかのように、和やかにタッグデュエルが始まった。